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第四話 これは全部村長の家に持っていくか……。食えるかどうかくらい知ってるだろう




 昨日、川に仕掛けた罠に結構な数の魚や蟹がかかった。馬鹿みたいにかかった。罠として用意した餌付きの籠を川に沈める最中に、中に仕掛けた餌をつつき始めてる魚がいたんだけど……、そのままあげて帰ろうかと思ったくらいだ。


 漁師がいないというか、この川で魚を獲ってる奴を見た事が無いんだが、この魚、本当に食っても大丈夫なんだろうな?


「これは全部村長の家に持っていくか……。食えるかどうかくらい知ってるだろう」


 罠にかかった魚は一匹残らず内臓を処理して腹の中を良く洗っておいた。流石に川魚の内臓は食わないだろうしな。元の世界でニジマスを処理したときと同じ方法にしたんだが同じような魚だ、こっちの世界でもそこまで違いはねぇだろうぜ。


 この辺りの寄生虫の危険性や毒があるかどうかだが、流石にそのあたりは村長に聞くしかない。


 寄生虫や毒が怖いのはどっちかと言えば魚よりは蟹だろうか? 食えるんだったら塩茹で決定なんだけどな……。こいつは生きてるからマジックバックには入らないので、大き目の籠の中にまとめて入れている。


 さて、村長の所に持っていくか。


◇◇◇


「おお!! 山鶏(やまどり)だけでなくこれほど大量の魚を獲ってこれるとは……。おぬし、本当に何者だ?」


 たかが数十匹の魚と蟹五匹程度で大げさだな。


 この反応から考えりゃ、この魚や蟹は食えるって事でいいのか?


「あの川周辺には大量に葦が生えてますし、罠を作って仕掛ける位なんでも無いですよ。餌なんてそれこそ茶豚鼠(スロマ)の切り身でいいですし」


「こんな寒村に住む者がそんな知識を持つ訳がなかろう。畑仕事でさえ長年の試行錯誤の末に何とかやっていけとる有様じゃぞ」


「だからあの川で漁をしてる人が誰もいなかったんですね……」


 全然魚がすれてない上に入れ食い状態だったしな。


 三ヶ所罠を仕掛けて三ヶ所ともぎっしり魚や蟹が詰まってたよ。今後の事も考えて、小さいサイズの蟹は逃がした。


「これはブナマスじゃな。まだ幼魚のサイズではあるが、成長すれば一メートルを超える大きさまで成長する魚じゃ。このブナマスだけではなく、あの川の魚は基本なんでも食えるぞ。蟹もよく火を通せば大丈夫じゃ」


「流石に川魚や蟹ですからね。蟹は茹でるだけでも大丈夫ですか?」


「うむ。全体が赤くなるまで茹でれば問題ないじゃろう。魚はともかく、蟹を見たのは本当に久しぶりじゃ」


 蟹なんて罠を仕掛けるまでもなく、そのまま素手で獲れそうなくらいワサワサいたんだけどな。誰も手を出さなかったのか?


 俺もあの鋏が怖いから罠で捕まえたけど。


「魚はそのまま塩焼きですか?」


「ここまで処理されておれば、そのまま串を刺して焼くだけじゃな。塩焼きとは?」


「この辺りで使ってるのは岩塩ですので、細かく砕く必要がありますが……。こうして細かく砕いた塩に水を少し足して、魚全体に塗り込んで焼くだけですね」


「贅沢な塩の使い方じゃな」


「岩塩はかなりありますし、川魚は塩が利いてた方がおいしいですよ」


 採ってくる労力とここまで細かく砕く手間は必要だけど、岩塩はもともとタダだしな。


 この程度の数しかいない村人がこんな使い方をしても、この先数百年は楽勝な量があったし。


「料理にまで詳しいとはの……」


「ホントに詳しい人に聞かれたら笑われそうな程度ですよ。とれたての魚ですし、そのまま焼いてもいいとは思いますが」


「いや、確かに塩焼きにした方が生臭くなくてよいじゃろう。儂は我慢できるが、カリナには厳しいじゃろうて」


「誰ですか?」


「儂の孫娘じゃ。早くに両親を亡くしたので儂が親代わりをしておる」


 村長一人が住んでるにゃ家がデカいし畑も結構な大きさがあったのが不思議だったが、住んでたのはこの爺さんだけじゃなかったのか。


 でもあのデカい畑の世話は他の村人がしてたよな?


「すいません村長。今日の仕事が終わりました」


「おお、マカリオたちか。……毎日畑仕事をすまんな。そうじゃ、今日は村で宴とせんか?」


「宴ですか? 今から声をかけて来るんですよね?」


「頼めるか? 最初はデルフィに声をかけてくれ。料理をする人間が必要じゃろう。それと、今回は材料は持ってこなくてもよいぞ」


「食料は村長持ちですか? わかりました、すぐにみんなに声を掛けます」


 ……いいのか? というか、宴って?


「おぬしの歓迎会じゃ。そういえば、これだけ色々貰っておきながら名を聞いておらなんだな。ここには訳ありの者も多い、名乗りたくなければそれでも良いが」


「別に問題ないですよ。城塞都市トリーニで暮らしていたリュークです」


「ここに来るという事は訳ありなんじゃろうが……」


「犯罪に手を染めた訳じゃないですよ。むしろその逆ですね。今のトリーニはまじめに暮らすものには生き地獄です」


「今はそうなっておるのか。昔から酷い有様じゃったが……」


 城塞都市トリーニ。俺の生まれた街であり、信じられない事に数十年前までは美しい街の姿をしていたらしい。俺はその姿を見ていないから、そんな与太話は信じねえがな。


 元々はこの辺り一帯を魔族から切り取った辺境伯が統治していたそうだが、少しずつ領土を広げるうちに領地拍の統治能力を超え、魔族対策で開発した特殊な装備を持つ城壁や国から義務付けられている街道の整備に金がかかりすぎ、その金を得る為に大規模な領地改革を繰り返した挙句、完全に経営破綻を起こして辺境伯は一族揃ってこの地から逃げ出した。


 そのままこの地に留まれば魔族の逆侵攻を受けて、この辺りもろとも一族纏めて滅びるのが目に見えていたからだ。


 領地経営に失敗して逃げ出した辺境伯に変わり、国から三人の子爵が派遣された。元々円形の城塞都市だったトリーニは葵の紋の用に三分割されており、送られてきた三人の子爵たちは話し合いで広大な辺境伯領を支配する街のエリアの延長に三分割して数十年経った。維持するだけで莫大な金の掛かる城壁や街道を子爵たちが整備しきれなくなって、今となってはどこもかしこも見事なまでにボロボロだ。


 唯一城壁を奇麗な状態で維持できているのは広大な穀倉地帯を持つロドウィック子爵家位なもので、他の子爵が管理する城壁はそれはもう酷い有様だ。ロドウィック子爵家は内部を仕切る壁も強化し、他の子爵領から住人が入ってこないようにしているくらいだしな……。


 そんな事より今日の宴だ。せっかくだし、俺も幾つか料理を作るかな。


「そのことはもういいでしょう。そういえば料理をする人間が必要でしたら俺も手伝いますよ」


「そういえばおぬしは料理もできるんじゃったか。では頼めるか?」


「どれくらいの人数分かわかりませんので、どのくらいで出来るかはわかりませんけどね」


「おぬしを入れても三十人ほどじゃな」


 三十人……。


 村にはどう見てもそれ以上の数の家があるが、あの大半は空き家なのか……。


 この状況になった原因については、そのうち聞けばいいだろう。





読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

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