表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/98

第三十八話 ようやく魔導エアコンの工場が通常稼働に入ったか。この数ヶ月、三交代で夜間作業をしてまで作り続けていたからな




 俺がトリーニに住み始めて既に半年が経過した。俺が持つ銀行の個人口座には毎日馬鹿みたいな額が入金されているが、そこから更に税金が引かれる事は無い。


 徴税というか、各商会がいろんな取引で税を要求されるのは年から年中だが、租税というか麦や米などの穀物類の納税が当然収穫時期の秋なので、それ以外の時期が歓迎されていたりはする。


 税金が無いと首が回らないというか街を巡回する衛兵の給料も払えないし、あの城壁の修理など到底手が回らないからな。


 レナード子爵家と違って俺はこの莫大な金で城壁を修復する訳でもなく、そして当然街道の整備をする訳でもないので金は貯まる一方だ。


 実際に銀行に振り込まれた金が幾らで、今現在いくら持っているかは俺とリチャーズくらいしか知らないだろうが、王都周辺の伯爵より金を持ってると言われているからな。


「ようやく魔導エアコンの工場が通常稼働に入ったか。この数ヶ月、三交代で夜間作業をしてまで作り続けていたからな」


「三人の子爵家の人口比率が凄い事になったよね。元はロドウィック子爵家が約八万人、アルバート子爵家が約五万人、レナード子爵家が約三万人くらいだった筈だけど」


「今はレナード子爵家だけで十五万人を超えるからな。無数にあった空き家が軒並み整備されて、そこに移住者が住み始めてる状況だ」


 以前住んでた人が逃げ出し、長い間空き家として放置されていた家ば当然ボロボロだ。


 そんな家でも一から建てるよりはマシらしく、きれいな状態の家から順番にリフォームされていた。この街で貴族が住んでいる地区を除いて家はすべて買取ではなく契約での賃貸なので、城壁近くの家ですら賃貸料が跳ね上がっているらしい。


 城壁近くに形成されていたスラムは全部潰され、そこにいた人は全員強制的に目の前の城壁修繕工事の労働力として駆り出された。病気の人や怪我人は治療して貰えたそうなので、その点に限っては良かったといえる。狭いけど家も用意されているし仕事中は食事も提供される、給料も正規の額が出るしな。


「それでも労働力が不足してるって、すごい話だよな」


「そりゃあれだけ予算があれば、幾らでもしなけりゃいけない事がある。城壁も半年前に比べたら別物だぞ」


「街道も綺麗になったし、新しく編成された騎士団も立派だよね」


「あれだけの装備を整えるお金があるのね」


「魔導エアコンと和紙の利益だ。特に魔導エアコンが思った以上に凄まじかった……」


 貴族に販売されている魔導エアコンの利益もすさまじいが、それ以上だったのは王城などに設置された魔導エアコンだ。


 何せ王城はでかくて広い。しかも部屋ごとに合わせてデザインし、能力なども細かく調整するという話でその調整でも金をとれるらしい。


 一台一千万スタシェルは当たり前で、謁見の間に設置された魔導エアコンの価格は一台で一億スタシェルを超えたという情報も入っている。


 彫刻や装飾は粋を極め、一台あたりの純利益率は通常の魔導エアコンより劣るが、元々の金額と販売台数が半端ではない。金を刷っているがごとくの和紙の売り上げすら霞むほどの利益を生み出し、レナード子爵家の金庫に金貨の山を築き上げている。銀行の口座に至っては言うまでもない。


「その情報王都からでしょ? 今の状況で魔石食いの魔導通信機を、そこまで気軽に使えるのが凄いわね」


「この街では魔石が高騰してるからな。王都でもそろそろ高騰し始めるぞ」


「向こうはまだ安いの?」


「もともと持ってる在庫の量が違うし、王都近郊のダンジョンで活動している冒険者の数は、この辺りのダンジョンで活動している冒険者の数とは桁違いだ。それに魔導灯とか他にも使ってるだろ? いきなり値上げしたら王都に住んでる市民が騒ぐさ」


「こうなる前に結構な量を確保しててよかったわ。おかげでまだ魔導具の開発が続けられるし」


 魔導エアコンを持ち込んだ時点で、こうなるのは予想済みだ。


 今まで千スタシェル程度で売られていた魔石の価格が約五倍。頭犬獣人(コボル)程度の魔物から取れる魔石ですら今までの倍以上の値段で買い取られているので、各地で冒険者が狂喜している状況だったりする。


 さらに今までそこまで価値が無かったマジックバッグですら買い取りが歓迎されているので、街の近くにあるダンジョンには冒険者が殺到しているありさまだ。ダンジョンに入る代金は据え置きのままなので、宝箱をドロップするダンジョンを攻略するんだったら今とか言われているそうだ。


「ラッセルさんも街にいないんでしょ?」


「今街にいる冒険者なんて、本当に役立たずか怪我か何かで休養しているかのどちらかだな」


「アルバート子爵家とロドウィック子爵家の領内にあるダンジョンも人気なんでしょ?」


「人気なのはアルバート子爵家の領内にあるダンジョンだな。ロドウィック子爵家は穀倉地帯が大きいのが災いして、そこまでダンジョンが見つかっていないんだ。探せばあると思うんだが」


 逆に言えばロドウィック子爵家の領内では、冒険者にならないと食っていけない状況じゃなかったって事だ。それでも冒険者になる奴がいないわけじゃないし、ひとつもダンジョンが見つかっていないわけでもない。


 最初からこの状態だとレナード子爵家の領内でも冒険者なんて増えなかっただろうが、一獲千金を狙う奴はどこでも一定数居るからな。


「魔石が無くなると困るわね」


「一度ダンジョンに潜ればかなりの数入手できるって話だ。海底神殿はその意味でも今回は人気が無い」


「真珠が見つかればでかいんだけどね」


「他のダンジョンで魔石を抱えて戻った方が早いからな。今までは拾わなかった小さい魔石まで搔き集めてるって事だ」


「それじゃあ、魔石の値段は元に戻りそうなの?」


「この辺りでもいままでの倍程度で安定するだろうな。原材料費の高騰で魔導具の価格も上がるだろうが、魔導エアコンの場合元々の金額がデカいからそこまで影響はない。問題は魔導灯や魔導コンロだ」


 日用品に使われている魔石が切れた時、何も知らずに買いに行ったら驚くだろうな。


 大体一年以上はもつし、普通の光熱費と比べても魔導コンロや魔導灯のランニングコストは格安なんだ。倍の値上げでもそこまで影響は出ない気はする。今はこの街に住む奴らだったら、増えた収入も倍なんてレベルじゃない。


「景気のいい話ね」


「物価も上がるが収入も上がる。これが正しい経済の形だ。金は一か所にとどめても意味は無いんだが、散在する訳にはいかないしな」


 とりあえず給料はこれ以上あげられないし、無駄遣いをする趣味は無い。


 今でも十分すぎる額だし、これ以上持たせておかしな真似をされても困る。それにあまり金を持たせると事件に巻き込まれないとも限らないからな


 遊びもマカリオみたいに花街程度で済めばいいが、賭場で金を自慢した挙句に刃傷沙汰とかは勘弁してもらいたいところだ。


 リチャーズの所の分家の馬鹿息子が最近賭場で似た事件に巻き込まれた。犯人は捕まったしとっくの昔に処刑されたって話だ。犯罪者を擁護する訳じゃないが、金貨入りの皮袋を見せびらかせば出来心で犯罪に走る奴もいるさ。




読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ