第三十三話 とはいえ、カリナがこうして街に来る事を認めてくれたし、あそこから二度と出さないように纏めて監視って訳じゃない気はするんだよな
この話から第二章になります。
楽しんでいただければ幸いです。
俺がロックスパイダーを討伐し、あの村が正式にレナード子爵家の認可した村として活動を開始してすでに三ヶ月が経過した。
どうやったのかリチャーズの奴はこの辺りに住んでいた旧領地拍の人間を全員見つけ出し、そいつらを全員バスコ村長の村に強制的に移住させたみたいだな。あれ、旧領地拍の息のかかった人間を、纏めて管理する為の村にされた気がするんだが、気のせいか……。
「とはいえ、カリナがこうして街に来る事を認めてくれたし、あそこから二度と出さないように纏めて監視って訳じゃない気はするんだよな」
「リュークさんの商会に入ることが条件ですけどね。私としては助かりますが」
「今のところ俺たちの仕事が無いのが問題なんだが。オリボも毎日暇を持て余してるだろ?」
「僕は毎日勉強や訓練で忙しいよ。マカリオも一緒に勉強しない?」
「リュークが幾ら約束を守る人でも、読み書き位できないとそのうち叩き出されるわよ」
今現在の商会のメンバーは俺、アリス、カリナ、マカリオ、オリボ、ギルバート、イザドラ、ローレルの八人だ。
ギルバートは元山賊でロックスパイダーの討伐から一週間後に、嫁や娘と共にバスコ村長の村を訪ねて来た。奇跡的というか、他の山賊の家族が身を挺してイザドラやローレルを守っていたので、あの集落で再会する事が出来たという話だな。
商会員と言いながらもイザドラはまだ割と幼いローレルと共に近くに作った食堂の運営を任せているし、ギルバートもその食堂の用心棒的な立ち位置で働いている。食事どきは忙しいので、普通に店員として働かされているらしいが……。
毎日食堂で働かせる訳にも行かないから、交代で休みは与えている。カリナやマカリオたちも食堂で働いている時もあるしな。
「頭はお優しいですからね。あっしの家族まで面倒を見てくれていますし」
「無駄飯を食わせる余裕はないからな。イザドラ達にはカリナたちと食堂の運営を任せているんだ。それなりの給料は出すさ」
「僕もたまに手伝ってるからね。メニューは少ないのに、毎日結構なお客が来るのが不思議なんだけど……」
「あ、私もそれ思った。以前のトリーニだとこんなにお金を持った人なんていなかったでしょ? どうしたの、急に」
「おいおい、職人街というか、各種職人は今仕事で大忙しだぞ。給金もいいらしいし、飯くらい旨い物を食いたいんだろう」
魔導エアコン特需というか、家具職人、彫金職人、鍛冶屋、魔導具職人などの職人だけでなく、魔導エアコン用の高級木材を扱う商会、魔石などを扱う商会など様々な場所で仕事や物の流れが発生している状況だ。
魔導エアコンを他の街などに効率よく運ぶため、今まで割と安価だった普通サイズで時間経過も同程度のマジックバッグの値段まで高騰している。ラッセルの店だけじゃなく、魔導具を扱うほとんどの店からマジックバッグが売り切れる異常事態も発生しているからな。
この世界でマジックバッグが割と余っていたのは、結構な規模で普及していたからだが、マジックバッグには結構制約がある。マジックバッグにマジックバッグは入らないので、複数持つときは別に何かカバンなどが必要になるんだ。
物資運搬用の特殊な馬車も同じ構造なので、その馬車にもマジックバッグを積み込むことはできない。魔導エアコンのような高級品は運搬用の馬車は使わず、護衛と一緒に高速馬車で王都まで一直線だろうが。
「すごい勢いでマジックバッグが売り切れてるみたいね」
「残っているのは役立たずのゴミマジックバッグだけって話だな。流石に新品の魔導エアコンを運んでいる最中に、急激に劣化するのは困るらしい」
「そのうちそれも売り切れるんでしょ?」
「残ったマジックバッグは俺が買い集めてるからな。転売目的じゃないぜ、ちゃんと別用途で使う為だ」
ゴミマジックバッグの利用方法だが、主にワインやウイスキーの熟成だな。
時間って壁があるからウイスキーをはじめとする酒類の熟成については諦めていたんだが、あのマジックバッグのおかげで目途がたった。そのうち熟成させたウイスキーなんかも売り込むつもりだ。リチャーズの所に今持ち込んでも追い返されるだろうが。
というよりもだ、時間を経過させるって能力を正しく理解していない奴が多すぎる。使い方次第じゃ、超えられない壁を悠々と超えてくれる素晴らしいアイテムなんだぜ。
「忙しくしてる職人たちの事は知ってたよ。魔導エアコン関係だけじゃなくて、他にも仕事が増えたって聞いてるけど」
「城壁や街道の整備というか修繕工事系の仕事だな。あっちは本当に誰でもいいから募集をかけてる状況だ」
魔導エアコンの売り上げ、それに和紙の売り上げが入り始めたのが先月の話。
執事のセドリックがその売り上げを聞いて、目を白黒させたって話も聞いている。和紙に関しては金を刷ってるようなものだし、魔導エアコンも王都や侯爵クラスの貴族から注文が山ほど届いている状況らしい。
流石にナイジェルには他に幾らでも仕事があるので、いくら儲けがデカいといっても付きっきりという事が難しいらしく、現在はリチャーズの息子のクリストフを工場長に任命し、細心の注意を払って魔導エアコンを作り上げているって状況だ。
元領主のナイジェルは忙しいというか、現在この子爵領にもいないしな……。
「人が足りないのに、街に入る条件が厳しくなったって聞いてるんだけど」
「スパイ対策だ。流石に他の子爵は手出ししてこないが、王都周辺や王都までの街道に近い貴族は何か仕掛けて来る可能性が高いからな」
「ここは魔族領と隣接する最前線だから、一応関税免除が適応されてるよね?」
「だから気にくわないんだろう。ここしか潤ってないからな」
この国には奇妙な法律がいくつかある。
その一つに防衛拠点保護法という物が存在し、魔族領と隣接するすべての領地はその領地に向かう街道の関税が免除されているという。
本来は魔族領に隣接する事で開墾が難しい事、その理由で穀倉地帯を持たないと魔族と戦いを続けるうえで食料に関税などを掛けられると防衛が出来ない事、同じ理由で装備に人にと範囲を拡大した結果【面倒だから関税は免除な】という形に落ち着いたという話だ。
その法があるからロドウィック子爵家などは余った穀物の販売である程度潤っているのだが、無料で通過される各領地の貴族たちは当然不平不満を述べていた。
では代わりに魔族領と隣接してみるかと言われればそれもいろいろ問題があるので、各方面ともにいろいろ言いたいことはあったが今までは何とか目を瞑ってきたという事だな。しかし、和紙や魔導エアコンの販売でいろいろと問題が出てきたわけだ。
「高額な商品が通過するのはマジックバッグがあるから分からないけど、これだけ頻繁に人が行き来するんだったら、通行税くらいは取りたいわよね」
「今まであの城壁や街道の整備でさんざん苦労してきたんだ。多少儲かっているとはいえ、この位で文句を言われる筋合いはないんだがな」
通過するだけの途中の領地はともかく、厳密には王都の一部商会も潤っているという話だ。
魔導エアコンを王城に設置することが決まったらしく、ナイジェルと他数名が現在王都に滞在している。向こうの職人を雇い、王城にふさわしいデザインの魔導エアコンを作り上げるらしいんだが、当然ナイジェルだけではどうにもならないので向こうの貴族を頼り、公爵家の息のかかった大商会を紹介して貰っているという話だな。
あんな大仕事を任されたら、数年はこっちに帰ってこれないんじゃないか?
「やっぱりリュークは凄いな」
「今はまだ、魔導エアコンで少し景気が良くなっただけだ。この状況を何十年も維持できるだけの商品を、この先ずっと供給し続けなけりゃいけなんだぞ」
「それはかなりのプレッシャーね」
「魔導エアコンはこの先最低でも十数年は売れるだろうが、魔導灯クラスまで普及させられる商品なんてたぶん無いぞ」
魔導灯の発明者というか登録者はルクスだったか? 発明当時は世紀の発明だとか言われたが、調子に乗ってあちこちで恨みを買った挙句、最終的に王都の路地裏に転がる羽目になった。
親族が魔導具登録権の相続を申し立てたが、その当時はまだそんな法律が無かったので却下。その十年後に相続権が認められた頃には魔導具職人だったら誰でも作れるレベルで普及しており、流石にその状態では権利の主張は無理な状況だったらしい。
俺がレナード子爵家を巻き込んだ理由の一つがこれだ。そうでなけりゃ、今頃王都へ呼び出された挙句、向こうの盗賊ギルドのアサシンが俺の首を狙っていただろうぜ。
「難しい話はまたにして、そろそろ昼食にしやせんか?」
「今日もイザドラの世話になるのか?」
「食った分は、ちゃんと月締めで請求させていただきますぜ」
「そうでなけりゃ困る。少し早いが飯にするか」
「よっしゃ!! 飯だ!!」
商会で働く者の昼食代は商会持ちという形にしているし、晩飯もうちの商会の仕事で飯の時間まで残っている時は提供する。
腹が減るのはきついし、最低でも飯に関しては不自由させたくないからな。
さて、今日のメニューはなんだろうか?
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