第三十一話 この魔石に俺の力を注いで……、闇の魔力が詰まった魔石の完成だ。さて、そこの蜘蛛。ここから先は俺が相手だぜ
本日二回目の更新です。
◆◆◆
どうやら今の一撃で俺は意識を失ったようだな。まったく、無茶しやがって。
あのデカい蜘蛛程度、俺がどの力を使っても勝てるんだが、後の事を考えるとそこまで派手な真似はできない。それにあの力を呼び寄せて使うのも論外だ。さて、何かいい物はないのか……。
マジックバッグ内に剣や槍は無し。使えるとは思っちゃいないんだろうが、ひとつくらい用意しとけばありがたかったんだがな。
向こうに落ちている山賊が使っていた武器は使い物にならないか。流石にあんな状態だと俺の力に耐えられまい。
他に何か武器は……、さっき使っていた魔導銃か。加工した魔石の予備は無し。シンダー内部には魔力が尽きた魔石が残っているのか。……これを使うのが一番面倒がなさそうだ。
「この魔石に俺の力を注いで……、闇の魔力が詰まった魔石の完成だ。さて、そこの蜘蛛。ここから先は俺が相手だぜ」
とりあえず残っている前足を一本吹き飛ばした。これで残るのは後ろ脚だけなので重い頭部を支えきれず、ロックスパイダーはかなり前屈みな体制になった。
いい武器じゃないか。あんな威力だったのは、魔石をケチりすぎだな。高純度の魔石を使えば、あんな蜘蛛苦戦もしなかっただろうに。とはいえ、今の懐具合じゃ難しいか。
と、前足を弾かれて怒り狂った蜘蛛が襲ってきたか。だが前足が無いのでその移動速度はまるで芋虫の様だ。……今の俺との能力差も理解できない雑魚め。
「遅い、軽い、それに隙だらけだ!!」
迫ってくる後ろ足を素手で弾き返す。もう足が残っていないので、攻撃する時には完全に体が地面に沈んでいる状態だ。その後蜘蛛が俺を食おうと顔を近づけて来たので、そこを思いっきり蹴り上げてみた。
このまま殴り殺してもいいんだが、そうなると後でいろいろ面倒だしな。
「これでトドメだ。さっきは無事だったみたいだが、今度は一味違うぜ」
もう頭の上にのぼる必要もない。さっき攻撃した後に向かってこのまま銃弾を解き放つだけでケリが付く。
闇の魔力が詰まった魔石の力を開放する。真っ黒い銃弾と化した魔力が蜘蛛の頭部を吹き飛ばし、そのまま腹部を貫通して直径五十センチほどの大穴を開けた。発動した魔法は魔弾ではなく、魔光砲の闇バージョンってところか。
当然の蜘蛛はその一撃で絶命し、その巨体を地面に横たわらせた。しぶとい虫型の魔物とはいえ、流石にこの状態で生きてはいないだろう。
「さて、問題はこの後だな。……俺が意識を取り戻すまで、とりあえずあそこで寝るとするか」
辺りに俺の敵となる脅威はいない。ここで無防備に寝ていても大丈夫だ。
まだ色々知られるわけにはいかないからな……。
◆◆◆
◇◇◇
「……しまった、気絶していたのか。よく無事だったな」
俺が目を覚ましたのは、さっき叩き付けられ木の根元だ。
ロックスパイダーに叩き付けられた時に意識を失ったんだろう。あれからどの位経った? ロックスパイダーは……。そこか!!
動いていない? しかもあの位置に大穴って事は最後の一撃でトドメを刺せていたのか? いや、ありえない。俺の放った魔弾じゃ、致命傷には程遠かったはずだ。しかしこの状況は……。
「どういうことだ? ロックスパイダーの討伐には成功したが、状況が分からねぇ」
俺が最後に攻撃した時にはロックスパイダーの足は四本あった筈だ。
死体には三本の足しかなく、あの後誰かが何かでロックスパイダーの足を弾いたのは間違いない。
「それに、この大穴も説明がつかない。本当に何があったんだ?」
ロックスパイダーの頭部から腹にかけて大きな穴があいている。ちょっとやそっとの攻撃じゃ、ここまでダメージを与える事はできないだろう。高威力の魔法を使える奴でもいたのか?
俺以外で可能性があるとすれば、あの山賊が実は生きていて倒した? いや、あの山賊の武器じゃこうはならないし、こんな威力の魔法が使えるんだったらここに来るまでにロックスパイダーを倒せているだろう。
脅威が去った事は喜ばしいが、色々と謎が残っちまったな。
向こうから山賊の頭らしき男が近付いてくる。あの状態じゃあいつがロックスパイダーを倒したなんてことはない。本当に謎だ。
「あんたがあの蜘蛛を倒したのか?」
「ん? どうやらそうらしい」
「謙遜だな。あんたは気絶していた俺を助けてくれた命の恩人だ。助かったのは俺だけだが……」
「他の二人は?」
「あいつらは運が悪くてな、当たり所が悪かったみたいで、二人とも生きちゃいなかった」
あの二人の運が悪かったのか、それともこの男の運がよかったのか、生き残ったのはこいつだけの様だ。
しかし、どうやら山賊でもこういった形であれば、獲物を横取りされても感謝してくれるようだな。
俺はこいつらをおとり程度にしか考えていなかったが、やっぱり惜しい連中だったのは間違いない。
「俺の名はリューク。あんたの名は?」
「俺はギルバート。お察しの通り山賊の頭だ。いや、もうだったか……」
あの位置にあれば仕方の無い事とはいえ、やはり山賊の村は真っ先に壊滅したか。
家族の居る村が襲われたから、ギルバート達は全員でロックスパイダー討伐に向かったんだろう。結果は見ての通りだが……。
「心中は察するが、これからどうするんだ?」
「仲間を弔った後、どこかに流れるさ」
惜しい連中だったし、その頭となれば相応の能力を持っているだろう。
雇うか? しかしギルバートは元山賊、レナード子爵家の連中はいい顔をしないかもしれない。だが、こいつは必要な人材だ。
「仲間の弔いが終わったら、ここから南に行った先にある村を訪ねてくれないか? あんたに俺の部下になる気があればだが」
「俺があんたの部下に?」
「ああ。俺は今から色々と厄介な連中と関わる。信頼出来て、荒事が出来る人材も必要なんだ」
これは嘘じゃない。
俺がやろうとしている事を邪魔する奴は星の数ほどいるだろうし、多少どころじゃない荒事も何度も潜り抜けなきゃならない。
アリスたちに荒事に関わらせる訳にはいかないし、マカリオたちにも荷は重いだろう。
「わかった。その気になったら村を訪ねる」
「その時はよろしくな」
割と大赤字な今回のロックスパイダー討伐だが、ギルバートが手下にできるんだったら将来的にはプラスだろう。
荒事が出来る部下もそうだが、本格的に商会を運営する場合はもう少しいろんな人材が必要だ。
商会の運営や仕事を全部俺がやってちゃ世話はねえからな、任せられる所は信用できる部下にやらせるべきだ。ただ、取引の額がデカくなると、色々と誘惑が出て来るからそのあたりはキッチリ〆とかなきゃいけない。お互いの為にな。
読んでいただきましてありがとうございます。
楽しんでいただければ幸いです。
誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。