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第二十六話 あの岩塩の採れる山の反対側にダンジョンがあるだと!! しかも冒険者の間では有名なダンジョンだそうだが




 不幸というか事件はいつも突然起こる。


 多くの冒険者が隅々まで調べてもあの寒村周辺にダンジョンやオープンダンジョンは無く、北部のどこかに頭犬獣人(コボル)を生み出す禍々しき魔力溜りでもあるのかと思っていた。


 元々あの話自体も山賊や野盗のアジトを冒険者に見つけさせる策略だった可能性が高く、あの村のある荒地がたまたまその捜索範囲に引っかかっていただけだと俺はそう思っていたのだが、事実はそうではなかったんだ。


「あの岩塩の採れる山の反対側にダンジョンがあるだと!! しかも冒険者の間では有名なダンジョンだそうだが」


 ラッセルの店に魔石と魔銀の追加購入に来た時、ラッセルからそんな事実を聞かされた。


 アリスも知っていたらしく、特に驚きはしなかったが俺は驚いた。いや、結構な僻地とはいえダンジョンがあるんだったら、もっと冒険者があの辺りで活動しているだろう。


「あの辺りには有名なゴミダンジョンというか、頭犬獣人(コボル)位しか湧かない地下二階層の成長が終わったダンジョンがあるね。ダンジョンボスはロックスパイダーだよ」


「初耳だが、領主が管理しない上に街が出来てないという事は無価値なんだろう?」


「無価値だね。あんな僻地まで行って手に入るのは頭犬獣人(コボル)の素材や魔石だけ。ダンジョンボスのロックスパイダーにしても、魔石も含めてほぼ価値の無い魔物さ」


 どこの領主や冒険者でも存在するという話を聞いただけで胸を踊らせるダンジョン。しかし、世の中には例外という物が存在し、あの廃村の遥か北にあるダンジョンがまさにそれらしい。


 トリーニや周辺の村から遠征しても労力に対して実入りが釣り合わず、しかもダンジョン産の宝物すら期待できない。


 地下二階層なので攻略は楽だが攻略しても何の意味もなく、ダンジョンボスを倒しても相手がロックスパイダーで、更に低階層な事もあって碌な物をドロップしない。むしろ無駄に硬いロックスパイダーを倒す為に消耗する武器の事を考えればマイナスまでありうる。


 あの数年ごとに村を襲う頭犬獣人(コボル)の群れは、そのゴミダンジョンから溢れた物だったんだろう。そう考えれば辻褄は合うが。


「成長が終わっているんだったら問題ないだろう。いっそダンジョンコアを破壊すりゃいいんじゃないか? 少なくとも頭犬獣人(コボル)の被害はなくなる」


「ダンジョンコアは特殊な魔法か武器じゃないと壊せないよ。完全な大赤字だし、誰もしないと思うけど」


「往復の手間賃だけでも大赤字だろうしな。放置が最適解という事か」


 まずいな。和紙の生産にはあの村周辺が最適だが、その遥か北とはいえダンジョンがあると事情が異なる。


 前回の頭犬獣人(コボル)の襲撃もそうだが、誰も立ち入らないダンジョンからは極稀に中の魔物が外に出てきたりする。あの村を襲ってきた頭犬獣人(コボル)は、数年かけて溢れた頭犬獣人(コボル)が群れた物なのだろう。単独で行動する程馬鹿でもないらしいし。


 ゴミダンジョンから溢れた頭犬獣人(コボル)を定期的に間引けば問題ないが、そうしなければ数年に一度頭犬獣人(コボル)の群れの襲撃を受ける事になる。


 さて、その場合レナード子爵家がどう動くか……。


「たぶん最初の視察の時にその事は話すでしょうね。頭犬獣人(コボル)の襲撃が面倒だと考えれば、ダンジョンコアの破壊を決めるでしょうし」


「しかし、ゴミダンジョンなんて本当に存在したんだな」


「僻地には結構あるよ。というか、ゴミダンジョンだから僻地になるんだけどね」


「まともなダンジョンだと、近くに街ができるからな」


 どこのダンジョンも領主が管理しているのが当然だ。ダンジョンコアを破壊しない限りほぼ無限に魔物の素材や魔石などが湧く。宝箱が発生するレベルになれば、そこからは魔道具や宝石類が産出される。


 冒険者ギルドをはじめ冒険者が戦うために購入する武器屋や防具を扱う店。泊まる宿で出される食事やその材料を扱う店。ダンジョンで得たお宝を買い取る店など様々な需要や仕事が生まれ、ダンジョンが存在する限りある程度は賑わいが保証される。領主としては特に何もしないでいいのに税収が転がり込んでくるんだ。これ程美味しい話はない。


「ゴミダンジョンは消滅したりしないのか?」


「稀に自壊するね。その場合は大体ダンジョンボスがダンジョンコアを壊した時かな? そうでもしないとダンジョンボスは外に出れないから。もう一つのケースは本当に稀だけど、周りの魔素がほぼ完全に枯渇した時かな。僕も全部は知らないけど、世界規模で考えても前例は本気で数例しかない筈だね」


「碌に獲物が来ないダンジョン最深部に閉じ込められれば、やがてダンジョンコアを破壊するって訳だ」


「そういう事かな。ダンジョンボスの場合でも滅多にないんだけどね。大きなダンジョンだとダンジョンボスの部屋には色々揃ってるって話だし」


 つまりボス部屋の中に、普段ダンジョンボスが食ったりする為の獲物も沸くらしい。


 巨大なダンジョン内では生態系が確立してるって聞いた事はあるが、ボス部屋の状況なんかも様々って事なのか。


「ゴミダンジョンだとダンジョンボスの為に何かを生み出す事すら無理って事か」


「最悪ロックスパイダーがボス部屋から出て、ダンジョン内部にいる頭犬獣人(コボル)を間引いてるんじゃないかな?」


「それで頭犬獣人(コボル)がゴミダンジョンから定期的に逃げ出していると」


「可能性は高いね。このままだとそのうちロックスパイダーがダンジョンコアを破壊すると思うよ。流石に頭犬獣人(コボル)ばかり食べてると飽きるだろうし」


 贅沢な話であり頭犬獣人(コボル)にとっては迷惑極まりない話だろうが、ロックスパイダーにとっては重要な問題だ。


 狭いダンジョンに閉じ込められて、そして毎日頭犬獣人(コボル)だけを捕食する日々。流石に魔物のロックスパイダーでもそんな生活は数年で飽きるだろう。


「ロックスパイダーは強敵だよな?」


「どのくらい成長しているかは個体次第だけど、あのダンジョンのロックスパイダーは少なくとも数年は退治されていないだろうからね。最低でも十メートルクラスだよ」


「戦いたくは無いわね。外殻も相当硬いでしょ?」


「子供のロックスパイダー、と言っても手のひらサイズだけど、その大きさでも鉄製ハンマーで思いっきり殴る必要があるからね。相当硬いと思うよ」


「それだけ硬けりゃ何かの素材で使えないのか?」


「硬いけど割と重いんだ。そして鎧や盾に加工すると何故か脆くなる。だから素材としては全然価値が無い」


 そりゃ敬遠されるな。


 戦えば強敵で倒した後に入る報酬は魔石だけ。せめてダンジョンから宝物でもドロップすれば違うんだろうが……。


「そのロックスパイダーが、そのうちダンジョンから出てくるわけか」


「あと数年後かな? その個体の成長度合いによると思うけど、ダンジョンを手狭だと感じたとしたら……」


「ダンジョンコアの破壊を躊躇しないって事か。ダンジョンボスにダンジョンコアを破壊できるのか?」


 確か専用の魔法か武器が必要だろ?


「出来るよ。ダンジョンボスにはその力があるからね。ダンジョンボスにはダンジョンが暴走した時に、ダンジョンコアを破壊して停止させる役割もあるそうなんだ」


「本当にいろいろあるんだな」


 ダンジョンボスは非常停止用の安全装置でもある訳か。


 あきらかに異空間的に存在するダンジョン内にいる魔物とかが全部溢れても困るしな。ん? ダンジョンコアを破壊したら中の魔物や宝とかはどうなるんだ?


「ダンジョンボスがダンジョンコアを破壊するとして、中から出て来るのはダンジョンボスだけなのか?」


「その場合はそうだね。ダンジョンコアのある部屋に他の魔物がいたら、その魔物も出て来るよ。もしダンジョン内に冒険者や魔物がいた時は、出口のないダンジョン内に永遠に閉じ込められるって噂だね」


「誰も出てきていないから確認しようもないって事か。割と怖い話だな」


「ダンジョンコアの破壊からダンジョン崩壊までは、しばらく時間があるんだ。その時間はダンジョンが大きければ大きいほど長い。それにこれがあるから」


 一流の冒険者であればダンジョンに潜る際は、緊急脱出用の魔道具をいくつか持っているらしい。


 この緊急脱出用の魔道具もダンジョンの宝箱から産出するものらしいが、ひとつ一万スタシェルほどで購入することも可能だ。


 当然ラッセルの店でも売られている。


「万が一に備えない冒険者はただの馬鹿よ。魔法使いだっていざって時用に魔石くらいは持っているのに」


「ああ、緊急時の魔力チャージ用だったか。魔法使いも大変だ」


 俺には魔力はあるらしいが、魔法は使えない。


 使えれば魔導銃なんて開発しようと考えないし、魔弾(マギーア・グロブス)を覚えればいいだけの話だからな。


「そんな事より問題はあの村よ。村の規模にしては割と防衛能力が高いと思うけど、流石に十メートル級のロックスパイダーは手に余るわ」


「レナード子爵家がどう動くかも問題だな」


「見捨てると思うよ。むしろ、村が壊滅した後に援軍を送る可能性もある」


「俺でも領主だったらそうするしな。人手は必要だろうが、それは自分の手駒の方が都合がいい」


 あの村の住人をそのままにする交渉はしたが、あの村の視察はまだ終わっていない。


 レナード子爵家には魔導エアコンの利権も渡したので、特産品が和紙一本という事もなくなりそこまで強硬策には出ないだろうが、あの村の住人がいない方が今後の和紙製作には都合がいいだろう。


 和紙工房の増設にしても、新しい住人の居住にしても元居た村人はいない方が楽だしな。


「とりあえずあの村にレナード子爵家の使者が来てからかしら?」


「そうなるな。ロックスパイダーに関しては警戒するしかない。それ以上の対策は無理だ」


 ロックスパイダーがダンジョンコアを破壊してどの位で出て来るかはわからない。


 分からない以上警戒してダンジョンを監視する以外に手はないし、出てくればどうにかして討伐するしかないだろう。


 問題は今のレナード子爵家の兵力で、十メートル級のロックスパイダーを討伐できるかだが……。最悪隣にある冒険者ギルドに討伐依頼を出すしかないだろうな。


 村が壊滅する前に援軍が来てくれればいいんだが……。



読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

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