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第二十四話 という訳で今日も世話になりたいんだが、昨日と同じ部屋をお願いできるか?

本日二回目の更新となります。




 前回は一泊だったが、今回はトリーニで二泊することにした。


 宿泊先は前回と同じ白銀(しろがね)亭。同じクラスの宿屋が少ないのがその理由だが、何度も泊まっていれば顔を覚えてくれるってのも大きい。


「という訳で今日も世話になりたいんだが、昨日と同じ部屋を頼めるか?」


「はい。もちろんです」


「食事もいつも通り頼む。これはチップだ、何か旨い物でも食ってくれ」


「いつもありがとうございます」


 懐に余裕もできたし、こうして銀貨を数枚チップで渡すのは難しくない。


 しかし、このクラスの宿の従業員でも銀貨数枚でかなり喜ぶ。そしてサービスの質はかなり上がるんだよな……。追加で金を出せば飯も豪華になるし。


「露骨に態度が変わるわね。渡したチップ、結構多くない?」


「おそらくここは度々利用するだろう。こうして顔を売っておけば、後々楽になる」


「そのあたりは流石というか、お金の使い所をわかってるわね」


「金になる客は宿側も守ってくれるからな。何かあれば知らせて来るだろ」


 いかに安心できるレベルの宿屋でも、万が一という事はある。


 だが、こう気前良く金をばらまいておけば、何かあった時には真っ先に知らせてくれる。とはいえ、そうでもない時もあるが……。


◇◇◇


 アリスが自室に戻り、俺一人になったのを見計らったかのように、それは突然語り掛けて来た。


「ずいぶんと派手に動いているみたいだが、例の依頼はいいのか?」


 だれもいないはずの窓の外からいきなり声が聞こえる。だがこの声は俺にしか届いていないだろう。


 おそらく窓を開けてもそこには誰もいない。どうやってるのか見当もつかない芸当だ。


「それはついでだからな。奴らを消すときには一気に全部消すさ」


「今はその為の準備か。あの小僧がずいぶんと立派になったな。ついでに調べたが、奴らまだ生きているぞ」


 大昔、俺は盗賊ギルドに僅かな金を握りしめて依頼に行った事がある。


 目的は両親の敵討ちだが、当然のことながら盗賊ギルドに依頼をするにゃ全然金が足りはしなかった。しかし、こいつが面白半分に有り金全部で情報だけ渡すという取引を持ち掛けてきた。


 俺は迷うことなく両親が残してくれた金と当時得た金を全部差し出し、両親の命を奪った野盗のアジトを教えて貰った。こいつはその時の俺の思い切りの良さや態度が気に入ったとか言ってたな。奴らの生死についてはそこまで関心も無かったが、どうやら奴らは今も健在らしい。


「殺すのはいつでもできるさ。それより、例の依頼の件だが……」


「追加で、十万スタシェル。情報だけだとそれで十分だ」


「金貨で十枚か。ここに置くぜ」


「情報を書いた羊皮紙だ。何かあれば盗賊ギルドを訪ねろ」


 いつも通り何の気配も感じさせず窓枠に置いた金貨が消え、そしてその場所に羊皮紙の束が置かれていた。毎度のことながら本当に器用な事だ。


 窓枠に置かれた羊皮紙の束、そこにはアリスの両親を殺した犯人の名や裏でそいつらを操っていた黒幕の名が綴られていたが、そいつらが犯行に及んだその動機を読んだあと軽くめまいを覚えた。なぜならば……。


「不完全ながら魔導エアコンというか魔導ヒーターをアリスの両親は開発していたのか。そしてその権利を狙って殺しを行ったのは」


 魔導具の販売にも携わっているロドウィック子爵家の分家筋。つまり犯人は貴族の一員だった。


 こうなると殺す場合には相応のリスクがある。下手に手出しをすれば、レナード子爵家も巻き込んで大立ち回りにもなりかねない。その結果どれだけ無駄な血が流れるか……。


 しかし危ない所だった。アリスを自由にさせてた場合、そのうちこの敵に辿り着いて結果として路地裏辺りに転がっていた可能性は高い。貴族相手に下手にちょっかいを出せば、平民の口なんて簡単に塞いでくれるからな。


「ただ、魔導ヒーターがまだ売り出されてないという事は、必要な改良が出来ていないという事だ。あの手の魔導具を売り出すには、少なくともスイッチ機能と細かい出力調整機能は必須だからな。それに暖房だけでも魔導回路の設計は面倒だ。きっちり設計しなけりゃ出来の悪い電気ストーブ以下の暖房器具が出来あがる」


 いまだに他の魔導具にも俺が考えたような機能が取り入れられていないという事は、出力の調整はかなり難しいんだろう。


 発想の転換というか俺だって元の世界の知識が無けりゃ、あの難しい特殊な魔導回路を考えつかなかったかもしれないしな。


「とりあえず奴らよりも先に魔導エアコンを登録して悔しがらせるか。引導を渡すのはもう少し我慢して貰うしかない」


 いきなり本丸を落とせるとは思っちゃいなかったが、まさか貴族絡みとはな。


 魔導具職人ギルドの職員程度だったらどうにでもできたんだが、貴族絡みの場合は慎重に手出ししなきゃいけない。下手な手を打てば、後々に影響してくるだろう。


 とりあえず今回はレナード子爵家を巻き込んで魔導エアコンを登録するしかない。手数料と言うか、利益の幾らかをレナード子爵家に渡す事になりそうだが、今回は思いっきり向こうに華を持たせて稼がせてやるか。


 アリスの親の仇であるロドウィック子爵家筋の分家の連中が、後で何を言ってきても大丈夫なようにな……。



読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

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