第二十三話 ここが深海の館などから引き取った魔石なんかを売ってる店か。魔導具職人向けに魔銀も扱っているみたいだが
本日一回目の更新。今日はこの後十五時にも更新があります。
冒険者ギルドと一口に言っても、この街には大小様々な冒険者ギルドが存在する。
一番デカいのは【深海の館】。ここはレナード子爵家が支援しているから登録している冒険者の数も多く、魔石なんかの回収依頼をする場合はここ以外には考えられない。
ただ依頼料も一番高く、依頼者の懐具合によっては敬遠される可能性が高いのが難点だ。
他は個人商会的な規模でやっている冒険者ギルドなどもあるが、依頼料は安いが登録者は少なく、魔石などの回収依頼をしても入荷がいつになるか分からないというのが大問題だ。
ただ、どの寒村も金なんかないので村中の金を搔き集めて頭犬獣人の討伐依頼なんかをする場合、【深海の館】クラスの冒険者ギルドに依頼なんて当然無理で、そのあたりの小さな冒険者ギルドに頼む場合も多い。
その小さな冒険者ギルドは運営資金不足でよく潰れるため、依頼料が戻ってこなくて依頼主は泣き寝入りって事も珍しくは無いんだが……。現在は新しく冒険者ギルドを立ち上げる時には厳しい条件が設けられているので、今存在する弱小冒険者ギルドが潰れたら大手しか残らない。俺に言わせれば、その方が今の状況よりはマシだと思うぜ。
「ここが深海の館などから引き取った魔石なんかを売ってる店か。魔導具職人向けに魔銀も扱っているみたいだが」
「この店が最大手だね。品揃えは良いけど、割と値段もいいよ」
「物が良くて品揃えがよけりゃ値段は高いだろ。信用できる店ってのはそういうものだ」
安物買いの銭失いじゃないが、安かろう悪かろうなんて流行らないからな。
特に魔導具の素材にするものだ、高価な魔導具を作った後で何か問題が発生なんてしたら目も当てられねぇ。
魔石や魔銀がそこまで高くないといっても、無駄にしていいものじゃないしな。
「流石にそのあたりはぶれないというか、すごく立派な考えだよね」
「人件費や材料費をケチっていい事なんてひとつもない。そんなことも分からん奴が多いみたいだがな。今日仕入れる魔銀や魔石もいい物を選んでくれ」
この世界だとまだ丁稚奉公というか、見習い期間は無給とか平気である。
それどころかこの辺りには奴隷制度もあって、犯罪者や返済不可能な借金を抱えた者などは割と公平な裁判の後、一定期間、もしくは死ぬまで奴隷として過酷な労働に従事する事となる。
冒険者でも依頼に失敗すると奴隷落ちすることがあるらしいが、その場合は適材適所で能力に応じた仕事が振られるそうだ。魔法使いとかは貴重だし、働き口なんて幾らでもあるだろうからな。
「わかった。遠慮なく良い物を選ばせてもらうわ」
「そうしてくれ。邪魔するぜ……」
「よう、リューク、久しぶりだね」
「なんでラッセルがここに居るんだ? 隣の冒険者ギルドの職員だろうが」
冒険者ギルド【深海の館】の登録冒険者にしてギルド職員のラッセル。この辺りは冒険者が少ないのでこうして冒険者が冒険者ギルドの職員をしている事も割とある。そして冒険者ギルドのマスターは大体元冒険者だったりする。
俺は登録もせずにガキの頃から冒険者の真似事をしていたが、ラッセルはその時に知り合った本格の冒険者だ。
「今の冒険者ギルドは暇だからね。冒険者をしていない時は、こうして店番なんかもさせられるんだ」
「ラッセルならどんな奴が来ても取り押さえられるからだろ」
「はははっ、この辺りの冒険者で僕がいるのに暴れる馬鹿はいないよ」
「だろうな」
ラッセルはただ強いだけじゃなく速い、それも常人の域をはるかに超える速度だ。眼のいい俺でもこいつが本気で動くとほとんど見えない位だしな。こいつの裏の顔は盗賊ギルドの一員だと、俺は確信している。
人当たりは良いし新米冒険者の面倒見もいいんだが、あまりこいつを舐めて小馬鹿にしたりすると何故か冒険者として活動中に命を落としたりするって話だ。もちろん、証拠を残すようなヘマはしない。だからあくまでも噂だが、馬鹿な冒険者が何人か戻ってこなかったのも事実だ。
「それで、今日は何の用だい? 買い取りは隣の建物だよ」
「ちょいと商売で小銭を稼いだんだ。それで日常生活を豊かにするために、魔導具なんて考えようと思ってな」
「リュークだったら色々考えつくだろうね。あんまり危ないものはよしてくれよ」
「……流石に見抜くか」
俺が作ろうとしている物の一つに銃がある。しかも実弾を飛ばす銃ではなく、魔弾という魔法を利用した、魔力の弾を飛ばす魔導銃だ。魔弾は初心者の魔法使いでも使える攻撃魔法だが、込める魔力によってかなり威力が変わる面白い魔法で、俺はそれを武器として利用しようと考えた訳だ。
図面は既に頭の中にあるし、必要な物はすでに調べてある。ただランニングコストが悪いというか、そこそこの威力の魔弾を放つには最低でも千スタシェルから五千スタシェルする【普通】程度の純度の魔石が必要だ。
つまり一発撃つのに元の世界の金に換算して一万円から五万円かかる。命を守る武器とはいえ、そうポンポンと気楽に撃てる訳じゃないって事だな。
「リュークは知り合った頃から異常だったからね。その小さな体にどれだけ多くの才能を隠してるんだい?」
「ノーコメントだ。たとえ相手がラッセルでも、手の内は明かせねえ。そんな事より魔銀と魔石が欲しいんだが」
「向こうの一角に幾らでもあるよ。最近は魔導具を作れる人も減ったし、在庫過剰なんだ」
ラッセルに言われた場所には本気で山積みというか、魔銀がバカでかい箱に入れて放置してあった。
魔石に関してももう少し丁寧な扱いだが、普通純度程度の魔石の扱いは悪く、魔銀とほとんど変わらない保管状況だ。これ、ちゃんと魔力残ってるんだろうな?
「すごい量だな……。全部ダンジョン産なのか?」
「ここにある魔銀はそうだね。魔石に関してはアルバート子爵家の領内にあるダンジョン産の物も多いよ。流石にある程度年数が経つと、中の魔力が無くなるからさ」
「こっちの領内には魔導具職人もいないの?」
「彼女は?」
「訳ありでな。以前はロドウィック子爵家の領内にいたそうだ」
詳しい経緯は説明する必要はないだろう。ラッセルが盗賊ギルドの職員であっても、他の盗賊ギルド職員が受けた依頼の事は知らない。あいつらは仲間内でも遂行中の任務については絶対口外しないからな。
ラッセルは俺の事を気に入っているあいつではない。流石に格が違うというか、ラッセルは凄腕ではあるがあいつには到底及ばないだろう。
「凄い、向こうでは見た事が無いような品質の魔銀や魔石ばかり。混ざり物も無し、魔石も同じクラスの物でもいい物が揃ってるわ」
「一応僕が管理してるから、品質には自信があるよ。混ざり物の多い魔銀や魔石は別の店に並んでいるさ」
「流石というか……。今後はかなり世話になりそうだ」
これで魔導具を作る材料の入手先には困らないな。後は腕のいい鍛冶屋がいれば完璧だ。いや、貴族や王族相手にするには相応の腕を持つ家具職人も必要か。無骨なデザインじゃ王族には受けないだろう。
俺が今考えている魔道具は、魔道具その物にはそこまで価値はない。鍛冶職人と家具職人がいれば誰でも作れるような代物だ。魔道具と呼ぶのもおこがましいかもしれない。
しかし、俺が売ろうとするその本質というか、本当の目的はその先にある。ただ物だけ売って終わりじゃ先が無いのさ。
「この辺りを使えばいろいろできそうね。でも結構するわ」
「今抱えている分だったら、全部で五万スタシェルでいいよ。最近は纏め買いしてくれる人もいないしね」
「いいのか? あの純度というか、内包する魔力量だと魔石だけでも結構するだろう」
「触りもしないでそれを見抜くリュークが怖いよ。魔石の魔力量でも見えるのかい?」
「近いかもな」
最近魔導具を作るようになって、魔石の純度や内部の魔力が分かるようになった。
魔導具に組み込まれている構造の中に魔法もあるのだが、俺が直接その魔法を使おうとしても発動する事は無かった。魔石と同じ様に俺の中の魔力を調べた結果、十分な魔力はある筈なんだがな……。
発動しない物は仕方がない。という訳で魔法銃の開発に着手しようと思ったわけだ。いつまでも命のやり取りをクロスボウで頑張る訳にはいかない。
「リュークって本当に凄いのね」
「リュークと付き合うのは大変だよ。いずれ分かると思うけどね」
「べ……別に付き合ってる訳じゃ!!」
「わかってるさ。今のリュークは色恋沙汰なんて考えないだろ? その先を掴むまでは……」
「俺の事をそこまで理解してるのは、ラッセルとシスターシンシア位だな。まあそういう事だ」
その先の先……。
たとえ俺が悪党と呼ばれようと、何かの間違いで英雄と呼ばれようとかまわない。
この地獄の様な世界を、少しでも平和な形に変えていかないとな。
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