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第二十一話 ホワイトバスの香草焼きですね。ここまで大型なのは初めてみました




 和紙に関して話をしようと思ったが、ちょうどいい時間という事で軽い昼食をとりながら話をする事になった。


 貴族や商会の人間が普段どんな物を食べているのか気になったのでありがたいが、正直こんなメニューが出てくるとは思ってもいなかったが。


 白い柔らかそうなパン、鳥か何かと野菜を煮込んだスープ、そして中央の大皿にはこんがりと焼かれたデカい魚が鎮座している。この料理は内臓を抜き取って香草と一緒に焼いた魚だな……。


「こんな料理は初めてかもしれないが」


「ホワイトバスの香草焼きですね。ここまで大型なのは初めてみました」


「リュークは料理にも詳しいみたいだな。こんな料理を食べられるのは、この辺りでも貴族や一部の商会の人間位なのだが」


「今住んでいる村では色々作っていましたので。貴族の方は魚を好まれるのですか?」


 ホワイトバスっていうのは真っ白い鱗を持つ割と美しい一メートルを超える巨体に育つ大型のバスだ。バスなので当然白身でこの辺りの水質はがいいので当然その身に臭みなどほとんどない。川魚の中では比較的美味しく頂ける種類の一つで、あの村の近くの川でもブナマスに混ざってよく獲れたりする。あの辺りにいるのはここまで成長する前で、大きさは半分以下だったけどな。


 で、その成長したホワイトバスの内臓を抜いて香草と一緒に焼いたのが目の前にある料理だが、昼食とはいえ貴族の食べる料理がこの程度なのか? これだったら寒村の飯の方が豪華だぞ。


「いや、そこまで好んではいないよ。基本的にこの街では魚はあまり食べないんだ。こうして昼食に食べる事はあるが、夕食で魚が出る事はまずないな。とはいえ、流石に我々の食卓に羊肉を出す訳にもいかないので、夕食のメインでは山鶏(やまどり)や角豚などを食べる事が多い。その為に山鶏(やまどり)や角豚は飼育なども行っている」


「外周沿いにある小屋の事ですか。あそこで山鶏(やまどり)の飼育をしてたんですね」


「ああ、冒険者ギルドなどの買取では間に合わないからね。貴族の食卓に並ぶ事が一番多いのは山鶏(やまどり)だ」


 道理で山鶏(やまどり)は割といい値で買い取ってくれると思った。飼育してる数じゃ足りないから、猟師や冒険者からも買い取ってたんだな。俺もガキの頃自分で食いたいのを我慢して売ったりもしたしな……。


 意外なのは近くに割と大きめの川があるのにあまり魚を食ってないって事だな。小型のホワイトバスやブナマスはともかく、ほかにもいろんな魚がいるだろうに……。


「意外でした。もっと魚を食べていると思っていましたので」


「ホワイトバスはまだましだが、他の魚は生臭さかったり食べにくいものが多いからな。そんな事よりも、せっかくの料理だ。温かいうちに食べてくれ」


「いただきます。……岩塩がよくきいて美味しいです」


「リュークはどこか貴族の出なのか? 隣の彼女もそのように見えるのだが」


「いえ、両親は街中で小さな個人商会を営んでいました。もう七年程前の話ですが」


「私の両親は魔導具職人です。食事のマナーなどにはうるさかったので自然に……」


 両親が野盗に殺されて、もうその位にはなる。


 小さな馬車に積んでいた荷物は根こそぎ奪われ、発見された時にはボロボロになった両親だけが残されていたそうだ。


「そうか、悪い事を聞いたな」


「いえ、この辺りでは珍しくも無い事です」


「リュークの望みは両親の敵討ちなのか? もう七年前となると犯人の特定は難しいが」


「今更犯人を探そうとは思っていません。和紙などでこの街が潤えばやがて野盗は減るでしょうし」


 今は金が無さ過ぎて、領主が抱えられる兵の数が少ないのが問題だ。兵士になる人間もいないしな。法衣騎士爵家は基本的には有事の時は騎士として戦いに参加する義務があるが、緊急事態でもない限り騎士団を編成するのは難しいという話も聞いている。


 盗賊や野盗の討伐も本来であれば騎士の仕事ではあるのだが、何処に潜んでいるのか分からない野盗を見つけ出して討伐するには色々と足りないものが多いって事だな。


 俺の目論見通りに事が進めば、この辺りの野盗を根絶する程度の兵数は雇うようになるだろう。


「和紙など? 他にも何か売れる物があるのか?」


「今私が持っています和紙の在庫。これを引き取っていただければ別の商品の開発に充てられます。時間のかかる物もありますが、王都から金を巻き上げるには十分な商品の筈です」


「和紙の在庫か、あとどのくらいあるんだ?」


「千枚ほどです」


「現在の価格だと、最低でも五百万スタシェルか……」


 実際にはもっとあるが、取引を持ち掛ける事が出来る枚数はこの辺りが限界だ。こちらから買い取りの話を持ち掛けました、現金不足で買い取れませんでしたじゃナイジェルのメンツをつぶす事になりかねない。


 とはいえ、今持ち掛けた枚数でも金貨で五百枚、現在のレナード子爵家にポンと払える額じゃないのはわかってるさ。そんな金があるんだったらもう少し兵数を増やすだろう。


 昔両親が生きてた時に聞いた話だが、このレナード子爵領の総税収も大したことないって話だしな。


「全額とは言いませんので、一部を手付けで頂ければありがたいのですが。残りは後で銀行にでも振り込んでいただければ十分です……。レナード子爵家とは、この先長い付き合いになるとおもいますので」


「おお、そうか。それは助かる」


「それと和紙の生産についてですが、私が今拠点にしている村を使えば効率的に生産が可能だと思います。その時に今の住人はそのまま住ませていただければありがたいのですが」


「その村人たちも和紙を作ることができるのか?」


「和紙を漉けるのは私だけですね。ですが彼らはあの辺りの地理などに詳しいので、効率よく和紙の材料を集めてくれるでしょう」


 楮の事を知っているのはマカリオとオリボ達くらいだけどな。村の周りを切り開いた時なんかに、楮の木なんかは全部俺が引き取った。


 和紙の木に関して俺はマカリオとオリボにすら情報を隠している。


 あの木は楮に比べて数が少なく、また繊維層の生成にはコルクと同じ様に時間がかかると予測されるからだ。この先の状況を見てあの木を増やすか繊維層を回復させる方法を見つける必要があるな。


「それだけで和紙の生産拠点に住まわせる訳には……」


「現状で百人近い村人がいますが、衛兵代わりに住まわせれば余計な金を使わなくて済みます。それに、彼らを排除して和紙製造の情報が他に流れる方がまずいでしょう。和紙を製造できなければ邪魔する者も出て来るでしょうし、邪魔するには楮が生えている荒れ地を焼けばいい訳です」


「なるほど。村人はあの辺りに住んでいる者の顔を知っている。余所者がいれば気が付くという事か」


「はい。和紙の製造が安定し、街に居住したいというものがいればそうするのもいいでしょう。ですが、それは時期尚早と考えます」


 こうでも言っとかないと、あの村の住人はいなかった事にされかねないからな。


 和紙の製造技術を考え出した俺は利用価値があるからそう簡単には殺さないだろうが、あの村にいる奴らは和紙の製造に関しては邪魔者に過ぎない。


 楮や和紙の木の繊維の入手や必要な物を確保する為に、和紙の生産拠点を作るにはあの辺りがいいし、別の場所に新しく村を建設させた所でそのうちあの村の存在が邪魔になるのは目に見えている。流石に一年ほどとはいえ仲間だった連中が殺されるのは避けたいからな。


「ずいぶんと甘いな」


「裏切り者は容赦しませんが、使える者は使う主義でして。人手は多い方がいいですよ」


「そういう事にしておくか。ところで先ほどの和紙の件だが、一時的に支払う額は百万スタシェルでいいかな? 残りの額を振り込む口座はこちらですぐに用意しよう」


「はい、それだけあれば十分です。口座の事もありがとうございます。それと、和紙の製造が進めば確実に起こるであろう問題ですが」


「アルバート子爵家の羊皮紙か? あそこにとってはかなりの痛手となるだろうからな」


 やはりそこが問題だ。


 税収が減って喜ぶ奴はいないからな。


「現在どのくらいの税収と言いますか、羊皮紙の売り上げがあるかわかりますか?」


 今の税収というか売り上げが分からなければ手の打ちようがないし、売り上げの額次第じゃ対策の規模も変わってくる。


「アルバート子爵家の羊皮紙の生産数は年間約六万枚、売り上げにして千八百万スタシェルといった所か。税収としてはその三割程度で、五百四十万スタシェルほどだろう。羊皮紙を生産しているのはアルバート子爵家だけではないし、国全体に出回っている羊皮紙の割合から考えれば微々たる量だ。むしろ、そのほかの貴族の方に影響はあるかもしれんな」


「遠い所は当面問題にはならないでしょう。ですが、アルバート子爵家と敵対することは愚策です。その為に時機を見て向こうにも何か持ち込もうと考えています。減った売り上げの補填としては多すぎる額になるかもしれませんが、その方が向こうを味方につけるにはちょうど良いでしょう。あの城壁の維持には協力者が必要ですし」


 城塞都市トリーニの北側を統治するアルバート子爵家の税収の何割かを羊皮紙が占めている。順調に生産が進んで和紙が普及すれば、羊皮紙の売り上げにもかなり影響が出る事は間違いない。


 他の貴族領にも影響が出るだろうが、そもそも羊皮紙だけの売り上げをそこまで重要視している貴族領は他にないだろう。この国の最北に位置する侯爵か何かが羊皮紙を売りにしていた気がするが、あそこもメインは羊毛で羊肉と羊皮紙はついでといった感じだしな。


「本当に恐ろしい少年だ。その若さでそこまで考えるものなのか」


「この街の状況を考えれば……」


 あの城壁は無用の長物に見えるが、万が一魔物や魔族がこの街に迫った時には文字通り最後の砦となる。


 今のところ魔族が攻めてくる気配がないとはいえ、その万が一に備えるのがこの街を治める者の最低限の役割だ。万が一城壁がこのままではその万が一の時には、子爵家の人間も生きてはいないだろうしな。


 とりあえずではないが、まず城塞都市トリーニが本来の姿を取り戻さない限り、俺の計画も先に進まない。


 その為にはトリーニを支配する子爵家には、ある程度力を付けて貰わないと困るんだ。


「今日は本当にいい取引が出来た。リュークと知り合えたのも大きい」


「時間はかかりますが、このトリーニを平和で美しい城塞都市に戻しましょう。周辺地域も含めてですが……」


「それがリュークの本当の目的かな? 敵討ちとはいえ、遠回りで大掛かりな事を考える」


「野盗の居ない安心して暮らせる世界。両親が生きていたら、そう望むでしょう」


 この辺りに無数にある野盗のアジトを一つや二つ潰しても意味はねえのさ。


 野盗は皆殺す。情け容赦なくひとり残らず。


 両親の敵討ちじゃないが、人を襲って奪った金や物で暮らしてる奴らがいるのは見過ごせない。悪党を名乗るなら悪党らしく筋を通して本格でやらねえとな。


 


読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

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