第二話 持ち込んだ食料と酒の在庫はまだまだあるが、この村の周りにある荒れ地で狩りをしてみるか
本日2話目になります。
広大な荒れ地の中に存在する片田舎の寒村に潜伏して、今日で三日目になる。
住み着いた家の整備や掃除、それにいろんな確認作業に手間取ったがそろそろ活動を開始しても大丈夫だろう。
この家の周辺でたまに姿を見せる村人からは勝手に住み着いた家から出て行けと言われる事もなく、割と拍子抜けしている。この村の住人からしてみれば、無理やり俺を追い出そうとした場合この少ない村人でどんな戦闘能力を有しているかわからない人間を相手にしなきゃならない訳で、こんな寒村にはそんなリスクを冒してまで誰かを追い出そうって気概のある奴はいないみたいだ。
この世界には魔法もあるし、見た目だけじゃ判断できないのはでかいよな……。この村に居る奴らが魔法を使える可能性はほぼゼロだが、それでも油断はできない。ただ、魔法が使えりゃこんな寒村に居る訳も無いんだよな……。
流石に俺が何か問題を起こせばこの村から出ていけ位は言うつもりなんだろうが、とりあえず何も起こさないうちは様子見って事なんだろう。
「持ち込んだ食料と酒の在庫はまだまだあるが、この村の周りにある荒れ地で狩りをしてみるか」
潜伏する前に数日と潜伏してから数日、この村の様子をうかがってみたが数人が家を出て小さな畑の世話をしているだけだった。
この村の近くには川がある。だから食料を得る為に村人の誰かがそこに罠でも仕掛けに行くのかと思えばそんな事もしていないみたいだし、かといって誰かが周りの荒れ地に狩りに向かっている姿を見た事もない。
基本的にこの村には若い奴らがほとんどいないというか、俺より少し年上の奴を数人見かけたが他はガリガリに痩せてほぼ死にかけてる爺さんや、大きな怪我をして杖なしでは歩けもしないような奴らばかりだった。
いったい何があったんだ? あんな状態の奴らだらけでよく村を維持できるな……。
っと、そんな事よりも狩りだ。
「この辺りには白毛長兎や山鶏が多い。ほとんど手付かずの荒れ地なんで餌が豊富にあるからなんだろう」
白毛長兎は大型の兎で、毛皮がかなり高値で売れる他に身の方もそこそこ旨く食えるのが良い。この辺りに居る白毛長兎は特に毛並みがいい気がする。やっぱり餌が豊富だと違うんだろうな。
こいつの毛皮を十匹位纏めて売れば、この村の奴らの一年分の収入を軽く超えるはずなんだが、こいつを狩りもせずに野放しにしてる神経が分からない。確かに白毛長兎の牙はその外見からは想像できない位に鋭く、無防備に近づけは大けがをする危険性もあるんだが。所詮は獣、きっちり対策をすりゃこわくもない。
山鶏は山や荒れ地に多く生息する体長一メートルに迫る大型の鶏で、若干筋肉質ではあるが肉がとても旨くて最高だ。トリーニでも結構高額で買い取ってくれるので、副収入源として狩っている冒険者も多い。
若い個体だとそこまで大きくないし、身も柔らかくてかなり旨いんだよな。卵も見つかれば最高なんだが……。
「元の記憶にある戦闘術、それに武器の知識。地獄の様なこの世界で生きてきた俺の経験。これだけあれば狩りなんて楽勝だぜ」
どうして元の世界で戦闘経験があったかは疑問だが、あるものは仕方がない。知識に関しても色々とおかしいことだらけだけど、そこを考えてもこの状況は変わらない。ありがたく使える物は使わせてもらおう。
街から逃げる時に手に入れた小型のクロスボウは俺の命綱の一つだが、威力は高いが故障が多いと評判でその為に比較的に安く手に入ったのは幸運だったぜ。使い方次第というか、そこまで無茶な使い方をしなけりゃ十分に使えるんだがな。
万が一の時の為に、これが使えなくなった時の為の武器も増やすべきなんだろう。小型のナイフやスリングショット位はサブウエポンで用意しているが……。
「群れからはぐれて単独で行動している山鶏はいいカモだな。矢で射ってもなかなか死に難いが、血抜きの為にゃ少し生きててくれないと困るから逆にありがたい」
元の世界の鶏もそうだったけど、首を落としてもしばらく動くんだよな……。
山鶏はでかいから血抜きもタイヘンだぜ。……クロスボウで仕留めた後、首を切ってデカい麻袋に突っ込んでそこらの木に吊るしてるだけだが。体がデカいから重いんだよな……。
「今日の成果は山鶏六羽に白毛長兎三匹か……。食料としては十分だが、もう少し白毛長兎を狩りたかったぜ」
当面の食糧になる山鶏はともかく、白毛長兎の方は肉より毛皮だからな。
今後の資金を考えれば白毛長兎の毛皮は多い方がいい。いざって時には冬の備えにもなる。白毛長兎の毛皮を使った毛布とか、かなり贅沢な話だけどな。
「豊かすぎる荒れ地の恵みに感謝だが、この広大な荒れ地のどこにこいつらをこれだけ食わせるだけの食糧が生えてるんだろう? この土の下に大量の虫でもいるのか?」
ちょっと考えただけで怖くなったから、これ以上詳しく考えるのはやめよう。ここは異世界、不思議な事があってもおかしくはないし……。
さて、この大量の山鶏を一人で食える訳はない。俺一人の晩飯にするには、片足を焼いて食えば十分な量になる。
となると、これはマジックバックに保管した後で街に売るより、あの村の住人に配って回った方がプラスになるだろう。
とりあえずはあそこかな……。
◇◇◇
村に戻った俺はまっすぐ村の中心にある大きな家を訪ねた。この家が持つ畑の周りを囲むように柵があるが、それはこの家がこの村で一番偉い人間……、つまり村長が住んでいるからだ。
あんなボロボロの柵でも無いよりマシで、他の畑より害獣の被害が少ないっていうんだからすごいよな。この村にある全部の畑に柵をすりゃいいのに、人手が足りないからそこまで手が回らないのか?
「すいません、少しいいですか?」
「なんじゃ? 何か相談ごとでも……。誰じゃ?」
「数日前から村に住まわせて貰っている者です。遅くなりましたが挨拶に伺いました」
こんな小さな村の長とは言え礼を尽くして話さないとな。此処にはしばらく世話になるだろうし。
「何しに来おった? 儂に何かすれば……」
「今日荒れ地に狩りに行きまして、そこで仕留めた山鶏のお裾分けを持ってきました」
血抜きの終わった山鶏を二羽、村長の目の前に差し出した。流石に羽までは毟ってないし内臓もそのままだ。あれって手間がかかるから流石に二羽分余計ににはやりたくない。
マジックバックに突っ込んでいたから、狩った後殆どそのままの状態で新鮮そのものだぜ。
よっぽど意表を突かれたのか、村長は俺の顔と山鶏を何度も見比べてるな……。
「おぬし一人で山鶏を、狩ってこれたのか?」
「荒れ地にいくらでもいますからね。狩るのは難しくないですよ」
「この村に居る者では無理じゃ。山鶏でも群れれば人位襲うんじゃぞ。この村の者は肉など畑を荒らす茶豚鼠を駆除した時に食えるくらいじゃな」
茶豚鼠は元の世界に居たヌートリアによく似たネズミで、畑を荒らす害獣だが動きはかなり遅い。
俺も何度かその現場を目にしたが、この村の住人はよく捕まえて食べているようだ。この村に潜伏する前に俺も試しに一回食ってみたが肉は意外に旨い。茶豚鼠の肉がこの寒村を支える貴重なたんぱく源なのは間違いないだろう。
村人が捕まえてるのを見た事があるが、あれだけいるのにそこまで肉が食えないのか? 茶豚鼠は雑食な上になんでもよく食べるみたいで、何処の畑の近くにも二~三匹はいるよな?
「食糧が少ないなら畑もいいですが、近くの川で魚でも捕まえればいいんじゃないですか?」
「釣り糸を垂らしても釣れぬ時は釣れぬ。そんな時間のかかる運任せより、確実に食料が手に入る畑を耕す方がいいじゃろう」
「釣りもいいですけどね……」
暇を持て余してるならともかく、魚を捕まえるんだったら普通は罠だよな。別にこの辺りで禁止されている訳でもなし……。
罠を仕掛ける時間と回収する時間が余計にかかるだけで、あとの時間は他の作業が出来る訳だしな。
もしかして罠の作り方や仕掛け方も知らない? 説明するのは面倒だし、今度川に罠を仕掛けて成果と一緒に持ってくるとするか。
「山鶏は感謝するが、この村にいる以上あまり無茶はするでないぞ」
「そこまで無茶はしませんよ。また山鶏を仕留めたら持ってきます」
「すまん。こんな寒村では肉は貴重でな……」
茶豚鼠は捕まえ放題なんだろうけど、毎日同じ肉って飽きるだろう。
村長に顔を売ればこの村に潜伏してても問題ない筈。
念のためしばらくは山鶏くらい届けてやるがな……。
読んでいただきましてありがとうございます。
楽しんでいただければ幸いです。
誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。