第十五話 今は五十人以上いるしな。以前コボルに襲撃されたんで、その対策もしてある
無事に村の近くまで来たが、ここまで野盗に襲われることも後を付けられている様子もなさそうだった。
普通の村人にしちゃいい恰好をして馬まで乗っているんだ、少し頭のいい奴だったら野盗狩りをするために村人に装った兵じゃないのかと疑る可能性の方が高い。普通の村人は絶対に馬なんて使わねえしな。
「思っていたより大きな村なのね。それに、村とは思えない防備がされてるんだけど」
「今は五十人以上いるしな。以前頭犬獣人に襲撃されたんで、その対策もしてある」
「五十人程度の村なの? これだけ整備されてるのに?」
「いろいろ苦労したのさ。食事は期待していいぞ。下手すりゃあの街で食うよりいい食生活がおくれる」
パンも俺が焼き方を教えてから格段に旨くなったしな。
僅かではあるが竹糖に近い種の竹が見つかったのもでかい。あれのおかげで少しでも砂糖が収穫できている。おかげでパンはうまくなった。
「ここだけ別世界みたいね。広大な荒れ地の先にこんな村があるなんて……」
「この村につながる道も元々は獣道なんだろうしな。かなり前に冒険者が押し寄せてたらしいから、その時期に切り開いている可能性もあるが」
「冒険者の興味を引きそうなものがあったの?」
「オープンダンジョンの噂がな……。よくあるガセだ」
もし本当に見つかっていたら、今頃どうなっているやら……。
俺の計画には本当にこの広大な荒れ地が都合がいいので、出来ればしばらくは独占しておきたいところだ。
「昔、あちこちでダンジョンやオープンダンジョンの噂があったの。向こうの領地でもね……」
「誰かが意図的に流した?」
「そう考えるのがいいかな? そして冒険者に探らせて、もしそこに村や山賊の拠点を見つけたら……」
「討伐するか、裕福そうだったら徴税するって魂胆か。頭のいい奴がいるな」
この村は確実に来年の秋には徴税対象だ。おそらく春先か初夏には子爵家の誰かが訪ねてくるだろうぜ。分家の分家かもしれねえが。
俺の計画がうまくいくのが早いか、そいつらがこの村をかぎつけるのが早いか。どっちに転んでも悪い話じゃないんだが、出来れば俺の方が先にあいつの所に顔を出したいところだぜ。
アリスの能力がどのくらいかと、それで作り出される魔導具の性能次第だな。和紙の生産力向上すれば、村人を雇う必要もなくなる。
◇◇◇
村に着いたのでとりあえず村長にあいさつに行くことにした。
ワインの樽を一つ手土産に買ってきたが、これだけあればしばらく飲めるだろ。熟成の短いワインだが、それでもひと樽で二万スタシェルくらいするからな。
「おおっリューク、よく戻ってきてくれた」
「そりゃ戻りますよ。それと新しい村人と言いますか、そのうち俺が立ち上げる商会の従業員を連れてきました」
「アリスフィーネです。よろしくお願いします」
ん? 村長が微妙な表情をしているが、おそらく嫁を連れて来たと思ってるんだろうな。
別に俺はカリナと結婚とか考えているわけじゃないし誤解させたままでもいいんだが、一応誤解は解いておくか。
「言っておきますが、嫁じゃないですよ。従業員に手出しする男になった覚えはありませんし」
「いや、おぬしがそんな男だとは思ってなどおらぬよ」
「そうでしたか、流石は村長。これはトリーニで買ってきたワインの樽です。これだけあればしばらく飲めるでしょう」
ひと樽と言ってもかなり量があるからな。
正確に何リットル入っているかは知らないが、元の世界で見た一斗樽の数倍の大きさだ……。このまま運ぶんだったらかなり重労働で手間だが、村長もマジックバッグを持っている。設置場所まではそれで運ぶだろう。
「死ぬまで楽しめそうな量じゃな。村で何かあった時にも使わせてもらおう」
「それとこれはパンを焼く為の小麦です。これだけあればしばらくあると思います」
「おおすまんな。代金じゃが……」
「いろいろ協力して貰っていますし、アリスや俺の分のパンを焼いてもらえばそれでいいですよ」
「本当に助かる。これだけあれば冬を越せるじゃろう」
五十人近い村人のパンだから結構な量の小麦になるんだが、ロドウィック子爵家の小麦はこの辺りの人口が減った事もあって割と余っているので、纏め買いをするとかなり安いんだよな。
新しく買った少し大きめのマジックバッグに満載させたから、金貨一枚程度の額で結構な量が買えた。
「それとアリスの家なんですが、大き目なのを俺の家の近くに建てて欲しいんですが……。仕事場なんかもありますので細かい事は後で知らせます」
「そうね。できれば工房が欲しいわ」
魔導具職人の娘らしいというか、詳しくは聞いちゃいないがアリスも簡単な魔道具の設計と魔導具の作成ができるらしい。
俺もそこまで詳しい訳じゃないが、使用する為に機械的なというか魔法的な技術なんかを使わない物が魔道具で、エネルギー源として魔石なんかを常に必要とするのが魔導具という話だ。
マジックバッグは魔道具で、魔石を使用して明かりを灯す魔導灯なんかが魔導具って事だな。大掛かりな物になると魔導機と呼ばれるらしい。
魔道具職人と魔導具職人が分けられていないのは、大なり小なり大体どっちも設計くらいはできるからだが、魔道具専用の人間は一応魔道具師って呼ばれていたりもする。
「工房か……、確かに村の発展にもってこいの人材じゃな」
「そうでしょう。今はその家がありませんので、しばらくはうちで面倒を見ようと思います」
「「「え?」」」
声が三人ハモった!!
よく見れば村長の後ろにカリナがいるじゃないか。というか、アリスまでその反応なのはなぜだ?
「俺の家は広いですし、色々拡張していますんで現状でもアリスの部屋位ありますよ。流石に工房までは無理ですが」
「そういえばリュークの家じゃしな。この村で儂よりデカい家に住んでおるのはおぬしくらいじゃ」
「頭犬獣人対策の時に狩りの道具なんかを作る作業場に獲ってきた獲物の加工場、大き目の台所といろいろ増やしましたよね? 加工場や解体場は俺の家の外にも共同の場所を作ったみたいですが」
「必要という話じゃったからな。村の者も協力したじゃろ」
元々大きな家だったけど、やがて紙漉きをする事を念頭に入れて何度か拡張したんだよな。
罠とか武器とか色々作るのに手狭になったって事情もあんだが、その時に外部からの水の引き込みとか、湯を沸かす為の大型の竈なんかも増設してある。
「なんだ、そういう事だったのね」
「どういうつもりと受け取ったのか、後で説明してもらうぞ」
「リュークさんが誰かに手出しするとは思いませんが、少し複雑な気はします。やはり本命は……」
ん? カリナが何かぶつぶつ言っているが、別に俺は誰ともそんな素振りは無い筈だが?
流石にシスターシンシアの事は知らないだろうし、他の女の影も無い筈だ。
「とりあえず詳しい話は後日で。何かいい物が出来たら届けますよ」
「うむ。期待しておるぞ」
村長との顔合わせも終わったし、今日はこのまま家でゆっくりと過ごすか。
食材はまだあるし、しばらく狩りに出なくても大丈夫だろう。
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