第十三話 ここだ。こんな時間から真面目に店を開いてるみたいだな
翌日、俺はアリスと共に大手の魔導屋の前に居た。店の名前はジンデル魔導具店。中央通りに比較的近い場所に店を構える中堅どころの魔導具屋だ、この位の規模だったらそこまでアコギな商売はしやしねえだろう。
それでも客を騙すくらいは平気でするだろうが……。
「ここだ。こんな時間から真面目に店を開いてるみたいだな」
「真面目に開いて無い店なんてあるの?」
「店に偽装して入ってきた奴から金を奪う所もあるぞ。街道沿い以外にある名前も知らねえ個人商店なんて、露店以外は入らない方がいい」
「本当に酷い街なのね……」
でなけりゃ、俺が街から出ていかないさ。
あのまま街に居ても状況を変える事すらできなかったからな。こんな状況の街にしがみついて未来の見えない商売なんてできるのが凄いぜ
「どこの店も客だって滅多にいないだろう。この街でまともに買い物ができるのは王都と交易してる大商会や一部の貴族だけだ」
「リュークはできるの? 貴族でも大商会の人間でもないのに」
「俺はもう、街の人間じゃないからな」
魔導具店のドアをくぐるとそこには無数の魔道具が並んでいた。一部ではあるが、魔導具も扱っているみたいだな。
その大半はダンジョンからのドロップ品ではあるが、魔道具師が作った商品の中古なんかも並んでいる。魔導具の方は魔導具職人の作品だろうけど。
「いらっしゃい。何か探してるのか?」
「冷やかしじゃないが、商品を見せて貰うぜ」
「へ~、色々あるんだ」
目的はマジックバッグの購入だが、何か便利な魔道具があればそれを購入してもいい。特に魔導時計は欲しいと思っている。値段次第なんだが……。
和紙の製作効率が上がりそうなものが見つかればいいんだが、そう簡単にはいかないだろうな。
「この辺りかな? 全部で十個」
「なんだマジックバッグを探してたのか。そっちにあるのは役に立たなゴミだぞ」
「ゴミ? ああ、スラム地区裏通りガス爆発事件のアレか?」
「なんだ知ってたのか……。まさか」
「いや、そのうちこの街で商売をするかもしれなくてな。準備だけはしておいた方がいいだろ?」
「何の準備だよ!!」
スラム地区裏通りガス爆発事件。
この街は中心部に行けば行くほど金持ちや貴族が集まるが、城壁の近くは完全にスラムと化している。
そこに居たある男が、何処かから拾ってきたのか時間経過の速い小型のマジックバッグを手に入れ、その中にいろんな食べ物を詰め込んでいた。そして当然内部で急速に腐敗が進行し、マジックバッグの容量を超えたガスが外部に漏れだし、最終的に近くにあった小屋にガスがたまってそれに引火して大爆発を起こした。
その時は引火に至るまで完全に偶然起きた事だったが、同じ方法で自分の商売と競合する店の近くでそれを行い、事故に見せかけて爆破してやろうって奴が次々に現れた。匂いがきついから警戒されてると、ガスが漏れ始めた時点ですぐにばれるんだけどな。
「よほどのことが無けりゃしねえよ。それにここで買った事は黙ってるさ」
「あんた、若い割にいい根性してるな。確かに腹に据えかねる店ってのはある」
「俺が買ったってのも黙っててくれよ。これ全部欲しいんだが」
「ゴミが十枚と……、まともなのが一つあるぞ」
「まさか何も買わずに出ていきましたじゃ都合が悪いだろ? 実際は違ってもな」
しかし、十枚も時間経過が早いマジックバッグがあるとは思わなかった。一応レアドロップらしいんだが、ハズレの方のレアって残念そのものだしな。
これで何とかもう一つの策も始められる。魔導時計は探したが、これといったデザインのものが無かったのでこの店では見送りだ。
「本当によく頭が回る奴だな。それは九百スタシェル、ゴミはほとんどタダだが全部で百スタシェルだ。お前みたいなやつじゃなければボッタくるところだぞ」
「そいつは悪かったな。銀貨十枚でいいか?」
「毎度、アレを仕掛ける時はあまりこの近くでやってくれるなよ。アレはしばらく匂いが染みついて大変なんだ。成功されても面倒だしな」
「違いねぇ。バレるのは覚悟のうえで、あえて匂いをキツくして営業妨害なんて奴もいた」
「最近は衛兵の見回り回数が増えてる。どんなに遅くても数日で見つかるぞ」
人口が減ったために衛兵の数が増えてるように錯覚されるが、今までいろんな事件に駆り出された奴らが暇してるだけって事だな。
それで犯罪が減るんだったらいいんだが、現実はそう甘くない。
「またな。そのうち買い足しに来る」
「どこ攻めようとしてるんだよ……」
「内緒だ」
ここまで言っておけば、この店員は俺の目的が営業妨害だと推測するだろう。
本当の使い方を教えたら、このマジックバッグの値が幾らになるかわかったもんじゃないからな。
◇◇◇
俺がマジックバックをカバンに入れていると、アリスがジト目でにらんでいた。
そういえばこいつにも本当の目的を話してなかったな。
「リュークって、もしかして意外と悪い人?」
「俺は悪党を自覚しちゃいるが、そこまで悪事にゃ手を出してないぞ。さて次の店だ」
「頼る人を間違えたかしら……」
誤解させたままで悪いが、このまま買い物を続けさせてもらおう。
この後、魔道具店を三軒回って合計で百枚近いゴミマジックバッグと大き目のまともなマジックバッグを三つほど追加入手した。そのほかにも廃棄寸前の魔導具や、前から欲しかった魔導時計なども入手したぜ。やはり商売をするには時間に正確じゃなけりゃな。
そして酒屋、食料品店、建材屋などで必要な物を買い足す。米や小麦の麻袋、それとウイスキーやワインを樽でポンポン買う俺を見てアリスは目を丸くしてたがな。
「あと何軒回るの? そろそろ疲れたんだけど」
「次で終わりさ。と、その前に次に街に来た時の為に見栄えのいい服と作業用の服が必要だ」
「昨日会った時の服じゃダメなの?」
「俺のじゃない。アリスの分だ」
「私? あそこの店でしょ? 無理無理、そんなお金ないわよ!! あそこって貴族とかお金持ちが利用する店でしょ?」
そりゃそうだろうな。俺が渡した給料全部突っ込んで何とか一着買えるかどうかって店だ。
こっちの都合で服を買わせるのにアリスに出させるわけないだろ。仕事着は支給するさ。
「金貨二枚。二万スタシェルありゃ、何着か買えるだろ?」
「そんなに……。ダメダメ、そんなにリュークにばかり頼れないよ」
「一着は一万スタシェルクラスの服、残ったもう一万で何か好きな服を買いな。でかい商会の人間と話すとき、今の格好じゃマズイのさ。それとこれは今日仕入れたアリス専用のマジックバッグだ」
流石に貴族の相手をするにゃ、それなりの身形ってのが必要になる。
次に街に来た時も、アリスを連れて来る事になりそうだしな……。
「ありがとう……。って、あなたはついてこないの?」
「着替えでも覗いてほしいのか? ちょっとそこの馬屋で移動手段の確保をしてくる。馬位乗れるよな?」
「乗れるけど……、一番いい服はマジックバッグに保存しておいた方がいいみたいね」
「次にこの街に来る時の為にな。それじゃ、俺は馬を買ってくる」
あの寒村まで歩いて帰ってもいいんだが、あの辺りには乗合馬車すら出てないからな。
前々から移動手段は欲しかったし、今は買えるだけの金もある。
良さそうな馬が売ってりゃいいが……。
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