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第十話 とりあえず後は必要な物のを買い込んで、今日はここに泊まって帰るのは明日かな?



 大きな取引が無事に終わり、俺は内心胸をなでおろしていた。


 あの買い取り価格だが、本当は百五十万スタシェル買取で差額の三十万スタシェルをレナード子爵家へ税金として納めるつもりなんだろう。あれだけの大取引で税金が発生しないとかありえないからな。


 あきらかに素人っぽい俺にそんな税金の事を話して売るのをやめられても困るし、あの商会で税金の処理することに決めたんだろう。


「とりあえず後は必要な物のを買い込んで、今日はここに泊まって帰るのは明日かな?」


 嗜好品やあの村では手に入らない小麦類を除いて、この冬を越す為の食糧はもう必要ないだろう。あの村の食糧事情は完全に軌道に乗った。仮に冬になって荒れ地や川で何も手に入らなくなっても、春まで食料をもたせることは可能だ。


 俺も十四年この辺りに住んでいるから知っているが、この辺りは冬でもそこまで寒くはない。比較的南側に位置するからなんだろうが、雪が降ることなど滅多にないしな。


「とりあえず身形をきっちりしておくか。外見がすべてじゃないが、貴族に近い服を着ていると暴漢にも襲われにくいしな」


 最近はその暴漢や盗賊の数も減ったって話だ。


 誰かから奪って食い繋いでた奴らだが、誰からも奪えなくなればどうなるか……。わかりきった話だからな。


 奴らだって食っていかなけりゃ生きていけない。まさか盗賊まで身を落とした奴らが、城壁のすぐそばのスラムに住む子供に混ざって小川でドジョウなんて追いかけたりしないだろう。あれも貴重なタンパク源なんだが。


 そんな子供を襲っても金にならない事はわかりきってるし、流石にガリガリの子供が半分死んだ目で追いかけて手に入れたドジョウにまで手を出そうとは思わないらしいな。


 沿い例外でまともに金を持っていて、あいつらが脅して奪い取れるような相手はほとんど命を落としたか、街の外に逃げ出しちまったんだろう。


◇◇◇


 古着屋にも格がある。


 いわゆるその日暮らしの人間だけを相手にしているような店には、それはもうウエスと見紛うばかりのボロ布が、かろうじて服の形で吊り下げられている。


 数十スタシェル程度のほとんど捨て値で取引されるそんな服でも無いよりはマシで、冬が近くなると小銭をかき集めて買いに来るって話だ。何枚か重ね着すれば、多少の寒さはしのげるからな。


 逆に貴族や大商会の人間だけが利用する店は並んでいる服も殆ど()()()すらない一級品で、実際に服として使用された回数も数度という物も珍しくない。


 売りに出される理由も去年作った服だからとか、子供用の服に関しては体が成長して少し合わなくなったといった理由がほとんどだ。


「流石に貴族御用達の店。店構えもそこら辺の商会以上だな……」


 というか、目の前にあるジャスパー商会は古着も扱っているが仕立てる服も扱っている。


 貴族の殆どは自分の体形に合った服を仕立ててるだろうし、こうして売りに出される古着もあまり買い取り先がなさそうだな。


「いらっしゃいませ。当店は貴族様方が利用する高級店です。お客様ですとご予算が……」


「五万スタシェルほどの予算で、貴族の前に出ても恥ずかしくない服はあるか?」


「……は?」


「なに、古着程度買うのにこまりゃしねえよ。この通り、金貨位持ってるさ」


 皮袋に入れた金貨を目の前に並べてやった。


 この財布代わりの皮袋にゃ二十枚ほどしか入れちゃいないが、こういった奴に見せるにゃ十分な効果があるだろう。


「し、し、失礼いたしました!! どこかの貴族のご子息で?」


「そこまでの者じゃない。この先デカい取引も多くなる、そんな場に出ても恥ずかしくない服が欲しい。できれば数着」


「かしこまりました。お客様の体格ですと、この辺りの服がよろしいかと」


 元の世界でいう七五三じゃないが、そういった行事で着るような服がずらりと並んでいた。


 貴族だったらこういった服は残しておくんじゃないかと思ったが、どうやら彼らの懐事情もよくないっぽい。


「ここだけの話ですが、貴族の方々でも服の為に五万スタシェルをポンと用意する方は少ないのです。十年程前はまだマシだったのですが、今ではとてもとても……」


「それでこの辺りの服のデザインがなんとなく古めかしかったのか。子供の頃にたまに見かけた服だ」


「よくご存じですね。ですがこの辺りの服は当時の技術で仕立ててありますので、今の服よりは丈夫で長持ちですよ」


 俺が欲しいのはこの辺りの服なんだが、確かに新しそうな服は布の品質が若干劣る。それに縫い目も昔の服に比べて悪い気がするぜ。


 今回はとりあえず取引の時に着れる服という事にして、また次回今度は一から仕立てて貰うか。


「これと、これとこれだ。裾とかは金を払えば何とかして貰えるんだろ?」


「はい!! この三着ですね。一着一万スタシェルで合計三万スタシェルです。ああ、裾上げはサービスしておきますよ」


「助かる。すぐにできるか?」


「そちらで合わせていただければ……。この二着は裾上げの必要もなさそうですね。こちらの一着ですと十分もあれば」


 偶然と思いたいが、似たような体形だとそこまで足の長さも変わらないのか? なんにせよ、裾上げの手間が省けたのはありがたい。


 となると一着はすぐに着替えて、その格好で待たせてもらうかな。いかに人の少ない店内でも今のこの格好じゃ流石に浮いている。


「代金はすぐ払う。今すぐこの服に着替えられるか?」


「はい。あちらの部屋でお着替えください」


「すまない」


 初めにあんな態度で接してこなけりゃ、あの店員にも丁寧な対応をしてやりたかったが仕方がない。


 しかしあんな態度は自分の格を落とすだけだ、今後の戒めにしないといけないな。



読んでいただきましてありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします。

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