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第一話 とりあえず、このままじゃ埒が明かねえ

新作小説になります。

楽しんでいただければ幸いです。




 レナード子爵領北東部の山に比較的近い、周りに広大な荒れ地が広がる片田舎の小さな村。その一角に俺は拠点を構えている。


 拠点を構えているといってもこの村の長に頼み込んで住み着いた訳ではなくて、村の端にある長い間放置されていたとみられる大き目の空き家に忍び込んで住み着いただけだが……。


 俺の名は深闇(ふかや)零慈(れいじ)、今年で十四歳になる。


 といっても、深闇(ふかや)零慈(れいじ)というのは前世の名で、今は名字も無くリュークと呼ばれている。この世界じゃ名ありは貴族か王族くらいだからな。


 いまだに馬鹿馬鹿しいと思っているが、どうやら俺は別の世界で死んだ後で天国や地獄に行かず……、いや行っていたのかもしれないが、最終的に俺はこのおかしな世界に生まれ落ちた()()()


 ()()()といいうのは思い出せる元の記憶も断片的で、この別世界で人生を終えた深闇(ふかや)零慈(れいじ)っていうのが間違いなく俺のようではあるんだが、一部の知識や記憶以外はまるで靄がかかったかのように思い出せないからだ。


 俺がこの年まで生まれ育った城塞都市トリーニはそのたいそうな名とは裏腹に崩れかけた城壁に囲まれ、その内部も薄汚れて崩れ掛けた廃屋ばかりの死と暴力が支配する地獄のような場所だ。


 特に治安の悪い城壁に近いスラム街では路地裏に死体が転がっていることなんて日常茶飯事で、護衛を引き連れた貴族や大商会の関係者でなけりゃ昼間外を歩く事すら命の危険を感じるほどだった。


 中央に近い貴族街や大商会に所属しているような人間が住んでいる高級住宅街は安全だが、同じ街の中であるにもかかわらずそこから数百メートルほど離れれば、いつ襲われてもおかしくない狂気の世界が広がっている。


 ただし、貴族を含める一部の人間だけはその地獄のような場所でも安全で優雅な暮らしが保証されているんだけど、それには理由があるのさ。


 流石に貴族や大商会の人間は着ている服からそこらの町人とは違う。


 どんな馬鹿でも一目で分かるんだから、それを承知で襲うような奴はいない。


 もし彼らに手出しして捕まれば楽に殺して貰えればいい方で、普通は襲った者が生きている事を後悔する程の容赦のない拷問が待っている。


 首は城壁の外に晒されて腐り落ちるまで放置された後、近くの穴に汚物や他の死体と共に投げ込まれて終わりだ。


 だから俺は両親を失った小さなガキの頃から犯罪に手を染めず、この城塞都市トリーニの内外で様々な仕事をしながら何とか生きて来た。かなり黒寄りのグレーな仕事はした事があるがな。


 食糧に関しては贅沢を言わなければいろいろ食える物があるし、トリーニ内を流れる川でも魚くらいは獲れる。


 冒険者の真似事をすりゃ小銭くらいは稼げるし、その金を使えばたまにはいい物も食えるって寸法だ。


 しかし、このままこんな生活を続けていても未来はない。


 最低でも安心して寝泊まりできる命の危険の無い安全な拠点と、今後の為に安定した収入は必要だ。ただ、今の状況で金を稼いでもその事を知られれば盗賊にその金を狙われるだけで、生活が楽になるどころかかえって命の危険が増すだけだからな。


「とりあえず、このままじゃ埒が明かねえ。街に残ってりゃこれ以上は望めないし、待つのは確実な死だ。元の世界とまではいかないが、比較的安全な場所に避難する方がいいだろう。僅かでも生き残る確率を上げる為にゃ仕方ねえ」


 そう決意して俺があの街を出たのはふた月ほど前の話。


 ある目的の為に近くの荒れ地に生えている植物などを調査して採取を繰り返した結果、この辺りを拠点にするのが最も効率的だと判断した訳だ。おあつらえ向きに空き家の多い寒村が見つかったしな……。


 手持ちの俺の財産と言えば、今までにこの世界で得た知識と前世の知識。それにここ数年いろんな事で稼いできた小銭とその金で手に入れた様々な道具類。それと、両親が残してくれた唯一のお宝であるマジックバッグだ。


 とはいえ、この世界でマジックバッグは全然珍しいものではなく、マジックバッグなどはダンジョンと呼ばれる場所から割と見つかる魔道具の一種に過ぎない。


 性能や収納能力でかなり価値に差があるが、俺の両親が残してくれた物はありきたりな性能でそこまで価値はない。売ってもせいぜい数千スタシェルといった所か。


 しかしそれでもマジックバッグは便利な道具だ。俺はそれだけをとりあえずの武器にこの片田舎の村に逃げ込んだわけだが、村人は俺の事を歓迎なんてしちゃくれねえだろう。


 何せ広大な荒れ地が広がるここには土地が無限にあるが、魔物が蔓延るこの世界では畑を耕すのも一苦労だし維持するのは更に苦労するからな。相手が子供とはいえ、何処の誰ともわからない人間にタダでくれてやる食糧なんて無いのさ。


 何があったのかは知らないがこの村は異様に空き家が多く、その空き家に勝手に潜り込んでも文句は言われなかった。


 俺の事を魔物が襲ってきた時の囮くらいにはなると考えてるのかもしれねえな。


「いざって時の備蓄は十分にあるが、とりあえず当面の食糧の確保だ。ここは近くに川もあるし、村には共同の井戸もあるから水の心配はねえ。こんな田舎にあまり長い間世話になる気はないが、ある程度稼げる物が出来上がるまでは流石にここから動くわけにはいかない」


 その為にこの村にはあっさりと滅んで貰っては困る。こんな村でもしばらくは拠点として利用しなけりゃいけないからな。


 こんな片田舎の寒村、魔物の群れにでも襲われればあっという間に廃村だ。それにこんな規模の畑しかない状況じゃ、いつ飢饉に見舞われるかわかったもんじゃねぇ。今はまだ春だが、村の畑がこんな程度だと今年の冬も越せないんじゃないかって規模だ。


 当面の優先事項はまず食糧の確保、それと同時に魔物を撃退する為の武装だな。それも、この村の住人に渡しても安全な武器を……。



 読んでいただきましてありがとうございます。

 楽しんでいただければ幸いです。

 誤字などの報告も受け付けていますので、よろしくお願いします


 初日に三話更新、四日目まで二話更新でその後は第一章が終わるまで毎日一話ずつ(たまに二話の日もあります)の更新になります。

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