九話
僕を刀仙に迎え入れたのもその為ですか?」
「......正直に申しますとそうです。刀仙の中で実に百年ぶりの現人神。これで、刀仙家の体裁も保たれるでしょう」
「? 体裁? それはどう言う......」
「私共の口からこれ以上は。屋敷にお帰りになった折にご当主様から説明を行われると思いますのでどうかそれまでご容赦下さい」
おかしいと思った。幾ら、悲劇に見舞われたからといって、父の性を名乗り、分家ですらなかった僕を行き成り本家の当主が養子として迎え入れる何て。なるほど。どうりで僕を引き入れたい筈だ。
......良いだろう。こちらも利用させてもらうんだ。礼には礼を。存分に利用させて上げようじゃないか。
まぁ、その前に―――
「翠さん。では、最後に一つ聞いても良いですか?」
「なんなりと」
「貴方の事を教えてください。これから、一緒に行動するのです。お互いに気心知れた仲になっておいた方が気兼ねなく生活出来るでしょう?」
少し、驚いた様子の翠は一拍おいて、口を開く。
「......かしこまりました。しかし、絢瀬様。私に敬語や敬称は不要です。唯、翠とお呼びください。それと、一人称を僕ではなく、私と。絢瀬様は今は刀仙家のご令嬢なのですから。それに見合った振る舞いをして頂きたく思います」
「―――分かった。じゃあ、私に翠の事を教えて」
そう言いながら、頬の筋肉を動かし、笑顔の仮面を被った。心なしか、翠の頬が赤く染まったような気がした。
それから、目的地に着くまでの間。翠の事について色々な事を知り、私も話せる限りの事を教えた。食べ物は何が好きで何が嫌いか、何処で生まれて今何をしているのか、等の他愛のない事から、どんな性格で何をされると不快かなど、友人には聞かないような不快ところまで話し合った。
そして、車列は大きなホテルの前に止まる。
「翠様。到着致しました」
「分かった。絢瀬様」
「ええ、お願い」
扉が開き、事前に先に降りた黒服が折り畳まれた車椅子をトランクから取りだし、ドアの前に展開している。それを、翠が適正な所まで移動すると、開いたドアとはまた反対の、ホテルの出入り口側のドアが開かれ、病室でされたようにお姫様だっこで車椅子まで運ばれる。
「―――絢瀬様こちらを」
そう言うと、翠がつばの広い、リボンのついた真っ白な帽子を僕に被せて来た。
「? 帽子?」
不思議そうな面持ちで帽子が落ちないように両手で抑えながら、翠を見る。
「多くの眼から守る為でございます。どうか、硝斉様に会われるまでの間お被り下さい」
「分かりました」
イマイチ、理解出来なかったが、翠が被れと言うのならと無理やり納得させ大人しく被る事にした。
「硝斉様は?」
「―――既にお待ちのようです」
「分かった。絢瀬様、移動致します」
「はい」
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