六話
「くっ!!」
兵藤さんが僕の所に来てから一週間。一般の調封士が使用する医療施設に移り、気持ちを整理した。そして、自身に置かれた状況、これからするべき事を考えた。
まずは、ここから出て、刀仙の家に行く。何をするにしても業界内に影響力のある人物に頼れる人が欲しい。
それから、自分に発現したこの能力。身体が変化し、常人なら死んでいる筈の致命傷を完治させ、失った手足までも再生させた。兵藤さんの言う、轟神を調封した際に発現する性質権能と呼ばれる能力。その権能の使い方を知り、自分のモノとして操れるようにする。
最後に、僕達をこんな目に合わせた人間への復讐。どんな相手だろうが関係ない。必ず、見つけ出してあらん限りの憎悪を込めて、苦しみを味合わせながら殺してやる。
その為には、憎悪を胸の内に留め、徹底的に自分の気持ちを騙す。『悲劇に襲われながらも、人々を助ける為に調封士になる子供』それを演じながらこれからは生きていく。
復讐を果たす、その日まで......。
「笑顔......笑顔......」
兵藤さんがおいていった鏡で新しくなった自分の顔を見ている。人の警戒心を解ける、あどけない笑顔が出来ているか、手で顔の筋肉を触りながら、練習をしていた。
「クソ......」
右手の動きが悪い、まるで錆びついたように各関節が思うように動いてくれない。左足も同様、右目だって、時々ぼやける事がある。これも、能力を使いこなせていない証拠なのか? それとも、健康上の問題か......。 どちらにしても、今考えていてもしょうがない。
今日、刀仙の人が迎えに来ると連絡が入った。その為にも、人に好感を抱かれるように頑張らないと......。
だからこそ、事前に送られてきた純白のワンピースを着てるんだから。
そう、自分に言い聞かせながら再び鏡を持ち、自身の顔を眺めるのだった。
そして、その時が来た。
コンコン。
「どうぞ」
「失礼します」
ノックが聞こえ。扉が開く。
入って来たのは一人の女性。年齢は僕と同じか少し上と言った所。僕より高い背丈、肩より少しある黒髪、一見して美麗と分かる程の顔からは表情は感じられず、目からも感情の一切が見えなかった。
精巧に出来た人形のような人。
最初に浮かんだのはその言葉だった。
「貴方は......」
「申し遅れました。私は絢瀬様の身の回りのお世話係を拝命いたしました刀白翠と申します。どうぞ、よろしくお願いします」
「こちらこそ、お願いします」
そう言うと、先ほどまで練習していた笑顔を彼女に向ける。しかし、その反応は淡泊としており、顔を赤らめるでもなく、不快感を表すでもなく、無表情のまま僕を見ていた。
「それでは、早速ではございますが、屋敷の方に向かう前に会って頂きたい人が居るので、そちらに向かわせて頂きます」
「? それはどんな人なのですか?」
そう言いながらベッドから降りようと足を出し、床に付く。すると、左足の方に上手く力が入らず、身体のバランスを失い倒れてしまう。
「―――大丈夫ですか?」
「は、はい。すみません。まだ、この身体に慣れていなくて」
「少々お待ちください。只今、車椅子をご用意致しますので」
「いいえ。それには及びません。先ほど杖を借りておきましたから」
杖を取ろうと手を伸ばすが、スッと横から翠に取られてしまう。
「絢瀬様の身にないかあってはいけません。車椅子に致しましょう」
異論は認めない。瞳からはそういった確固たる意志が感じられる。こんな所で反抗して、付き人を不快にさせるのは得策ではない。そう、考えた僕は大人しく彼女の言う事を聞くことにした。
「―――分かりました。では、すみませんが、用意してくれますか?」
「かしこまりました。只今―――」
そう言うと扉を開き、外に立っている黒スーツの男の一人に指示を飛ばした。それから、また、扉を閉め、病室にある椅子に座らず、扉の端に直立不動の姿勢で立っている。
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