五話
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「......」
温かい何かに包まれているような心地の良い感覚。気を抜いたら眠ってしまいそうな、そんな気持ちのよさに全身が満たされている。
死んだ人は来る場所はこんな所なのか......。
神も仏も信じていなかった僕。人が死んだら無に帰るモノだと思っていたが、どうも、それは違ったらしい。人はこの場所を天国と呼んだのだろう。
嗚呼。安心する。
不意に上を見上げると、そこには青色の光を放つ球体。それは、少しずつではあるが、此方に近づいてきている。
「? ......何だ? あれ」
フワフワと舞いながら目の前まで降りて来たそれは、僕の周りを回りながら、僕の身体に密着させ、更に光を増していく。
眩しい。
目が明けれなく程の光量に咄嗟に目を瞑った。
「......」
そして、次目を覚ますとそこは白い部屋の一室。病室とは異なり、ベッドだけが置かれており、その他は家具も窓すらもない。それは、まるで独房のような、何かそんな窮屈さを感じた。
扉が開き、男の人が入って来る。その入って来た人には見覚えがある。
「ここは? ......」
「ここは協会内にある。特別収容施設、その一室だ」
身体を起こし、兵藤の方を向く。すると、身体に違和感が。
「......え?」
確かに感じる胸の膨らみ、股間部分に存在した物がなく、視線の端には銀色の長い髪がゆらゆらと揺れている。
「説明するより、まず見てもらった方が早いだろう」
兵藤はそう言うと、一緒に持ってきた鏡を僕に渡した。
それを、奪うように受け取ると、恐る恐る僕の姿を見る。
「な、んだこれ......」
なくなった筈の手足が生えており、潰れた右目が完全に回復している。それは良い、問題なのは今の姿だ。品格のある華麗で優し気な顔立ち、凹凸のある女性的な身体。回復した右目の色素は銀色に変化しており髪の色もそれと同じになっている。声も高く、聴いていて心地の良い声。
「君の姿は身体的に完全に女性へと変化している。恐らく原因は君が調封した轟神の能力のせいだろう」
「調封? 轟神? 何を言って......」
「最初から説明しよう―――」
どうやら、僕達を襲ったあの怪物が轟神と言うらしい。その、轟神を倒す為に秘密裏に動いているのが調封士であり、それを管理するのが兵藤の居る組織、調封士協会、通称ギルドの役目であり。今回、何故か結界に穴が開き、そこから瀕死の轟神が僕ら家族の車に追突した時に、身体の一部を分離し父の身体の中に潜伏、エネルギーを補給して再生を図っていたと言う。
「―――轟神は六つの階級に区分される一番危険度の低いのが伍等級から一番危険度の高い特級。君が倒したのは特級の轟神『国絨だ」
「......つまり、貴方達のせいで父さんと母さんは死んだっていう事ですか............」
「......そうだ」
目から水滴が滴り落ちる。シーツを握りしめ、兵藤を睨む。
「出て行って下さい」
「......説明が必要になったら声をかけてくれ、外にいる」
出て行く兵藤から視線を外し、シーツを握りしめる。胸が苦しく、頭の中がグチャグチャで何も考えられない。絶えず涙が溢れ出し、声を抑えられなくなる。
部屋の中に響く程の泣き声。もう会えない最愛の家族の面影を思い出し、悲しみの感情が爆発する。
やり場のない怒り、幾ら怒った所で父と母は帰ってこない。昔の様に生活をすることが出来ない。そう思うと、泣く事しか出来なかった。
一体どれだけの時間が経ったのだろう。流し続ける涙は遂には枯れ、一滴も出なくなる。
「入って来て下さい」
「ああ」
「......妹、叶は大丈夫なんですよね?」
「ああ。我々が保護し、他の病院に移して置いた。一応、護衛も付けてある」
「良かった。......これから僕はどうなるんですか?」
「表向きには死亡扱いだ。それから、これを―――」
そう言って、A4サイズの封筒を僕に渡す。
「これは?」
「君の新しく生活する為に必要な書類が入っている。名前はそのままだ」
封筒を開き、書類を確認する。
「刀仙?」
性が成神から刀仙に代わっていた。
「君の母方の家系。刀澤家、その本家である刀仙家が君を引き受ける事になった。―――君は祖父母の事は何か聞かされていたか?」
「......いいえ何も」
「太古の昔から特に優秀だった者達を輩出する家系が四つ存在する。その者達は優秀な者達を引き入れ、血を強くしていき、多くの分家を従えて今も調封士の中で多大な影響を保有している。桜ノ宮家、竜宮家、陽光家、そして刀仙家だ。君は刀仙家の分家に当たる刀澤の者という事もあり、今回君を引き受ける事になった」
それから僕は、一通り話を聞き。これからの事に対して思いをはせた。
僕は、成神絢瀬は死んだのだ。もう、二度と兄として叶に会う事は出来ない。それでも、まだ、希望はある。
僕達家族をこんなにしたモノに復讐をする。
その、今まで抱いた事のない憎悪を胸にしまい。来るべきその時に備えて、牙を磨くことを選択するのだった。
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