三話
「......」
次に気が付いた時には病院。広い病室のベッドの上。腕には点滴の針、妙に固い枕が自分の家のベッドの上ではない事を知らせている。
「兵藤さん」
「起きたか......」
声のする方向を見るとスーツ姿の男女。半身を起こし、辺りを見渡すと、自分の他に母と父、それに妹、家族全員が揃っていた。
良かった......。
家族の無事を知り、ほっと息を吐く。
「貴方、大丈夫? どこか痛むところはない?」
「はい。......あの、ここは病院ですよね? 貴方達は一体......」
「君が起きてから説明しようと思っていたんだ。―――皆城」
「はい」
兵藤と呼ばれた初老の男が皆城と言うと女性が四枚の紙をそれぞれ僕達一人ずつ渡す。
「契約書?」
その紙は契約書だった。
「そうだ。今回、貴方達が見たモノ、聴いた事、それはこの国が秘匿する重要な事なのだ。今回の件。こちらの不手際で貴方達が甚大な被害を被ったのは重々承知している一歩間違えれば死んでいたかも知れなかった事も。それに関しては出来うる限りの保証を約束しよう。―――しかし、貴方達がもし、今回の事が外に漏れたら此方側もそちら側も両方が迷惑を被る可能性がある。だから、その契約書にサインを行って約束して欲しい。―――どうか、お願いだ」
「「「「......」」」」
訪れる沈黙。何や何やら分からず、どうしたらいいものか皆考えているのだろう。僕も、考えた。
「契約書にサインを頂ければ、今回あなた方が被った物的被害の補償は勿論、契約金として多額の補償金もお渡しさせて頂きます」
「......あの怪物の事は教えてはくれないのですか?」
「はい」
「それは、私達を守る為ですか?」
「はい」
「......分かりました」
「お父さん!」
「俺たちはこうして生きている。それに、あの怪物の正体を知った所でどうしようもないだろう」
「......そうだけど」
「なら、契約書サインしてこの事は忘れよう」
父と母がやり取りを交わし、最後には母も納得したようだ。僕も妹も同じ気持ちであり、こうして僕達家族は契約書にサインをする頃にしたのだった。
「―――はい。大丈夫です。確かにお預かり」
「良し。―――改めて、今回は皆さまに多大なご迷惑をお掛けした事、真に申し訳ございませんでした」
俺達は悪い夢を見たんだ。そうお父さんは言い横になった。兵藤と皆城はドアを開き、もう一度此方に向かって深く、頭を下げると部屋を後にした。
「......おかしなものに巻き込まれてしまったものね」
「みんな。もう忘れよう。母さんも叶も絢瀬も、な?」
「......そうだね」
「そうね」
「うん。分かった」
僕達三人は頷き、そのまま再び横になり、眠りに落ちた。
グチャグチャ......。グチャグチャ......。
真夜中、良く空が澄んだ満月が見える夜。それは、唐突に訪れた。
何か、肉を食いちぎるような音が耳を指す。不快なその音はやまず、グチャグチャと続けて聞こえてきた。
グチャグチャ......。グチャグチャ......。
最初は誰かがテレビでもつけているのだろうと思った。しかし、それにしては音がテレビで聞こえるような音ではない。そう、それは目の前で聞こえる様な自然な音だった。
瞬間、身体がこわばる。
緊張で息が荒れ、自分の身体ではないようにいう事が聞かなくなる。理由は分からない。唯、何か、恐ろしい何かが近くに居る様な、そんな気がしたのだ。
ゆっくり、起き上がり、恐る恐るカーテンを開け、隙間から辺りを見渡した。
「―――ひっ!!」
父が母を喰っていた。
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