十七話
それから、一通り挨拶を済ませ、自分も食事を行うことにした。
「どうぞ」
「ありがとう―――翠は食べないの?」
皿に適当に盛り付けて貰った僕は翠が持ってきた皿が一枚だった事に気づく。
「私は「翠!」―――ッ!?」
声のする方から男女が早歩きで向かってくるのが見えた。
「お母さん、お父さん。どうしてここに?」
「ご当主様がお前達の娘の晴れ舞台にって招待してくださったんだよ」
「おかげでお前の活躍する姿を見れた。お前は刀白家の誇りだ」
そう言って二人は涙ぐんだ。翠はというと、鉄面皮だった姿は何処にもなく、顔を赤らめてあたふたしている。その姿は面白く、思わず笑ってしまった。
「ふふふ。翠は良いご両親を持ったね」
「絢瀬様―――取り敢えず二人とも絢瀬様にご挨拶して」
「そうだったな。わたくし翠の父の刀白健司と申します」
「母の真澄です」
「娘を付き人にして頂いただけではなくこのような豪華な席にまで読んで頂けるなんて」
そう言いながら二人はポケットから取り出したハンカチで目元を拭う。
「刀仙絢瀬です。今日、一日私の付き人をして頂きましたが、素晴らしい働きでした。翠がこのように優秀なのもご両親の育て方が良かったからなのでしょうね」
「そんな。わたくし共は特に......」
「えっと、あの......」
更に涙を流す翠の両親。それを見て顔をさらに真っ赤にする翠。
「積もる話もあるでしょう。どうぞ、翠を連れて行って下さいな」
「絢瀬様! それは!」
「いい機会です。家族水入らずで楽しんでらっしゃい」
「しかし」
「これは命令です。行ってきなさい」
「ありがとうございます。お母さん、お父さん、行こう」
「そうだな」
「ええ」
三人は此方に深々とお辞儀をし、奥の方へと流れて行った。
「さて―――あら?」
料理を食べようとフォークに手を伸ばした時、ふと視界の端に一人ポツンと立っている小春の姿が見えた。
向こうもこちらに気付いたようで、手招きしてやると、恐る恐る此方に近づいてくる。
「あ、あの何でしょうか?」
「一人寂しそうにしていたから。どうしたの?」
「こういう所だと何時もこうなんです。私、能無しだから」
能無し。権能が遺伝しなかったからか。幾ら、当主の娘だろうと力がない者には冷たい。そういう世界なのか。
「......そう。じゃあ、私の相手してくれる。翠が両親の所に行って退屈していたの」
「でも」
「良いのよ。挨拶は終わったし、それに、知らない人と話すより、妹と話した方が楽しいもの」
顔を近づけそう言いながら笑うと、ぱっと顔が明るくなっていった。そして、小春の腹部から可愛らしい音が聞こえてくる。
「おねぇさま聞こえた?」
「お姉さまはもう色々食べてお腹一杯なの。だから、小春これ食べてくれる?」
「......うん」
僕の手から受け取りゆっくりとした動作で口に運んでいく。不と視線を感じた方を見ると、一人の女性が此方に向かって頭を下げているのが見える。恐らく、小春の付き人だろう。右手を上げ、答えるとそのまま人の影に消えて行った。
「おいしい?」
「うん」
「そう小春は子供なんだから一杯食べないとね。嫌いなものは無い?」
「―――んくっ。トマト以外なら何でも......」
「分かった」
近くのウェイターを止め、トマト以外を適当に持ってくるように言う。すると、ものの数分で綺麗に盛り付けられた料理を運んできてくれた。
「絢瀬様。どうぞ」
「ありがとう。―――はい。小春」
「あ、ありがとうございます」
緊張が解けて徐々にお腹が空いて来たのか次の料理が運ばれて来る時にはもう食べきっており、恥ずかしそうに俯いていた。
「家族になるのだし。敬語はやめましょう」
「は、......うん。分かったおねぇさま」
料理を受け取ると、たどたどしく言葉を正す。そんな小春の頭を優しくなでた。
こいつは何かに使えるかもな。
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