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十三話


「お疲れ様です」


「疲れると言う程動いてないよ。視線は少し痛かったけど......」


「絢瀬様は既にこの業界では有名な方ですので、あれが自然な反応です」


「―――この後の予定はどうなってるの?」


「はい。このまま、刀仙の屋敷戻り当主様にご挨拶をした後、歓迎パーティー。今日の予定はそれで終わりです」


「? 今日の?」


「はい。明日は絢瀬様の在籍する学院で編入の挨拶に歓迎パーティーに来られなかった有権者への挨拶、それから......」


「まだ、あるの?」


「多方面へのあいさつ回りです。色々な方々に刀仙の者だと知ってもらう為に仕方のない事、これも、刀仙の子供のなった定めと思いお勤め下さい」


「......」


 そうだった。僕はもう、成神の家の子供じゃないんだ。

 改めて、思い出す。名家の人間になると言うのはそういうことなのか。毎日、仕事をしている気分だ。

 これからやらないといけない事に思いを馳せながら、気だるけな気分を隠し、家に付くまで眠る事にした。


「あ......さま。あ......せさ......。あやせ......。絢瀬様」


「んん」


「絢瀬様。そろそろ到着です」


「んん。分かった。―――膝枕?」


「勝手ながら、快適にご就寝出来るように態勢を返させて頂きました。ご不快だったのなら申し訳ございません」


 相変わらず表情のない鉄面皮の顔。しかし、その瞳からは僅かに不安の色が見え隠れしているのが分かる。


「いいえ。お陰でよく寝れました。ありがとう」


「......そうですか。それは良かったです」


 不安の色は消え、視線を正面に直すと、僅かに頬を緩ませたように見える。今日一緒に行動して少しずつではあるが、翠と言う人が分かってきたような気がする。

 このまま、僕を信頼してくれれば仲間として引き入れやすくなる、もっと僕に対して軟化させ心から信用されなければ。


 復讐するには、人がいる。それも、大量の......。少しずつ仲間を増やし、情報を集め、相手を追い詰める。


 どれだけ時間が経ったとしても見つけ出す。

 

 気付けば夜。場所は何処かの山。街頭が疎らで、とても家があるとは思えなかった。しかし、その考えは直ぐになくなる。

 車が進んで行く内に景色が歪みだし、周囲がボヤケ、先ほどの場所とは全然違う場所を走っていた。場所が移動した? それとも、何かを使って家を隠していたのか?

 良く整地された広い道路、一定の間隔をあけ、精巧な装飾を施された街頭が明かりを照らし、車を誘導している。


 窓から外を見ると、既に何台もの車が行き交い、ドレスやスーツで正装された大人達が歩いているのが見えた。


「大きい......」


 正面に見える、これから暮す建物に思わずそう呟く。

 時代劇で出て来るような武家屋敷をさらに何十倍も大きくした建物。端から端まで一体どれだけの距離があるのか分からない。この仲に一体どれだけの人間が住んでいるのか想像できない。

 これ程の見事な屋敷を見ると刀仙がどれだけ凄いのかが良く分かった。


「ここは、刀仙の本家。これから、絢瀬様が住んで頂く家でございます」


「これだけ広いと迷ってしまいそう」


「ご安心を、常に私が傍におりますので迷うことはあり得ません」


「頼りにしてる」


 屋敷の正面に車列が止まり、車の扉が開かれる。それから、同じように翠に下ろしてもらい、車椅子を引かれながら屋敷の中へと入っていく。

 僕の姿を見た瞬間、その場で膝を付き、頭を下げる。大人も子供も、地面で正装を汚れる事も考えずに最礼の姿勢を取っているのだ。


 如何すれば良いのか分からず。僕は取り敢えず手を振った。


 その姿勢は僕が屋敷の中に入り、家の中に別に用意された車椅子に座り、移動するまで続いた。


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