十一話
帽子を被り直すと車椅子は動き出し、受付嬢の後ろを付いていく。受付の隣、両側に警備が立っている扉を開き、奥へと進んで行く。
「護衛の方々はここでお待ちを、お付きの方はそのままこちらへ」
「了解した」
翠は黒服達にここで待つよう言い残し、そのまま奥へ進んで行った。
スピーカーから聞こえてくるクラシックの音楽。それを、聞き流しながら廊下を進んで行くこと数分。受付嬢は一つの扉の前に立ち止まり、ノックをする。
「マスター。絢瀬様がお見えです」
「お通ししろ」
「はい。―――どうぞ」
扉を開き、中へと進む。そこは、人一人が走り回れる程の広さであり、精巧な作りの椅子と書斎机。さぞ高名の美術家が拵えたのであろう壺や絵画。書斎の前には談話用のソファーと机が置かれており、ソファには初老の男性が座っていた。
「これはこれは。絢瀬様。噂はかねがね、―――お会いできるのを楽しみにしておりました。わたくし、当ギルドの支配人をしております、熊ヶ根明美と申します」
椅子から降りたそのモノは此方に近づき、挨拶をしてくる。
小さな身長、くりくりとした瞳に幼い顔立ち。全体的に凹凸の少ない身体。何処からどう見ても少女だ。
「......も、申し訳ございません。随分とお若い方が支配人をなさっているのだと驚いてしまいました」
「いいえ。驚くのも無理もありません。私を最初に見た人たちは決まって驚きますので。これは私の権能の影響なのです。実年齢は既に四十を過ぎました」
「そうなのですね。私は、刀仙絢瀬と申します。よろしくお願い申し上げます」
互いに挨拶を済ませ。今度はソファに座っている男性を紹介される。
「こちらはギルド専属の調封士、宮本硝斉。今回、貴方の権能の鑑定を行う者です」
「宮本硝斉です。お会いできて光栄に存じます」
「刀仙絢瀬です。此方こそ光栄です」
「さて、挨拶はこれまでにして早速、鑑定を行いましょう。っと言いたい所ですが、もう一人が仕事で少し遅れているのです。―――今回行う事の説明はお受けになりましたか?」
「いいえ。恥ずかしながら何も」
「分かりました。では、もう一人が到着するまで、ざっと説明いたしましょう」
明美はそう言うと僕達をソファに座る様に促す。しかし、翠はそれを断わり、僕をテーブル近くに移動させると、僕の直ぐ隣で直立の体制を取った。
「まず、性質権能について。通常、轟神を調封した際に適正がある調封士が一定の確率で獲得する超能力のような物です。それは、階級が上がるほど適正率、獲得確率が低く、特級ともなりますとその確率はゼロに近いです。そして、その獲得した轟神の性質権能にはそれぞれ、討伐した轟神に由来した性質が存在し、それが能力の核になっております。ここで、問題になってくるのは、その権能の使い方」
「使い方.....ですか?」
明美がうなずく。
「使い方が分からず、暴走したしまう事があるのです。今の貴方のように」
「っ!!」
「そこで、必要になって来るのは鑑定士の存在です。鑑定士とは感知型の轟神の性質権能を獲得した調封士の事をさします。彼らは調封士の中にある。性質権能を調べる事が出来るのです。そして、その鑑定士の中でトップに君臨するのがこちらの硝斉です。硝斉は能力の詳細や性質は勿論、どのように扱えばいいのかなども読み解くことが出来、感覚的に操作方法を教える事が出来るのです」
「つまり、私の権能を自分の身体のように扱えるようにして頂けると言う事ですか?」
「簡単に言えばそういう事ですね」
一刻も早く、この力を使いこなしたい僕にとって、願ってもない提案だった。
「―――二級調封士。佐藤凌様がお見えになりました」
「通してくれ」
「失礼いたします!!」
そうこしている内に、件の人物が到着する。同じように受付嬢が開き、その人は中へ入って来た。所々、泥で汚れたセーラー服。瓶底の様な熱い丸眼鏡を掛け直し、緊張しているのか上ずった声を出しながら、ロボットの様な足取りで此方へ近づいてくる。
「よく来てくれた。絢瀬様。此方、二級調封士の佐藤凌。今回、硝斉と絢瀬様の間に交わされる契約の仲介人をする女性です」
「しゃ、しゃとう凌です! 絢瀬様にお会いできて光栄です。今日は誠心誠意努めさせていただきましゅ!! ―――いたぁ!」
勢い良く、お辞儀をしテーブルに額をぶつける。その衝撃で眼鏡外れ、僕の顔に向かって飛んできた。
しかし、僕の身体に当たる事なく、途中で翠が掴み上げ、凌に渡した。
「凌は上がり症で時折、こうなってしまうのです。でも、腕は確かなのでご安心ください。―――では、始めましょうか」
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