兄、孤底。(2)
7 兄 孤底 (2)
「さあな、ヒラメみたいな顔の兄さんには解るまい」
「そのヒラメ男が、どれだけすごい女を選んだかは、お前も知っているだろう」
「不思議なことに思い出せないなあ、陽光の顔は思い出せるんだが」丘須華は、わざと苦渋の表情をしてみる。
「陽光の母親・・・妻・・・だった、女の顔を思い出したら寒気がしてきた」
「兄さんの後ろで、うらめしいーってやっているかもよ。エキゾチックだったからな義姉さんは・・・」
「エキゾチックの使いどころを間違えているぞ」
「良いじゃないか。異国情緒あふれる幽霊や妖怪の方が可愛げがあるし」丘須華にとっても意味不明。
「生きているのやら、死んでいるのやら・・・」
「陽光がいなくなって、喧嘩もしなくなって、やつれていくばかりの二人を見ていると胸が苦しかったっけ」
「あの頃、お前の方が状態が悪かったように見えて、俺は・・・否、初紀もそうだったかもしれないが、心配していたんだぞ。お前は陽光と仲が良かったからな、道づれはもしかしたらお前かも・・・とな」
「ご心配なくって、何度も言っただろう。いつもの発作だって」それは、本当でもあり、嘘でもあった。陽光がいなくなってから発作の起こり方は以前と一緒だったが、回数が違った。丘須華は内心で、陽光に呼ばれているのは俺だなと、亡くなって、二ヶ月間か、三ヶ月間かは思い続けた。二三ヶ月間というのはデタラメな期間ではなく、発作の多かった期間である。
「そうだったな。何度もそう言われたな・・・しかし・・・」
「黙れよ。もうそれ以上言うな」
「解ったよ。おれはエビシューマイを昼飯にでもするかな」
「それ残しといて」
「嫌だ」狐底は白目をやや多めにしていった。
「まあ、そう言うと思っていたよ。四つ残しておいて」
「解った」
「じゃあ、俺は自分の部屋に戻って寝ながら本でも読むことにするよ。食器はそのままで良いよ。どうせ俺も使うんだし、まとめてやっておく」
「解った」
丘須華は、眠そうな顔で自分の部屋に戻っていった。
「あんなんで、よく本なんか読めるものだな」
フーッと狐底は、調理したエビシューマイの前で、溜息をついた。
いったい誰だったのだ?道連れは?どうなっている・・・。私たちの知らない誰かだったのだとでも言うのか・・・。