難 「かえる。」
5 難 「かえる。」
霧が私を包む、孤独が逃げてゆく。そして、本当に一人になる。青色の血で覆われた、布が被せられた。「もう少し此処にいて良い」そう言われた。男は同じ年頃の男と二人で来た道を、ゆっくり引き返して行きながら、小さい声で「もうすぐ駄目になる」「もうすこし、労ってやれば、まだまだ、普通には生きてゆける」私は二人の言葉を聞きながら、無視した。今日手に入れたモノは、この間のモノよりきれいだ。だが男達が、秘密にしているアレに比べれば、ひどく劣っている。でも今の自分にとっては、宝物だった。これからも、宝物であり続けるだろう。この間のモノと同じく。
「以前、文通をしていたときに、書きませんでしたか?私の持病のようなモノのことを・・・」
「ええ、お書きになっていないですよ」
「そうか・・・まあ良い。気にしないで・・・そうだ、今度来るときは事前に電話連絡を、してください」丘須華は、文通で事情をこの娘に教えなかった、過去の自分の判断に、乗ることにした。ズボンの後ろ側のポケットから、クチャクチャになったメモ用紙と、キレイに削られた小さなエンピツを取り出し、電話番号を書いて、難に渡してやった。
「携帯はもっていないのですか?」番号をみて、そう判断したらしい。丘須華には、固定式電話の番号と、携帯式電話の番号の区別は瞬時にはできない。若い女にとって重要な事とは、しばらく無縁だったことに気づかされる。
「ああ、一応持ってはいる。けれど、ダイヤル式固定電話の方が、取るまでの間ドキドキして具合が良いんだ」
「ええっと、じゃあ・・・お兄さんが電話に出られた時は、丘須華さんを呼んで頂けば良いですね」
「いや、兄が出た時は、私の体調がすぐれないときです。黙って切るか、兄と世間話しでもしてください・・・はっはっはっ。まあ、兄の狐底がダイヤル式の固定電話に出ることなど殆ど無いですが、はっはっ」さして面白くもないのに、丘須華は笑っている。
「何故取らないかって、聞いても良いですか?」
「デジタルとアナログの違いみたいなものですよ」
「ふっふっ、変なんですね・・・じゃあ、私、今日は帰ります」難はあっさりと言う。
「今日は遠いところまで、訪れてくれてありがとう」
丘須華は玄関先まで送って行く。
「本当は駅まで送っていってあげられると良いのですが、これから、ちょっと用事があるのでここで・・・」
「良いですよ、今日は私が勝手に来訪しただけですから・・・でも、次来た時は駅まで送ってくださいね」
「ああ、良いですよ。今度は連絡をいれてから来てくださいね。ところで、本当は何の用で、私に会いに来たのですか?」
「もう良いです・・・それは・・・何のようでも良いじゃないですか」難は何故だか笑いながら言った。
「それじゃぁ。また、今日はどうもありがとうございました」
「ええ。それじゃ」




