思い出の多い暗室
17 思い出の多い暗い部屋
家の中のデジタル時計で正確な時間を確かめる
まだ、一時半だった。腕時計より三十分ちかくおそい。孤底の常識を反した行為だ。時間の原理はよくわかないが。孤底の焦燥の早鐘が、心臓を踏みにじる。ぎりぎり、痛くはない、だが、室町時代の舞を披露、気になるものでもない。もともと、孤底はそんなものは、知らない。
空戸にも。こまったものだ。怒りがふつふつと湧いてくる。豆柴っ・・・。
・・・て結構可愛い。
にいさん・・・
男の待ち合わせは、遅く着く(すごい遅刻する)に越したことはない。・・・私が。私は何しても良い。一番早く生まれたんだから・・・そういう特権をもつ・・・
にいさん・・・。
相手は待ち合わせ時間、ちょうどに来させるくらい誘導が良い。
だが、小学校の先生に習った。「人の都合に合わせなさい」の教えを。
仕方なく、孤底は頭によぎらせる。
兄に反抗した弟。いつの日か「逸脱行為はだめ」と丘須華の標語に書かれた。
彼は表彰された。
兄は何で表彰されたことは無い。
孤底は息子へのわらべ歌 歌った・・・
缶。狼犬。
空戸。豆柴。
空戸よ 早くこい と。
呪詛そのこもってない、伸びやかで、晴れ晴とした。美しい歌声だった。
さて・・・
豆柴は
陰陽の式神じゃないので
呼んで来る訳がない。
オカルトじみた陰陽の方には、知らぬ体。孤底にそんな趣味はないし。
こんな現実に満足している・・・。狼族の能力はもっとすごいぞと、競り合う気もない。残念だ。
こい 豆柴。
ああ退屈だ。前は石油王・・・だった・・・かも
「ああしまったな。腕の皮膚を治しておかないと。暗室。に入らないと。ねばねばよ」
孤底は急いで一階のトイレの横にある小さな暗い部屋に入った。
暗室には現像前のフィルムが、山ほど置いてある。大抵は陽光。
陽光と家族。我々。
のフィルム。
陽光が亡くなってからは、丘須華が。
現像しない。
少々淋しい気もする。かもしれない。
強がりなのかも。
私も丘須華もこれらのネガを持っていて
悲しいと思うことは無い。
ならば現像すればよかろう。それはそう。二人とも思うのだが。
他にやることがあって 出来ない
ただ単に面倒くさい。きっと。
ネガの山を整頓しながら
皮膚の異常が元にもどるまで待つ
「椅子に座るか」
小さめの椅子に座りながら、
うえを見る。
白いはずの天井がない。
暗いのだ。
目が慣れてくる。見えてくる。天井。
白だ。やはり天井は白だった。
腕は回復している。
暗室から外に出ると眩しくて、頭がくらくら、する、少し。
これが、嫌なのだが仕方ない事だ。
眼を細めながら、暗室からでる。
案の定、頭がくらくらする。暗室で四十分が経過していた。
四十分・・・
孤底はそれだけの年を取ったことに。唸る。
からと・・・
年のせいで
もう俺から搾り取る情報ないよ・・・