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報告:女騎士団長は馬鹿である  作者: 野村里志
第二章 適者生存の理
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報告:不可解なもの





 第七騎士団兵営所、懲罰室。軍隊だけあってこの団の施設にも一応の個室がある。それは敵兵の尋問や味方兵への懲罰、戒告などに使用する特殊部屋だ。


 まあ使われなくなって久しいし、そこに踏み入れるのは俺としては初めてのことであった。


「さて、話をしようか」


 俺は目の前に座るグスタフに話しかける。いちおう潜入名であるギュスターヴと呼ぶべきだろうか。まあどっちでもいい。誰に聞かせるわけでもないし、呼びやすい方で呼ぶことにしよう。


 彼はただ黙って俺の方を見ていた。


「傷は随分良くなったみたいじゃないか」

「………」

「別に拷問をしたりなどはしない。ただ、流石にこのまま『はい、釈放』というわけにはいかないでしょ?特に隊長である君をさ」

「………」

「やれやれ、取り付く島も無しか」


 俺は頭をかきながらグスタフに話しかける。きちんと与えた食事は食べていたようだ。それに睡眠もとっている。俺より数段血行がよさげで健康体そのものであった。


(まあそこに警戒してもしょうがないからな。捕まった以上は眠れるなら寝るべきだし、食べれるなら食べるべきだ。もし殺す気があるなら毒なんか仕込まずさっさと殺すだろうし)


 俺はすこしばかり感心しながらグスタフを見る。素直に話す気がないのなら、方向性を変えるまでだった。


 俺は姿勢を整え、抑えめのトーンで話を続けた。


「今朝方、お前の部下達を乗せた馬車が襲われた」

「っ!?」

「全滅だ。一人の残らず殺された。死体さえも燃やされてな。勿論護衛にいた王国兵もだ」


 グスタフは「ギリギリ」と拳を握りしめる。彼は優秀な狙撃兵であり、仲間思いの隊長だったのだろう。その苦悶の表情から、仲間への思いが見て取れた。


「貴様らが……」

「?」

「貴様らが殺したのではないのか?」


 グスタフが話し出す。俺としてはこれで一歩前進だった。


「殺すならわざわざ馬車を用意なんてしない。派手に処刑するさ」

「……悪趣味め」

「そうかい?まあ此方としてはどうでもいい。問題は別の所だ、グスタフ軍曹」


 俺は続ける。


「一体誰が、何のために帝国兵が乗った馬車を襲うんだい?」


 これが第一に大きな謎であった。王国は一応敵兵を捕虜として帝国に返すことを決めた。これは騎士道に則った精神と名目がついているが、要するに奇襲という卑怯な戦法が失敗したことを内外に見せびらかすためである。


 ここで大事なことは王国軍に彼等を殺すメリットがないことである。あとから攻撃を仕掛けてきた部隊ならいざ知らず、この潜入部隊は何をするまでもなく、俺達の部隊に取り押さえられた。故に被害もないし、恨みを抱きようもない。


 帝国だって同じだ。自軍の兵士が帰ってくるのをわざわざ止める理由もない。奇襲の証拠隠滅とかであれば分からないでもないが、既に捕まっていることはメディアでも報道されているし、いまさら抹殺しても帝国軍が奇襲した事実を拭うことはできない。


 では何故、そして誰が、この攻撃を行ったのか。俺はうすうすとその理由を感じながらも、確証はもてずにいた。


「……俺は知らない」


 グスタフが答える。


 まあそりゃそうだ。そもそも彼等は捨て駒扱いだった連中だ。知らされているわけもない。だが疑問は残る。


「グスタフ軍曹、もう一度君の所属を聞いてもいいかね?」

「……黙秘する」


 グスタフの答えに、俺は腕を組む。少なくとも俺は尋問の仕方なんて知らないし、ましてや拷問などできはしない。


 だから勝手に情報を集めることにする。その仕草から、反応から。


「君は……」


 俺は淡々と彼に質問を重ねていった。













「正式に王国が宣戦布告を出したようじゃな」


 魔侯将軍カサンドラはコーヒーを飲みながら語りかける。テーブルをはさんで彼の向かいに座るのは賢知将軍アウレールであった。


 帝国の四将軍が他の将軍と会うのは希なことだ。それこそ戦争でも起きない限り、話し合いなどしない。


 だが今はその有事であった。


「あの王都のいざこざ、お主がやったことであろう?アウレール」

「変な勘ぐりはやめてください。あれはれっきとしたベルンハルト将軍の部下がやったことです」

「カッカッカ。言いおるわい」


 カサンドラはケタケタと笑う。アウレールはただ静かに紅茶を嗜んでいた。


「馬鹿を言うでない。あの堅物がそんな手を使うものか。戦闘に美学を求めるような男だ。徹底的な合理主義でありながら、ある面では理想主義な一面をもつ死闘将軍がそんなことをするものか」

「人は追い詰められれば何をしでかすか分かりませんよ。彼ももう老い始めていますから」

「カッカッ。それはあいつより数段歳をとっている儂に対する皮肉かのう。若造よ」


 カサンドラは片目を見開き、アウレールを見る。その黄色く蛇のような目は魔力によって魔眼となっていた。


「いずれにせよ。儂にとってはどうでもいい。魔術の地位向上のためにせいぜい利用させてもらう」

「では先鋒を行くと?」

「マルクスに話は通してある。ベルンハルト将軍は依然として軍を動かす気配はない。あとはお主だけだ」


 カサンドラは鋭い視線でアウレールを射貫く。アウレールは「どうぞ」とばかりに手のひらを差し出した。


「ならば今回の一戦はもらっていこう」


 そう言うとカサンドラは立ち上がり、そのまま部屋を後にした。


「ふん。老いぼれが」


 アウレールは吐き捨てるように呟く。カサンドラはただただ目先のことしか見えてはいない。戦争の終着点が見えていない彼ではいずれ泥沼になるだけだろう。ならば放っておいても問題はない。彼が先に出ることに特に不満はなかった。


(それに気になることが一つだけある)


 王国軍第七騎士団、そして英雄の娘クローディーヌ・ランベール。先の大戦で彼女の父親が帝国軍に与えた損害は計り知れない。その意味では第七騎士団の力を把握するまでの迂闊なことができないことは事実だった。


「せいぜい敵の力を把握するのにでも使わせてもらいますか。カサンドラ将軍」


 そうとだけ言うと、アウレールは再び紅茶を口に含んだ。







読んでいただきありがとうございます。

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