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報告:女騎士団長は馬鹿である  作者: 野村里志
第四章 報告:女騎士団長は馬鹿である
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報告:勝利の余韻と

誤字報告をしてくださった方、ありがとうございます。






「アルベール、無事だったのね」


 クローディーヌが俺を見つけるなりこちらに駆け寄り、声をかけてくる。俺は「なんともありませんよ」とだけ返した。


 俺が歩いて城塞に入ると、既に第七騎士団をはじめとする王国軍によって城塞は制圧されていた。もともとクローディーヌの秘術で完全に戦意は消え失せていたのだ。おそらくあれ以降帝国軍も大して抵抗はしていないのだろう。俺は城塞内部の様子からそう判断した。


「しかし珍しいですね。副長が単独行動しているなんて」

「そうね。普通なら一番安全な所にいるのに」

「レリアに……ドロテ隊長。どうしてこううちの団の女性陣は俺へのあたりが厳しいのかね」


 俺は辛辣な言葉をかけてくる二人にそう返すと、クローディーヌの様子を伺う。彼女達はそこまでとしても、クローディーヌの方は俺の安否を気にしていてはくれたみたいだった。まあこう言う彼女達も本気で俺の安否を気にしていなかったわけではないことぐらいは、流石に俺でも理解できた。


 するとどこからか王国兵の言葉が聞こえてくる。


「ほらな。言ったろ?第七騎士団がいるところじゃ、俺達も死なないって」

「ああ。お陰で無事に国へ帰れる」


 王国軍の兵士だろう。笑いながら鎧を抱え歩いている。


 戦いの後につい気を緩めてしまうのは兵士の性だ。いつまでも戦い同様に緊張していては、心が三日と持たないだろう。人間の心はそれほど丈夫にはできていない。


(そう考えるとこいつは、よく20年近く耐えてきたな)


 俺はクローディーヌを見ながらそう考える。クローディーヌ・ランベールは戦場にあるなしにかかわらずこれまで英雄の娘という外圧の中で生きてきた。戦場とまではいかなくとも、緊張状態にあったことは容易に想像できる。少し前に多少限界が見えてはいたが、今は持ち直しているのだ。それはある意味奇跡とも言えた。


(今も……、いや今の方がプレッシャーはあるだろうに。それでも尚笑っていられるんだから大したもんだ。それが英雄たる所以か、それとも……)


 俺はどこか感心したようにクローディーヌを見る。いつも通りその美しい横顔は、そのまま絵になるほどに映えている。戦闘の際についたであろういくらかの泥や汗すらも、彼女を引き立てる要素になっていた。


 俺がそんな風に見ていると、それに気付いたレリアがどこかうれしそうにからかってくる。


「副長。あんまり団長が綺麗だからって、そこまで嘗め回すように見ていると捕まりますよ?」

「おいおい。俺は見ているだけで不敬罪かよ」

「いえ、覗き行為のわいせつ罪です」

「……不敬罪の方がマシだったな」


 ケラケラと楽しそうに笑うレリアに、俺はため息をつく。レリアは戦闘以外の場面では、よくこうして楽しそうにしている。無論16歳の少女が戦場にいるのだ。こうして笑っていられる方がどうかしている。むしろこうしてメリハリを付けることで正気を保っているとも言えた。


(無理もない。本来であれば、こんな血なまぐさい場所には似つかわしくない少女だ)


 俺は先日知ることになった彼女の出自について思い出す。軍に入らなければ、もう少し平和な世に生まれていれば、もっと良い環境で育っていれば、彼女の人生はきっとこうはならなかっただろう。


 そこに副官が報告に来た。


「副長、王国軍本隊が後方にまで来ているそうです」

「本隊?また随分と早いな。それに此方に寄るとも聞いていないが……」

「なんでも将軍直々に命が下ったとか」


 俺は「わかった」と言って副官を下がらせる。


(援軍にしては中途半端なタイミングだ。城塞に苦戦すると踏んで、俺達がある程度被害を与えたところで成果だけ奪うつもりだったのか?まあ、ありえなくもないな)


 ここ最近の戦いでクローディーヌの名声はますます増している。とりわけ将軍をはじめとする軍の中枢は第七騎士団に成果を独り占めさせたくはないだろう。


 するとたまたま視線の先にフェルナンが通りかかる。俺はクローディーヌ達の元をはなれ、フェルナンに声をかけた。


「フェルナン隊長、今大丈夫か?」

「副長、どうしたんだ急に?」


 俺が声をかけるとフェルナンが振り返る。


「王国軍本隊が後方に控えているらしい。既に制圧した旨を報告しに行ってくれないか?」

「ああ。別に構わないぞ」


 フェルナンは二つ返事で承諾する。いつもなら快諾するにしても、少しばかり機嫌のわるそうな顔をするのにだ。


 彼の性格を思えば、戦闘以外の頼み事はあまり好ましく思っていないのだろう。普段そのような態度をとるのも分からないでもない。しかし今のフェルナンからはそんな様子は見られなかった。


 俺は珍しく思い少し聞いてみる。


「何かいいことでもあったか?」


 フェルナンは思いがけない質問に、一瞬おどろいた表情を見せる。しかしすぐに表情を戻し、いつものように軽い調子で答えてくる。


「いや、実家の方でお家昇進が決まってな。家のゴタゴタが減ったからさ」

「そりゃ大ニュースだな」

「それにまあ今回も勝ったってのもある。無事に帰れるのに越したことはない」


 フェルナンはそう言って手のひらをひらひらと振り、門の方へと歩き出す。


「フェルナン隊長」


 俺が声をかける。


「何です、副長?」

「戦場で生き残ること以外の目的を考えるなよ。それにまだ帰還したわけじゃない」

「……わかってますって」


 伊達男はそう言って再び歩き出す。どこか心配な気はしたが、なんとなく彼は大丈夫な気がする。俺の中で根拠のない勘がそう言っていた。
















「マティアス団長、既に敵は我が団の罠を突破!防衛戦も第二まで破られています!」

「せっかくの火砲達が……。残った戦力をここに集中しろ。今から逃げても間に合わない。この地形的有利をいかして耐久戦だ。ただし援軍要請は続けてくれ」


 マティアスが珍しく懸命に指示を出し、第五騎士団を指揮していく。既に味方の王国軍は全滅した。残っているのは第五騎士団だけであり、南部戦線はほぼ崩壊状態であった。


「敵、ベルンハルト将軍来ます!」

「各員、迎撃準備。近付き次第ありったけを叩き込め」


 マティアスはその時を待つかのように、砂塵を巻き上げながら近づくソレをみる。その砂煙が近づくごとに自分たちの寿命が縮むようであった。


「ああ、もう。あるだけ迫撃砲を撃ち込んでやれ」


 マティアスの指示で残りの重火器を撃ち込んでいく。土が舞い上がり、一時的に視界が奪われる。


(せめて少しは効いててくれ)


 マティアスは祈るように視界が晴れるのを待つ。その時間は永遠のように感じられた。


「………へっ?」


 しかし見渡せるようになったとき、死闘将軍ベルンハルトとその軍団の姿はどこにもなかった。


「報告!敵部隊は急旋回して北上した模様」

「北?ここから北に行くと何がある?」


 マティアスの質問に兵士が答える。


「デュッセ・ドルフ城塞……、第七騎士団がいます」


 兵士の言葉にマティアスは地面に腰を下ろす。そして周りを見渡した。既に味方部隊も半壊しており、とてもおいかけられるような状況ではなかった。


「これはまずいな」


 マティアスのつぶやきが、静かな戦場に消えていった。







読んでいただきありがとうございます。

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