その7 スケルトン
「……肉が食いたい」
「しょうがねえだろ、今回は失敗だ。相手が多すぎた」
「まさかスケルトンにゾンビだけであんなにいるとはな……倒しきれなかった」
「おまえこないだゾンビ齧ってみたいっつってたじゃん。齧ってくりゃよかったのに」
「あいつら腐ってただろ……めちゃクサかったわ」
「だから発酵してるの探してさ。臭い発酵食とかあるらしいぞ」
「あの中にはいないだろさすがに」
「まあそう落ち込むな。今度は成功させて、肉屋で最高の熟成肉食おうぜ」
「熟成肉……やっぱり旨いのか?」
「値段が一番高い肉のさらに倍ぐらいするからな。倍以上旨くなかったら詐欺だ」
「値段倍よりも今は量が倍の方がいい」
「まあまあ、今日はしょうがねえ。せめて骨でもしゃぶるか?」
「犬じゃねえんだよ……そういやスケルトンってさ」
「スケルトンが?」
「骨じゃん」
「骨だな」
「あれどうやって動いてるか、気になんね?」
「そりゃまあ、気になるけど」
「定説だと、ネクロマンサーが魔術でどーたらこーたらで動くようにしてるとかいうけどさ」
「まあ、そうやって生み出した中でも一番弱いアンデッド扱いだな」
「実は骨浮かせて戦えるようにしてるって、魔法としてもすごくね?」
「まあ、確かにな、ゾンビみたいな肉のあるやつを動くようにするのと比べると、実は骨だけ宙に浮かせてってのはレベル高そうだよな」
「なのにスケルトンは最弱アンデッドレベルだ」
「そうだな。弱いよな」
「正直、あいつらの攻撃も大したことない。棒でブン殴ればバラけるぐらいだし。村人Aでも棒で粉砕できるレベル」
「まあな。だけど魔法でいくらでも復活もするけどな」
「弱いけど超しつこいタイプだな」
「男ならストーカー扱いされるな」
「女だってストーカーだよ」
「てか骨だけで男も女もなかろうがよ……考える脳もないんだし」
「やっぱ骨くっつけて動かすのにパワー使いすぎてるんじゃねーかな」
「多分そんなとこだろうよ。ゾンビやグールなら動かすだけだし、それに比べたら効率悪いってことか」
「じゃあやらなきゃいいのにな。魔力のムダだと思うわ」
「いや、肉ついてる死体より骨だけの方が圧倒的に数多いからな。数のスケールメリットはある」
「質よりも量か……アンデッドの使い方でネクロマンサーの思想がわかるな」
「どんな風にだ」
「スケルトンが多いのは、物量で一気に押すタイプ。ゾンビとか腐ってるのが多かったら……」
「多かったら?」
「発酵屋のこじらせた奴」
「まだそのネタ引っ張ってんのか」
「そこでちょっと考えてみた」
「急に話変わるな。まあ聞こう」
「まず、上位のアンデッドが動かしてるってパターン。これだと、操る奴の魔力や霊力で動かしてる」
「ふむふむ」
「だが、魔力なら解るが、霊力ってなんだ」
「……霊の力?」
「だからそれは何だと聞いている」
「それは俺が聞きたい」
「だから何だと思う?
魔力は魔法のための力だ。これは解る。魔法研究やってる連中に聞けば、何日でも語ってくれるし、本も腐るほどある。
だが霊力ってなんだ。霊の力? 祟る力か? それとも透けてる力?」
「いわれてみりゃあわかんねーな。こう、なんだろ、『死ぬ力』みたいな?」
「なんだそれ」
「生きる力、の逆みたいな」
「そんな力があるか。だからそもそも、霊ってなんだって話で」
「魂じゃないのか」
「魂ってなに」
「……なんだろ。霊?」
「そこへ戻るな」
「あれだよな、触れないし、透けてるし、それでもそこにいて、あっちは人間に取り憑いたりするし、そういう奴らの力か」
「ますますもって解らんわ」
「じゃあとりあえず霊力の話は横置いといて、スケルトンに戻ろう」
「そうするか。
スケルトンのもう一つのケースは、あれはに肉が透けてるゾンビって可能性だ」
「は!?」
「それなら霊力とかいうのは関係なくても説明はつく。あれは骨のようで骨じゃない、肉が見えてないだけのゾンビだと」
「……そらまた大胆な仮説だな」
「ただ、この仮説にはちょっと検証が必要だ。
まず、スケルトンを何体か捕獲して、連中に肉がついてるかどうかを確認しなきゃならんのだ」
「……また面倒なことを」
「だがだいたい、スケルトンが出てくると、戦士がブチ壊してとっちらかすし、魔法使いが炎で燃やすし、僧侶が昇天させるしで、検証なんかロクにできんのだ」
「しようとしたことあるのか」
「いや、ないけど」
「ないんかい」
「だがもしあれがスケルトンじゃなくて透けてるゾンビだったら――」
「だったら?」
「スケルトンじゃなくて透けゾンビに呼び名を改名せにゃなあ」
「下らんこと考えてねーでまず検証しろよ」
「透け透けスケルトンでもいい」
「……どっちにしろロクな名前に変わらんな」
「いっそ『透けルトン』でいいんじゃ」
「もうええわ。元戻っとるやないか」
「どうもアンデッドは話が元へ戻るな」
「アンデッドのせいじゃねえよ」
「ちらっとでも透けてるところが見えりゃなあ」
「透けてるんだったら見えないだろ」
「見えてたら透けてないし、透けてたら見えない……難しい連中だな」
「おまえの頭の方が難しいわ」
見えるか、見えないか。
微妙な絶対領域のアンデッド、それがスケルトン。