その6 人魚と半魚人
「こないだ海で魚取ってきたんだけどな。知り合いの漁師の引き網手伝って」
「おう、何がとれた」
「まあアジとかサバとかイワシとか? あとエビとかカニとか、マンボウもいた」
「マンボウ? あのぬべーっとしてて、たまに寄生虫が痒くてハネたら落ちた衝撃で死ぬっていう……」
「そいつは死んでなかった」
「じゃあハネてはいなかったんだな」
「あとサメもいた」
「あぶねーな。噛まれるだろ」
「他の小さいサメ噛んでた」
「……仲間割れか」
「珍しいのはいなかったな……たまにリュウグウノツカイとかいるんだけど」
「リュウグウノツカイって、獲れたら地震の前触れなんだって?」
「だから地震は大丈夫だ」
「人魚とか、網にかかることあるのか?」
「年に一回あるかないかぐらいだな。そういうのにかかるのって、事故みたいなもんらしいから」
「まぁそうそう引っかかるようなアホでもないしな」
「ところで人魚ってさ」
「ん?」
「上半身が人で、下半身が魚じゃん?」
「そうだな」
「んで、半魚人ってさ、逆に顔が魚で、身体が人間じゃん?」
「ああ、大体そんな感じ」
「あいつら、同じ種族なわけ?」
「……いや、知らんけど……同じかなあ」
「同じ種族だったらイヤだよなあ」
「そうだよなあ。人魚の美的感覚疑うわ」
「いや、別に人魚が魚顔好きだとは限らんだろ」
「多分あいつらもイケメン好きだろ。人魚姫なんか、人間のイケメン王子にホレて振られるんだぜ」
「イケメン最低だな」
「イケメンてか、池面なら同じ水棲生物同士理解し合えたかもしれんのに」
「なんだその池面て」
「……半魚人?」
「やっぱり魚面やないかーい」
「んで、また一つ疑問が」
「何」
「……まぐわうとき、人魚ってどうするんだろうって」
「いや……ほら、基本魚だから、卵産んで、オスがそこに精子かけるってアレじゃね?」
「ぶっかけ専門か……」
「人間ならとんだ変態だが、魚じゃそれが普通だからな」
「じゃあ何か、人魚姫がもしイケメン王子と結婚してたら」
「してたら?」
「つい、こう、『あたしの卵にかけてえぇぇぇぇ!』とかやっちゃうんかな」
「……見た目は人間、頭脳は魚、ってことか?」
「まあ人間になったんだから、卵産まないけどな。つい長年の常識が出る」
「……もうその発想が変態ですわ」
「そういやさ、海の半魚人と川とか湖の半魚人って違うんかな」
「違うんじゃね? 魚だって違うだろ。海水魚と淡水魚」
「そういや海の半魚人って、『深きもの』っていうぐらいだから、深いところに棲んでるんじゃねーの?」
「まあ、少なくとも淡水半魚人よりは深いとこいるかもな」
「海なんて大半深いとこだから、あんまり浅いとこにはいないよな」
「そりゃまあ、波打ち際専門の半魚人とかどうするんだと。『浅きもの』とか呼ばれるんかな」
「考えも浅そうだな……毎日子供に石投げられるわ」
「もう少し半魚人に優しくしてやれよ」
「波打ち際なら漁師でもやってりゃいいんだよ。半分人間なんだから」
「なんか波打ち際で昼寝してたら間違って魚市場に並びそうだな……」
「血抜きしようとしたら顔見知りで魚屋がビビる」
「さすがにその前に気づけよ……人間も大概魚レベルの知能しかないんか。鳥頭か。いや魚頭か」
「頭の中は魚でいっぱいだからな」
「だいたい漁師は半魚人じゃねえよ。魚頭が伝染しとんのか」
人と魚、やはり相容れぬものなのです。ギョギョー!