その3 吸血鬼
「はあ……アンデッドなんていなくなればいいのに」
「なんだ、またゾンビで酷い目遭ったのか。かじろうとしたのか?」
「逆にかじられかけたわ。墓荒らしする連中がいてな……そいつらがゾンビになって村も荒らすんで始末してきた」
「なんだ、ゾンビ取りがゾンビになったのか……でも今度は始末できたんじゃん?」
「そりゃあゾンビとかスケルトンだけならな。霊体のが出てきたらアウトだったわ」
「だから魔導士一人入れろって言ってんのに……霊体だけじゃなくて、もっと格上の吸血鬼とかでもアウトだべ。臨時で僧侶いれるとかさ」
「まあそうなんだが……そういや吸血鬼ってさ」
「ん?」
「血ィ吸うじゃん?」
「吸うな」
「んでさ、血液って、人間に必要な栄養素が全部入ってるらしいんだわ」
「……まあ、考えてみりゃそうだわな。血が全身に必要な栄養送ってんだから」
「だから吸血生物っているじゃん、ヒルとかヤツメウナギとか。蚊とか」
「ああ、そういう連中いるな。うぜえの」
「肉とか野菜とか気をつけて食わなきゃいかんとかめんどい奴にはすごく効率的な食生活だと思う」
「そりゃまあ、血だけ飲んでりゃいいんだからな」
「だけど世の中には『血なまぐさい』っていう風味の悪評があってな」
「ああ、確かに血の匂いとか味って、鉄の味っていうしな……レバー好きにはたまらんらしいが。短剣とか舐めてる連中ってそういう奴多いよな」
「そういうのが苦手な連中には最悪の食生活だ。血生臭いのが苦手な吸血鬼とかどうするんだと」
「まあ確かにな……てかもう、食生活っていうレベルじゃねえよな。血しか飲んでねえし」
「食生活ってか、飲生活? 食事ってより、飲血?」
「酒飲みみたいに言うな」
「てか血飲みだな……子供のうちは血飲み子とか呼ばれる」
「いやまあ、乳も栄養成分は血とほとんど同じらしいから、実質間違ってはいないんだが……」
「え、あれって赤くない血なのか?」
「だからあのおっぱいの中で白く変わるらしい。よく知らんけど」
「だったら吸血鬼なんかしてないで、女のおっぱい吸ってれば怪物扱いされなくね?」
「怪物扱いはされないが変態扱いされるな。おっぱい魔人とか」
「吸血鬼が吸乳鬼になるのか……やっぱり変態だな」
「だろ? だったら吸血鬼の方がカッコいいだろ」
「夜な夜な美女のベッドに忍び寄って首筋にカプリ、ならカッコもつくが、おっぱいちゅーちゅーじゃ変態間男だもんな。花街にでも行ってろってレベルだ」
「吸血鬼だったら怖いけど、吸乳鬼じゃキモチワルイもんな」
「イケメンヴァンパイアならカッコいいかもだけど、いくらイケメンでもおっぱい魔人じゃな……」
「だたのマザコンかと思われかねん。イメージ台無しや」
「それでもイケメンならある程度許されるんだろうな……爆発しろ」
「でさ、世の中おっぱいちゃんばっかじゃないわけじゃん?」
「そうだな、もうまっ平らで男と見紛うばかりの奴とか……」
「そういう奴にその吸血鬼ならぬ吸乳鬼が噛み付くと、みるみるうちに巨大化して!」
「おお、確かに吸乳鬼なら、食料確保のために乳を肥大化させる能力があって然るべき!」
「全世界の女性から『乳神様』と崇め奉られる存在になれるな」
「……ちょっと違う気もするが、まあ現実そういう効果があるなら、祈願ってレベルじゃなくて胸に悩む女が押しかけてくるわな」
「報酬は乳吸わせてやればいい」
「……いい大人がおっぱい吸ってる絵面はどーかなー。変態紳士だわ」
「噛み付いておっぱい大きくするのは『胸上式』とか称して儀式化してだな」
「……なんか神事っぽくなってきたぞ。やってることはほぼ風俗だけど」
「おっぱい吸って金が入って食も賄える、なんという素晴らしき存在か吸乳鬼!」
「おっぱいサイコー!ってのが神殿の宣伝文句になったりしてな」
「傍から見たらサイテーな風俗神殿にしか見えんな」
「それでも現世利益あるんだから」
「世の女性の悩みを解決する素晴らしき怪物! いやもう乳神様だな!」
「まあそれでも一人じゃ吸いきれないからな。一日何人とか限定で」
「そういう方が有り難味が出るからな」
「神殿はこう、山がふたつ並んだ谷間に設置しようぜ!」
「おお、ベストポジション! やはりそういう神聖な場所じゃないとな!」
「そうなると、吸血鬼が吸乳鬼にジョブチェンジしてくんじゃね?」
「俺も血じゃなくておっぱい吸うー!とか?」
「おっぱい吸って無限に生きる闇の怪物……だめだこいつはやくなんとかしないとwww」
「俺も眷属になりてー!wwwハライテーヒヒヒwww」
「は、迫害されずに済むんだからいいじゃねーかかかかwww」
「おっぱい大好きな連中が眷属になりに押しかけてくるだろやめろよwww」
……後に、その与太話を噂に聞き真に受けた悩める女性たちから、「乳神様の神殿はどこにある!」と真顔で詰め寄られた二人は、架空の神殿の話をさらにデッチ上げるしかなかったそうな。