その10 奇鬼怪貝
「こないだ実家に戻ったんだけどさ」
「おう、そんなこと言ってたな」
「兄貴が嫁さんの尻に敷かれてた。愚痴散々聞かされたわ」
「……まあ、世の夫婦なんてそんなもんじゃね?」
「昔は優しいお姉ちゃんだと思ってたのに……」
「まあまあ、それで兄貴がいいならいいんじゃねーの? それにお前の嫁じゃないんだし」
「兄貴も鬼嫁だって嘆いてた。結婚前はラブいバカップルだったのに」
「……」
「んでさ、鬼ってさ」
「また鬼か」
「ツノ生えてんじゃん」
「生えてるな」
「一本だったり二本だったりもっと多かったり」
「そうだな。だけど大体、一本か二本だな」
「だけど前に遭遇したオーガロードはものすごい数生えてたな」
「ああ、ヒゲみたいに顔の周囲にびっしり生えてたな。二十本以上あったなありゃ」
「もうヒゲなのかツノなのかわからんぐらいな」
「確かにな。寝るとき横向けないよな」
「横向いて寝たら枕一日で穴だらけになるぐらい」
「嫁にド叱られるな。いたらだけど。鬼嫁だろうからな」
「確実に鬼嫁だよな……でさあ、あのツノなんだけど」
「ツノがどうかしたか」
「あれさあ……寄生生物じゃね?」
「えっ……あれも寄生したやつなのか? もしかして……貝? ユニコーンみたいな?」
「うん。だからもしかしたら、あいつらって貝に寄生された巨人とか、そういう連中じゃないかっていう説がな」
「ちょ、怖いんですけど……なにその貝こわい、まじこわい」
「実はその貝がいる池とか沼とか洞穴とかがあって、そこに行った巨人は鬼になって帰ってくるという……」
「ちょっとしたホラーだな……洞窟ならホラー穴だな」
「……で、もしかしたら人間にも寄生するんじゃないかと」
「ちょ、やめてもう俺、川とか沼とか近づけない」
「いやまあ、あくまで推測なんだけどさ」
「イヤな推測すんな」
「もしかしたら、ツノある魔獣の類って、元々なんかの生物にこの『魔貝』が寄生して、魔獣に生まれ変わった奴らなんじゃないかという説がね」
「これがほんとの『魔貝転生』ってやつか……」
「んで、人間に取り付いたらどうなるのかって」
「どうなるんだよ……なんか気付いたのか?」
「ああ、ほら、ユニコーンがさ、この魔貝に寄生されて、人間の女の処女を見分ける力手に入れてるとしたら、だ」
「したら?」
「あの連中、人間の女にどうにかして寄生しているんじゃないかって……」
「……するってーと何か、ユニコーンて、人間の女に寄生するための……」
「という仮説を考えた」
「仮説かよ……でもその可能性はあるってことだな」
「それを否定する証拠は何一つない」
「怖ええ……貝怖えよ!」
「まあでも、多分俺らはユニコーンタイプには寄生されない」
「なんで」
「あいつら女、しかも処女にしか用がないからな」
「ああ、そうか……じゃあユニコーンには安心して触れるな」
「あいつらが触らせてくれんけどな。それで問題は、鬼の角になるやつらだ。あいつらは多分、オス専門の寄生貝だと思うんだ」
「やめろ聞きたくない。触りたくもない」
「だからこれから鬼退治に行く奴らは要観察だ」
「鬼退治の鬼がリアル鬼になるのか……」
「ミイラか」
「……あ、わかっちゃった。ユニコーン経由の貝、わかっちゃった」
「ナニ。また余計なこと思いついたのか」
「いやいや、ユニコーン経由で人間の女に寄生したらさ」
「寄生したら?」
「鬼女になって、将来鬼嫁になる」
鬼嫁が生まれる原因が判明。