1話 世界で一番美しいのはだあれ?
初投稿です。
グリム童話に転生します。
ヘタッピごめんっw
暖かい目でお願いします。
あぁ、やっぱり…。男なんてみんな同じなのね…。
目を覚ました私は、目の前に見える豪勢な天涯に仰天した。
まだ寝ぼけてるのかなと思い、体制を変えようと横向きに転がった。
「うわぁっ!」
転がった拍子に、私はベッドの上から転げ落ちた。
額を擦りながら、覚めた目で辺りを見渡してみた。
「…なに、この豪勢な部屋は…」
金と宝石で飾られた天涯付きベッド。細かな彫り物が施されたテーブルやタンス等の家具。決め細かな生地のソファー。天井には大きなシャンデリア。
初めてみたわ…。
「…さま!…お嬢様!」
そう言いながら、慌ただしく豪勢な扉から、落ち着いたメイドの様な服を着た女性が部屋に入ってきた。
「大声を上げていらしたので来て見れば、ベッドから転げ落ちたのですか?」
そう言いながら、メイドは私を抱き起こした。
「いつもはベッドから落ちるなどなさらないのに、一体どうされたのですか?…お嬢様?」
メイドの言葉も聞く耳持たず、次第に頭の中には走馬灯のように映像が流れてきた。
イーヴィ・クインテット。齢十歳。クインテット侯爵令嬢であり、既に同じ爵位の子息と婚約している。身分意識が激しく、悪態を付いては周りを困らせ、我が儘放題。他の令嬢の友達は居なく、婚約者とこの国の皇太子殿下を幼馴染みに持ち、イーヴィの性格を知っている二人しか、遊び相手がいない。唯一誇れるのは、綺麗な顔立ちと深い海のような紺碧の長い髪。その容姿をいつも自慢するかのように口にする。
それが、私が転生した先だった。
○
「別れようって、どういうこと?」
これは、私が転生する前の話。
大学を卒業し、とある薬品会社の研究員として働いて5年たった頃、大学生の頃から付き合ってた彼氏から別れの言葉を告げられた。
「好きな人が他にできたとか…、7年間付き合って今さらそんな…」
「だって、お前より可愛いからな」
そう言うと、彼は私に背を向けて去っていった。
「私より可愛いって…」
その後の私の記憶は曖昧だった。
私はあの後、居酒屋に入っては飲みを5件くらい繰り返し、カウンターの隣に座ってた人に絡んでは引かれ、憂さ晴らしをしてた。
そりゃ、容姿はお世辞にもいいとは言えないけど、だからって7年間付き合った人と今さら別れる?
もうすぐ三十路迎えるって手前でこの仕打ち…。
呼び出されたときは、プロポーズか何かかな~って浮かれてた自分が馬鹿らしくなった。
研究員なんて、彼氏とかどう作ればいいんだよ…。
「姉ちゃん、飲みすぎだって…。そろそろ止めて帰ったらどうだい?」
カウンターにうずくまっていると、居酒屋の店員に起こされ、水を差し出された。
私は水の入ったコップを受け取り、一気に飲み干して会計をした。
明日も仕事あるし、帰るか…。
私は居酒屋を後にし、自宅へと向かった。
その帰り道の下り階段。フラフラした足でしかもヒールを履いていた為か、私は階段を踏み外して転落した。
あっちこっち痛いと思ったのは覚えていたけど、もうどうでもよくなってそのまま目を瞑った…。
前世の記憶があるのはここまで。
てことは、この時私は死んで、イーヴィの体に転生したってことになるのかな…。
「しかし、十歳の子供って…」
考え事をしている間に、さっきのメイドが着付けをしたらしく、寝癖はさらさらの髪に変わり、寝間着から可愛いドレスに着替えさせられていた。
鏡の前に座り、私は新しいイーヴィの顔を触り始めた。
…にしても、結構可愛い顔してるじゃん。髪だって深い海みたいな色でキラキラのツヤツヤだし。前世の私より、断然今の方が将来美人になるな…。
そうしていると、寝間着を洗濯に出しに行ったメイドが戻ってきた。
イーヴィの記憶によると、彼女はアネッタ。イーヴィが生まれたときから使用人として雇われ、今ではイーヴィの侍女となっている。いつもイーヴィの我が儘に振り回されて、記憶を見る限り可哀想なくらい…。
この世界は私が見る限り、前世にいた世界と全く違っていた。
調度品から外の風景は、中世のヨーロッパ。私が一番驚かされたのは、この世界には魔法が存在するということ。
といっても、魔法は奇跡の産物であり、誰しもが扱える訳でもなく、人間が使えるものではない。妖精や悪魔の存在で生まれる力…らしい。
私は部屋にあった本を片っ端から集めて、この世界のことを調べ始めた。
…魔法って、まるでおとぎ話ね。前世では妖精や悪魔や魔法なんて空想のものだっから、いまいち信じられないなぁ。
「お嬢様、ご希望されてた本をお持ちしました」
分厚い本を持ってきたアネッタは、私のいる机の横に置いてきた。
「急に歴史の本が読みたいなどと…、一体どうされたのですか?」
「ん…ちょっと調べものを…」
物珍しそうに見てくるアネッタに私はぎこちない返事をした。
それもそうだよね…。前のイーヴィは大の勉強嫌い。歴史の本なんて開いたことないのだから、アネッタが不思議がるのも無理はない。
けど、この世界のことを知るなら、歴史とかから見るのが一番いいと思った。
「本ありがとうね、アネッタ」
「お嬢様!?」
本を受け取りお礼を言っただけで、アネッタのこの驚き様…。イーヴィはどれだけ礼儀知らずなのかすぐにわかった…。
○
大きな大陸に小さな国が七つ。そのひとつが、ここラドルス王国。半分が森と鉱山であるためか、人口は他国より少ない。けど、鉱山から取れる石炭や宝石を軸に財政は他国より豊かで、緑も豊かな土地。魔法が存在するといっても、あくまで奇跡の産物であるから、それで何かを作り出したり、ましてや戦とかはないらしい。だからといって、前世のような科学的な進歩まではいってはいない。
ここ何十年かは戦とかは起こっていなく、七か国で同盟を結んでいる。別の国で小さな反乱はごくたまにあるみたいだけど、それでも平和そのもの。
本を一通り読み終えた私は本を机の上に置くとベッドに横たわった。
字見すぎて目が疲れた…。
今までは、これくらいの字で疲れたりしないのに…。体が子供だからだろうか?
ドアのノック音が鳴り、アネッタが部屋に入ってきた。
「お嬢様、そろそろ支度をなさらないと…」
「なんの支度?」
「お忘れですか?本日は皇太子殿下主催の王宮サロンでのお茶会パーティーですよ」
アネッタに言われイーヴィの記憶をたどると、確かにその予定があった。
○
軽く昼食を取ったのち、アネッタに着替えさせられた私は、馬車に乗って王宮へと向かった。
王宮に着き、馬車から降りようとすると、降りた先に綺麗な調度品を付けた男の子が立っていた。その子は私に気づくと、歩み寄ってきて手を差し出してきた。
「来るのが遅かったな。早くしないとパーティーが始まるぞ」
そう言いながら、私の手を取りエスコートしながら王宮のサロンへ向かっていった。
彼がイーヴィの…いや、私の婚約者ことクローキス・ロッド。ロッド侯爵子息であった。
さすが王宮といったところか、庭園の温室の中にサロンがあり、今日はそこでお茶会を開くらしい。
中に入ると甘い香りが漂い、私は思わず匂いのする方へ向いた。
あんないい匂いのお菓子とか…、美味しそうなのばかり並んでた。…早く食べたい。
「なんか、今日のイーヴィはやけに食い意地張ってないか?」
「な…、そんなことないよっ」
「まあいいが、そろそろ殿下の挨拶が始まるぞ」
クローキスがサロンの中央を向いた。私もつられて中央を見ると、小さな噴水の段差には皇太子殿下が立っていた。
貴族の子息令嬢が注目する中、堂々と背筋を伸ばし立っている皇太子殿下が、私の幼馴染みでもあるプリウス・ザック・ラドルス殿下。
侯爵家の婚約者に皇太子殿下を幼馴染みに持ってるなんて、イーヴィの友好関係が意外にしか思えない…。
「この度は、私のサロンパーティーに来ていただき光栄です。今日は私から重大発表があるため、パーティーを開かせてもらった。皆に紹介したい人がいる。…ルーナ、こちらへ」
殿下が手を差し出した方向へ、皆が視線を向けた。綺麗な黒髪の令嬢が、殿下の手を取り、噴水の段差へと登っていった。
「私は、このホワイト伯爵令嬢、ルーナ嬢と婚約した」
そう言うと、殿下はルーナ嬢を抱き寄せた。それと同時に周りは歓喜の声をあげた。
「…クローキス様、プリウス殿下の婚約の話は知ってましたか?」
「いや…、俺も知らなかった…」
私とクローキスが呆然としていると、殿下は私たちのいる方を向き、笑顔をみせた。
…これは、わざとだな。
パーティーが始まり、私は目星を付けていたお菓子を頬張った。
「婚約したなら、言ってくれても良かったんじゃない…。そうは思いませんか?クローキス様」
「まあ、確かに驚いたが、俺はお前の方に驚いているよ。いつからそんなに行儀悪くなったんだ?」
皿いっぱいになったお菓子を見ながら、クローキスは呆れていた。
だってなんだかムカついたんだもん。転生したとはいえ、幼馴染みから何も聞いていないなんて、ちょっと悲しくなっちゃった。今までのイーヴィの記憶や感情も、もう私なんだ…。
「だって、私たちに内緒にしていたなんて、プリウス殿下は薄情者だとは思いませんの?」
「誰が薄情者だって?」
私の後ろから、クローキス以外の声が聞こえ、振り向くと殿下が立っていた。
「…これはプリウス殿下、…お久しゅう…ございます…」
「久しぶりだな、イーヴィ。キースも久しぶり」
「リウス…いや、プリウス殿下。お久しぶりでございます」
キースはクローキスの愛称で、リウスは殿下の愛称。
ロッド侯爵はこの国の宰相をしている為か、クローキスと殿下は小さい頃から一緒にいて愛称で呼び合っている。
私もいつか愛称で呼び合いたいな…。
「普段通りにしてくれて構わない。二人には驚かせたくて秘密にしていたが、思った以上の反応だったよ」
「リウスも人が悪い…。言ってくれても良かったんじゃないか?」
「普通に言ってもつまらないだろ?まあ、イーヴィの機嫌を損ねそうだし、これ以上のことはしないさ」
私の持っている大量のお菓子を見て、殿下は可笑しそうに笑った。私はなんだかムカついてそっぽを向いたら、先ほど殿下と一緒に立っていたルーナ嬢が気まずそうにこちらを向いていた。
「ルーナ、この二人は僕の幼馴染みのクローキス、ロッド侯爵子息とイーヴィ、クインテット侯爵令嬢だ」
私とクローキスは殿下の紹介に合わせお辞儀をした。
「初めましてロッド様、クインテット様。ホワイト伯爵家長女のルーナと申します。ルーナとお呼びください」
そう言うと、ルーナもお辞儀をしてきた。
動作や言葉遣いなど、とても綺麗なルーナ。長く綺麗な黒髪が揺れ、彼女を引き立たせていた。
すると、周りの令嬢の小さな声が聞こえた。
「何故あんな地味な伯爵家の者が、プリウス殿下の婚約者なんかに…」
「黒髪なんて、不穏な色をお選びに…」
「あんな黒髪娘より、私達の方が美しいに決まってますのに…」
本人に聞こえるようにヒソヒソと話す令嬢達に、私はそちらの方を向いた。
「イーヴィ?」
クローキスの呼び掛けをそっけに、陰口を言う令嬢の方へ歩いた。
「イーヴィ様…」
令嬢達は私に気づくと一礼をした。
「ご機嫌よう、みなさん。先程、お話が聞こえてきたのでお声かけしてみたのだけど…」
「イ…、イーヴィ様が一番お美しい話をしておりましたの」
「そ、そうですわ。私達など、イーヴィ様の足元にも及びませんもの…」
「こんな美しいイーヴィ様に挨拶だなんて、ルーナさんもなんて無礼な方なんでしょうね…」
あからさまに私の機嫌をとる令嬢達。
まぁ、爵位もトップクラスで、殿下の幼馴染み、ましてやいつものイーヴィの口癖が「世界で一番美しいのは私ですわ」と容姿を自慢するイーヴィの機嫌を損ねたら、大変だものね。確かに、自分で言うのもなんだけど、この会場の中で誰が一番美しいって言ったら、私だと思うもの。けど…。
「そうですわね。私の美しさの前では、あなた達は心まで醜く見えますわね」
私は嫌みを交えて言った。
「そんなあなた達に美しいと言われても嬉しくも思いませんの。むしろ、不愉快だわ。さて…、無礼なのは一体どちらなのしょうか…?」
私はルーナの事を無礼者と言った令嬢を睨んだ。視線に気づいた令嬢は、私の視線をそらした。
「ルーナさんはあなた達とは違って、とても品のある方です。ましてや、未来の皇后となられるお方に、あなた達が綺麗な黒髪を侮辱する資格がありまして?」
私の言葉に屈したのか、令嬢達は悔しそうにその場を離れていった。
私は言いたいことを言い終えて、ルーナ達の所へ戻ろうとした。ルーナは少し涙目になっていて、不安そうに私を見つめてきた。
「あなたも、プリウス殿下の婚約者になったのなら、もっと堂々としたら?」
うじうじしているルーナを見ていると、前世の私を見ているような気になって、つい言ってしまった。
私も容姿に自信がなくて、こんな感じだったな…。
「ルーナさんの髪はとても綺麗です。こんな綺麗な黒髪は見たことがありません」
この世界で黒髪は珍しい。というより、黒は邪悪な色として認識されているため、毛嫌いされることが多いから、令嬢達の反応もそこからなのだろう。けど、前世の世界では黒髪が当たり前だった私にとって、ルーナの髪はとても綺麗だと思った。
せっかく、この世界で珍しい黒髪なのだから、他とは違ったお洒落ができるだろうに。
「美しさは、他人が決めるものとはかぎりませんの。自分がまず、美しいと思えなくては…」
ルーナは呆気にとられたように頷いた。
「ならば、ルーナさん。私の友人になって頂けませんか?」
「私なんかが、よろしいのですか?」
「もちろんよ。だって、こんな美しい私の友人なんて、ルーナさんのような綺麗で品のある…しかも、未来の皇后様しかいないわ。それと…、“なんかが”じゃなくて、ルーナさん“が”いいんです」
イーヴィには女の子の友人がいないのだから、このパーティーで作ろうかと思ってたけど、さっきの令嬢達じゃなんか嫌だし…。ルーナが一番いいと思えた。
「クインテット様…」
「イーヴィと呼んで頂戴、ルーナ」
「…はいっ。イ…イーヴィ」
これが、彼女との出会い…。そしてこの未来、私が彼女の娘の継母になるなんて、私は知りもしなかった…。
これは、私の物語の始まりに過ぎないのだ。
頑張って連載させていきます!