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奴「どうしたの? うーちゃん」

うーちゃん「どうした、だと?」

奴「いやだってさ、もう、さ」

うーちゃん「はぁ…まあいい」

奴「側近は?」

うーちゃん「いるが術をかけさせてある」

奴「なるほどね~」

うーちゃん「だから喋れ」

奴「ん? 何を?」

うーちゃん「お前がしたことを」

奴「もう全部喋ったよ」

うーちゃん「お前は嘘をつける」

奴「僕じゃなくたって嘘はつける。

  今僕は嘘ついてないから」

うーちゃん「そういう流れるような、迫真の嘘がつける」

奴「ついてないって」

うーちゃん「…質問を変えよう」

奴「えー」

うーちゃん「不服なら、答えろ」

奴「どっちもやだなぁ…って、そんな睨まなくったっていいじゃない?」

うーちゃん「答えるべきことはあるんだな?

      なら早く」

奴「や」

うーちゃん「ふざけるな」

奴「ははは。もー。

  知ってるはずでしょ?

  僕これ通常運転だからさ」

うーちゃん「関係ない」

奴「あはははははあ! 

  うーちゃんらしいなぁ。

  ああもう、やめてやめて!

  大丈夫だから。

  ここじゃ僕は何にもできっこないんだからさ」

うーちゃん「それは本当にか?」

奴「嘘だったら?」

うーちゃん「多分お前はそういう返し方はしないだろう」

奴「あー…。

  やっぱうーちゃんだ。

  昔病気して死にかけてたときも、うーちゃんそんな感じだったよね。

  うん…。

  なんか…ちょっとだけ残念」

うーちゃん「何が」

奴「だって、もうすぐじゃん」

うーちゃん「分かっているのなら喋れ。

      どうやって入った」

奴「何もないから喋りようがないよ」

うーちゃん「どうやって、そして何でわざわざ、あのタイミングで塔の中にいた」

奴「『あの』って?」

うーちゃん「王子の高熱が一週間続いた、あのタイミングで塔の上ではなく中にいたんだ」

奴「たまたまだよ。前も言ったじゃん」

うーちゃん「聞いた。

      だがもう一度聞こう。

      あの塔に…代々穢れなき乙女達を一人ずつ幽閉しているあの塔になぜ入った」

奴「あ~めんどくさいなぁ~。

  たまたまって言ったらたまたまだよ。

  いや、ね?

  だって思うじゃん。

  僕が素材選びしたあの傑作ステンドグラス、中から見たらどうなってるのかな~とか。

  床も超こだわったし。

  建設したとき以外で中に入ったことないからさぁ。

  今だったらどんな感じかなーって。

  うーちゃんこそなんでその質問なの?」

うーちゃん「今、知っているのは、この世に俺とお前と元帥だけだからだ」

奴「知ってるって?」

うーちゃん「穢れなき乙女達の使い道を」

奴「あぁ!

  それね!」

うーちゃん「なぜあの時入った」

奴「なんとなく!」

うーちゃん「…たまたま、じゃないのか?

      タイミングは計ったんだな」

奴「そういうあげあし取りやめよーよ」

うーちゃん「魔方陣は使ったのか」

奴「あそこの魔方陣は結局あのとき使わなかったじゃんか」

うーちゃん「それじゃない。

      他にあるんだろう?」

奴「ないよ。

  なんでそんな魔方陣にこだわるの?」

うーちゃん「お前が一番得意とする手段だから」

奴「わー! うれしいなぁ。

  うーちゃん、僕の得意技覚えてくれてたんだ!」

うーちゃん「はぐらかすな」

奴「やや、だって…ちょっと…さぁ。

  感無量っていうか…」

うーちゃん「使ったのか」

奴「うんにゃ。使ってないよ。

  アソコに1つだけあるやつもね」

うーちゃん「『も』?

      使ってはいないがあれ以外にあの近辺に魔方陣があるということか?

      どうなんだ?」

奴「ないよ。

  本当にそれ以外はない」

うーちゃん「使ったか?」

奴「知ってるでしょ」

うーちゃん「侵入のために他に仕込んだやつだ」

奴「だからぁ~!

  そんなのないから! 大丈夫だから!」

うーちゃん「弟子は?」

奴「弟子?」

うーちゃん「一人いたろ」

奴「…あー…いきなり何かと思った。

  あれね」

うーちゃん「何か話したか?」

奴「ううん! 何も!

  あいつ僕とはベクトルが違うからぁ…」

うーちゃん「…弟子の腕は?」

奴「それも、ううん。

  そんなに心配するほどじゃないから大丈夫。

  ちょっと強い人ならフツーに消せると思う」

うーちゃん「…嘘をつくな」

奴「ふふ…」

 奴は柔らかい笑みを浮かべた。

奴「うーちゃん。

  僕はうーちゃんに、もっともっと、今この時を楽しんでほしいんだよ」

うーちゃん「さっきも言ったし何度も言ったが、はぐらかすんじゃない」

奴「思ってたんだ。

  最近うーちゃん、気が抜けたみたいだなって」

うーちゃん「は?」

奴「だって、粗方片付いてるでしょ?

  僕、だいぶ手伝ったからわかるよ。

  あとは目的を果たすだけ。

  なんかそうなったせいで…ていうか、そうなってく過程で、かな?

  うーちゃん、手段と目的が入れ替わってそうだなーって。

  片付けないと! って突っ走ってる時は生き生きしてたよ。

  でも、片付いたら、もうあとは目的だけじゃん。

  時期と準備はいるけど…いつにするかってだけでさ。

  だから、ほら…そう!

  これは僕からのプレゼントだよ」

うーちゃん「…これ、とは?」

奴「これだよ」

うーちゃん「いいかげんにしろ」

奴「僕がどうやって塔に入ったのかってこと」

うーちゃん「…もう一度言おう。

      いいかげんにしろ」

奴「僕はうーちゃんに楽しんで欲しいんだ。

  前を向いて欲しいんだ。

  投げ遣りになってるじゃないか。

  うーちゃんのこれからへの、せめてもの餞だよ。

  僕が知ってるうーちゃんに、僕が今出来る最大のこと」

うーちゃん「お前が自分の欲望のために他人に嘘を平気でつけるのはよく知っている」

奴「うん。

  ありがとう。

  ぶっちゃけると僕はもうやりたいこと残ってないんだ。

  うーちゃんに全部やらせてもらったからさ。

  だから、僕は最後にやりたいことはこれかなって」

 ドア越しに金属音を連れたどかどかと騒がしい足音が近付いてきた。

奴「もうかぁ。早いなぁ」

うーちゃん「逃げるなよ」

奴「しないよそんなこと。

  さっきも言ったでしょ。

  もう全部、やったから」

荒々しい音と共にドアが開く。

兵士「時間だ…です…と…」

うーちゃん「待たなくていい」

奴「うん」

 さっさと立ち上がった奴を、文字がびっしり書かれた甲冑を纏う兵士達が取り囲みだす。

うーちゃん「早くいけ」

奴「うん。

  一足先に向こうで待ってるよ」

ドアの向こうに奴の姿と声は消えて行き、そして静けさが広がった。

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