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#9 力の根源

 私達は翌日、ある場所に連れていかれた。

 そこは、戦艦内にある射撃場。広くて、分厚い壁で覆われた場所だ。ここに、4人の魔導士達が集められた。


「こんなところにきてもらって申し訳ない。だが、皆さんのことを知るため、ぜひ協力いただきたい」


 と話すのは、この戦艦に常駐する技術武官だという。こやつがいうには、ここで思う存分、魔導を使って欲しいというのだ。

 このため、本来は補給を終えて半日で去る予定だった駆逐艦2810号艦は、延長して停泊することとなった。

 なぜ、こんなことになってしまったのか?

 セシリオ殿を始め、こやつらが言うには、宇宙で「魔導」が使えることは、かなりとんでもないことだというのだ。

 魔導や魔法と呼ばれるものが使える星はいくつか存在するが、大抵の場合、宇宙に出るとその魔導士は魔導が使えなくなるという。

 どうやら、その星の表面から発せられる力を利用して、魔導を生み出しているからだ。

 だが、たったひとつだけ、宇宙空間でも魔導を使える魔導士の住む星がある。

 地球(アース)760という星なのだが、ものを浮かせたり、自らを宙に浮かべたりすることができるという。そこでは魔導士達は「魔女」と呼ばれているそうだ。

 そんな彼らの星以外で、宇宙空間で魔導を使える魔導士が現れた。

 しかも、ここの魔導は種類が多い。単に物を浮かせたり、飛んだりするだけではない。私のような爆炎魔導や、視野を奪うナタリーの闇の魔導もある。

 そこで、この戦艦にいる4人の魔導士の全てが、ここで魔導を使えるのかを試すこととなったのだ。

 セイラの魔導だけなら、単に水を浮かび上がらせるだけのものだから、先程の地球(アース)760という星の「魔女」のできることと大差ない。

 が、もし私の火の魔導や、ナタリーの闇の魔導が使えたとしたら、まったく新しい発見になりかねないというのだ。

 そこで、まずはナタリーの「闇」から確かめられることになった。

 ナタリーの魔導の及ぶ範囲は、前回のヴィレンツェ王国とやりあった際に、120メートルだと分かっている。

 この演習場は200メートル四方、高さは50メートルあるそうだ。そこで、ナタリーの世話係となっているゼークト大尉が実験台となって、100メートル離れた位置に立つ。


「それじゃあ、行きますよ!」


 ナタリーが叫ぶ。両手を広げて、術式を唱える。


「アル、ナタリーナ、アレアドラ、ハルムーン……」


 ナタリーは、北方のある王国出身。元々彼女は、私達とは言葉も違う。ゆえに、術式は彼女の故郷の言葉が使われていて、何を唱えているかは分からない。ヴィレンツェ王国に捕まった時は名前を持たず、このため術式の文言の一部から「ナタリー」と呼ばれるようになった。


「あれっ!?本当に目の前が真っ暗になった!」


 離れて見ていた我々は大丈夫だが、その実験台となったゼークト大尉は目が見えなくなった。

 早速、医師が診察をする。不思議なことに、何の異常も認められない。だが、脳の働きの一部が停止していることが分かった。

 それは、視野を司る部分。ここを麻痺させることで、視野を奪っているものと推測された。

 おそらく、視神経を刺激して、そこを経由して視野を司る脳の働きに影響を与えたのだろうと考えられると医師は言っていた。だいたい10分もすると脳の働きが戻り、ゼークト大尉の視野が戻った。


「いや、すごいよ、ナタリー!本当にこんなことができるんだ!」

「ええっ!?あの、そんなにたいしたことじゃ……」


 いきなりゼークト大尉に肩を抱かれ、顔を真っ赤にしながら応えるナタリー。闇の魔導をかけられて歓喜する人を見たのは、多分彼が最初だろう。


 そして、私の番となった。


「いけそうか?シェリル」

「大丈夫だ、炎の精霊を感じる……」


 心配するセシリオ殿をよそに、私は術式を唱える。


「この地に舞う火の精霊よ、我にその力を集めたまえ……いでよ!!爆炎球(エクスプロージョン)!!」


 私の前に、真っ赤な火の球が発生した。それはゆっくりと動き、この演習場の真ん中にある標的に向かって飛んでいく。


「シェリル!待避だ!」


 セシリオ殿が叫ぶ。私は、待避用に設けられた窓付の鉄の箱に飛び込む。

 扉を閉めた瞬間、私の魔導が発動する。目でわかるほどの衝撃波が見える。

 バーンという音とともに、我々の逃げ込んだこの箱がガタガタと揺れ始めた。閉じられた空間のためか、その衝撃が何度も跳ね返るようで、なかなかおさまらない。

 やっと静かになり、鉄の箱の外に出る4人の魔導士と士官達。これをみたセイラが言う。


「あ、あんたの魔導って、こんなに凄まじいものだったの!?知らなかった……」

「いや、火の魔導だから、水には弱いはずだ。たちまち消えてしまうのではないか?」


 ところが、技術武官の話によると、あの炎の球に水の魔導をぶつけると、高熱のため水蒸気爆発を起こす可能性があると言う。空気よりも高熱な風が吹き荒れて、かえって危ないらしい。

 私とセイラは、直接対決しなくて正解だった。もし、この2つの魔導がぶつかると、敵味方を問わず火傷を負う兵であふれていただろうと技術武官は言う。

 そのあとに、水の魔導も試された。セイラとミレーユ共に、水槽に張られた水を持ち上げる。

 これは、地球(アース)760の魔女と同じ理屈で説明できることが判明する。重力子というものを操り、水を浮かせているのだと分かった。液状のものであれば、例えば液状の高熱のガラスと言った水以外でも魔導を使えることが分かった。

 が、固体や気体はダメらしい。そのあたりの理由は分からないという。ともかく、4人全員がこの宇宙の果てでも、魔導を使えることが分かった。

 だがこの技術武官は、私の力に最も興味を示す。

 実に興味深い事実が、判明したというのだ。


「シェリルさん。あなたの力の根源はよく分からない。が、あの炎の正体は『陽電子』だと分かった」

「ヨウデンシ?なんだ、それは?」

「電子の反物質だ。それが猛烈な勢いで生成され、物にぶつかるか、あるところで空気中の物質と触れることで、物質中の電子とぶつかり対消滅を起こす。実際に511 keV (キロエレクトロンボルト) のγ線が大量に検出された。間違いなくあれは、陽電子と空気中の電子による対消滅によるものだ」

「なんですか、それは!?一体、何が起こっているんです」

「さあ……私にも分からない。だが、実はこの空間では、絶えず対生成、対消滅が起きているという事実を知っているか?」

「いや、そんなこと言われてもさっぱりじゃが……」

「『真空のエネルギー』だとか『ダークエネルギー』などと言われているが、この空間中のミクロな世界では常に電子と陽電子が発生しては対消滅をするという現象が起きているんだ」

「はあ……そ、そうなのか……」

「ところがだ、それを数億倍にしたような現象が、あなたの魔導により発生した。そういえば、わかってもらえるか?」

「いや、ますます分からぬ!どういうことじゃ?」

「つまりだ、結論から言えば、あなたは『真空のエネルギー』を操ることができる人物だ、ということだ」

「は?真空のエネルギーを操る??」


 技術武官の説明が続く。もはや、私には何を言っているのか分かるはずもない。技術武官は、セシリオ殿に尋ねる。


「ところで今、宇宙空間が膨張していることは知っているか?」

「はい、知ってます」

「その膨張の速度が、徐々に上がっているという事実を知っているか?」

「ええ、聞いたことはあります。でも、それが彼女の力と一体、なんの関係が……」

「この膨張の加速は、『真空のエネルギー』によって加速されていると言われているんだ。だが、どうしてそんなエネルギーがこの世に存在するのか、未だによく分かっていない」

「はあ、そうなんですか」

「ところがだ!その真空エネルギーを自在に操ることができる人物がここにいる!これが、いかにとんでもないことか、分かるか!?」

「ええと……はい、分かるような気もします……」

「とんでもないことだぞ……宇宙の真理を解明できるかもしれないほどの事実だ!えらいことになってきた!」


 なんだかその技術武官は興奮している。そんな技術武官に向かって、セシリオ殿は尋ねる。


「あの、そういえば、彼女は対消滅を起こしているって言ってましたよね?」

「ああ、そうだ」

「ということは、あの爆発を一発やるたびに、大量の放射線を浴びていることになりませんか?」

「ああ、浴びている。だが、これくらいの距離ならばレントゲン写真2、3回分だ。何度も浴びるのは良くないが、一発二発ならば問題ない。それに、この鉄のシェルターは耐放射線防護も施してあるから、全く問題はない」

「ええーっ!?やっぱり出てるんですか!?じゃあ、生身で使ったらやばいじゃないですか、彼女のこの魔導は!」


 セシリオ殿は妙なことを言い出した。何が一体やばいのだ?


「なあ、セシリオ殿。なにがそんなにやばいのだ?」

「あのですね、シェリルさん。放射線という、あまり大量に浴びるのはよくないものがあるんですよ」

「うむ。そうなのか」

「で、シェリルさんの出す火の魔導が大爆発を起こす瞬間には、そのあまりよくない放射線ってやつが大量に出ているらしいんですよ」

「なんじゃと!?どういうことだ!」

「どういうことだと言われても……とにかく、むやみやたらに使うのは、体に良くないということです」


 ただ、私の衝撃波を退避するために入った鉄の箱や人型重機、それに駆逐艦自体には、この放射線というやつを吸収する仕組みがあるという。宇宙にはその有害な放射線が満ち溢れているため、それらを防護する仕組みというのが備わってはいるそうだ。

 だが、生身の体をさらしたままで使っていいものではないという。そう言われても、これまでにもう何度も使ってしまったぞ、私は。


 実験が終わり、4人の魔導士はそれぞれ世話人とともに街に向かう。

 そこで私はチーズケーキなるものを食べた。甘い、そして、美味い。

 そんなチーズケーキを食べる私を、じーっと見つめるセシリオ殿。


「なんじゃ、セシリオ殿。私の顔に、何かついているのか?」

「いや、こうしてみると、スイーツ大好きな普通の女の子だというのに、我々の科学でも解明されていない未知の力を操る人物だとは、とても思えなくてさ」

「うむ、私も何が何だかわからぬが、とんでもないことをしていたということは、なんとなく理解した」

「一つはっきり言えることがある。むやみにその力を使うと、自身の体を蝕んでしまうということだ。あまり使わない方がいいよ」

「そうじゃな。私もできれば、あんな魔導は使いたくない」


 と言ったものの、その翌日には早速その魔導を使うことになった。

 私とセシリオ殿は、またあの射撃訓練場にやってきた。今度は、なんだか大量の機械が置かれている。そんな中で、私に魔導を放てという。


「お願いします!この宇宙の謎の一つが、解明できるのかもしれないんです!」


 と言われたので、私はまた術式を唱える。そして、鉄の箱に退避する。

 その大量の機械とやらは、私の火の魔導の爆発でもろとも吹き飛ばされてしまった。跡形もなく消滅した機械だが、それでも幾らかデータが取れたと、その技術武官は喜んでいた。

 これを1週間ほど繰り返す。半日は射撃場で、残りは街に繰り出して、スイーツと映画を楽しむという毎日を過ごした。妙な実験に付き合わされたが、おかげで私は街を満喫できた。

 そして8日ぶりに、ようやく地上に戻ることとなった。

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