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#6 「闇」と人工知能(AI)

「あなたにはぜっっったい負けないからね!!」


 会うたびにこう叫ぶのは、先日助かったばかりの元カターリア王国の魔導士、セイラ。私の前ではこの通り、対抗心丸出しだ。どうでもいいが、今さら何に勝とうというのか?

 だが、セシリオ殿から聞いた話では、裏では彼女の担当となった士官、バルド中尉と気が合うようだ。

 バルド中尉は、砲撃科所属の砲撃手。冷静沈着、というか、まるで動じない人なんだそうだ。

 もちろん、あのセイラという魔導士も最初は食ってかかっていたようだが、あまりにも冷静にかわすこのバルド中尉を相手にだんだんと疲れてきて、そのうち仕方なく会話をするようになったら話が合うことに気づき、気がつけば一緒に食事をする仲になっているとのこと。

 言われてみれば、食堂でよくある男性士官と一緒に食事しているのを見かける。あれが、バルド中尉か。

 私には睨みつけるくせに、あの中尉殿には笑顔すら見せるセイラ。なんなのだ、この女は。

 一方のミレーユだが、彼女は数人の男性士官から迫られている。断れない性格ゆえに、毎日違う男性と食事をしているのを見かける。

 だが、ミレーユ曰く、これといって気に入った士官には巡り会えていないそうだ。

 彼女は愛想はいいが、意外にも物静かな人物を好む。だから、私のようにどちらかといえば無駄口を言わない人物と気が合う。それゆえに、言い寄ってくる男性達には興味が向かない。

 さて、そんな私は、セシリオ殿とともに食事をする。


「なあ、セシリオ殿」

「なんだい、シェリル」


 もう最近、セシリオ殿は私の名を呼び捨てしている。


「これから、どうなると思う?」

「これからって?」

「まずは、カターリア王国に向かっている軍勢のことだ。聞けば、7000もの兵を進めているとのことだ」

「上の方で作戦を考えている。もうそろそろ出撃命令が出るんじゃないかな」

「ところで、セシリオ殿。今度も私を、連れて行ってもらえないか?」

「ええーっ!?今度は多分、危ないよ。場合によっては、人に向かって発砲する場合もありうるし。悲惨な光景を目の当たりにすることになるかも」

「私自身も今まで、たくさんの人を殺しておる。その程度の光景なら慣れておるわ」

「ううーん、だけどなぁ……」

「今回も、必ずヴィレンツェ軍は魔導士を出してくるはずだ。その相手次第では、そなたらも危機に陥るやもしれぬ」

「だったら、なおのこと連れていけないよ」

「私ならば、その魔導士が誰で、どんな魔導を使えるか分かる。頼むから、連れて行って欲しい。私も、何かの役には立ちたい」

「うーん……分かった。ならば、艦長に許可をもらってみる。それ次第だ」


 ということで、この件は陸戦隊の隊長を兼務する艦長に委ねられることになった。


「うん、いいんじゃないか?その方が対処もしやすかろう」


 という艦長の軽い一言で、私は晴れてセシリオ殿と行動をともにすることができることになった。

 ちょうど艦長に許可をもらった際に、艦長の元に連絡が入る。


「艦長!カターリア王国より、救援要請がきました!」

「そうか、来たか!では、僚艦の駆逐艦2801から2809号艦へ連絡!10隻をもって、彼らの前進を阻む!集結地点は、ここだ!」


 そう言って、地図の上を指差した。そこは、カターリア王国とヴィレンツェ王国の国境である川。私とセシリオ殿が最初に出会ったあの谷間を超えて広がる平原の真ん中を突っ切る川だ。

 その川の向こう側に駆逐艦10隻をずらりと並べる。その前に、セシリオ殿をはじめとする陸戦隊を投入する。

 駆逐艦は川岸の向こう側で、一方、ヴィレンツェ軍のくる川岸側には、全部で5体の人型重機に、10機の哨戒機をずらりと並べた。特に人型重機は前衛に立ち、彼らの行く手を阻む。

 その脇にはずらりと柵を並べて、その隙間となる部分に5体の重機が並ぶ。あの柵は、触れると電撃が流れる仕組みだそうだ。だから、柵の間を突破するしかない。つまり、重機を突破しなければ彼らは前に進めないという。

 そして私は、セシリオ殿の人型重機の後ろの席に乗っていた。


『羨ましいなぁ、セシリオ少尉。姫様のご機嫌はどうだ?』

『大尉殿!こちらの機体の心配より、前方の心配をしてください。そろそろ、来ますよ!』


 重機の後方には、20人ほどの乗員が控えている。皆、武器を持って待ち構える。

 そんなところに、ついにヴィレンツェ軍が現れた。総勢7000人と聞いているが、確かに多数の軍勢のようだ。これほどの数の兵を動員することは、城攻めでもしない限りはあり得ない。

 明らかに、ねらいは我々地球(アース)528のこの駆逐艦群だろう。

 しかしだ、こう言ってはなんだが、たった7000人程度で、王国の宮殿をも上回る大きさの船10隻を相手にできるものだろうか?

 おそらく、何か策があるはずだ。だが、見当もつかない。どうするつもりだ?

 前衛には、長槍部隊が並んでいる。その後ろには騎馬隊。これは、突撃の構えだ。

 どうやら陸戦隊を突破して、あの駆逐艦の下をくぐり抜けてカターリア王国に侵攻しようというのだろう。だが、いくらなんでもこちら側も、そう簡単に通しはしないだろう。

 だが、彼らは陣形を整え、突撃の構えをとった。

 その時だ。彼らは、妙な動きを取る。

 皆、目を覆い始めた。私は、この動作を見てとっさに思い出す。


「まずい!くるぞ!『闇』の魔導が!」

「えっ!?闇の魔導!?」

「セシリオ殿、直ちに目を覆わねば……」


 などと話しているうちに、目の前が真っ暗になった。しまった、遅かった。

 セシリオ殿も、目の前が見えなくなり、混乱しているようだ。


「くそっ!しまった!目が見えない!」


 だが、セシリオ殿は手探りで無線を探し出し、他の重機に通信する。


「1番重機より各機!人工知能(AI)モードに移行!プログラムはタイプCだ!各自、音声入力で起動!」


 ……何を言っているのか分からないが、何かこちらも仕掛けるようだ。

 わーっという突撃してくる兵達の叫び声が聞こえる。徐々にこちらに近づいているのが分かる。その時、セシリオ殿は叫んだ。


緊急行動(エマージェンシーアクト)!タイプC、発動!」


 そう叫んだ直後、この重機が突然、動き始めた。


「な、なんじゃ!?セシリオ殿、もう目が見えるようになったのか!?」

「いいえ、見えませんよ。こいつが勝手に動いているだけです」

「勝手にって……そんな、大丈夫なのか!?」

「人工知能(AI)を使って、自律的に行動させているんです。大丈夫ですよ。こちらが操作しなくても、こいつが突撃してくる兵を自動的に認識して、止めてくれますよ」

「ど、どういうことだ!?」

「槍兵の槍を認識したら、それをバリアシステムで破壊する。騎馬隊が突撃してきたら、目の前にビーム砲を撃ち込む。槍兵達は槍が折れれば引かざるを得ないし、ここの馬は爆音に慣らされていないから、ビーム砲の着弾音に驚いて前進しなくなるはずです」

「そんな器用なこと、こいつだけでできるのか!?」

「大丈夫ですよ、武器や兵装に応じて、なるべく相手を傷つけないように最適な攻撃手段を用いるよう設定されてるんです。しかもこの人型重機は、最大で1024個の目標を捕捉できる仕組みが備わってます。5体合わせて5000人程度までは認識可能。7000人の兵が全て同時に飛びかかれるわけではないから、これだけ認識できれば、十分対処できるでしょう」


 私同様、目の前が真っ暗なはずなのに、どうしてこう冷静でいられるのか?そういえばさっきからこの重機は、ウィーン、ウィーンという音を立てて、勝手に動いている。時々、バチバチという音がするが、これはおそらく槍兵の槍をあのバリアというやつではじき返しているのだろう。

 と、突然、ヒィーンという音が鳴り出す。あれは確か、ビーム砲というやつを撃ち込む直前に出る音だ。その直後に、まるで雷のような音とともに、何かが放たれる。

 まだ目は見えない。目の前は真っ暗闇だ。だが、本当にこやつは勝手に戦ってくれているようだ。しかし、本当にたった5体で守りきれているのか?

 しばらくそういう状況が続く。いくばくか経ち、徐々に目が見え始めた。

 ようやく視界を取り戻した目の前には、信じられない光景が広がっていた。

 たくさんの、折れた槍が地面に散らばっている。騎馬隊の馬達は、いうことを聞かずその場で暴れまわっている。なんとか馬につかまってる者もいるが、中には振り落とされて、そのまま馬に踏まれて死んでしまった者もいる。

 重機の前の河原は一面、穴ぼこだらけだ。そういえば、何発もビーム砲を放っていた。多くの兵士は、この暴れまわる重機を見て退散してしまったようだ。

 それでもまだ槍兵が突撃してくる。おそらく、あれが最後の長槍部隊だ。だが、重機のバリアとかいう仕組みのおかげで、その槍が折れる。

 折れた槍を、この人型重機がその手で何本もまとめて掴み取り、槍兵から取り上げる。槍を取られた兵士達は恐れおののき、たちまち退散する。その先の折れた槍を投げ捨てて、その後ろに向かって今度はビーム砲を発射する。接近しようとする騎馬隊の馬が、その音で暴れ始める。


「ああ、やっと視界が戻ってきたな……」


 セシリオ殿も、ようやく目が見えるようになってきたらしい。そんなセシリオ殿が、私にいう。


「シェリル!魔導士がどこにいるか、分かるか!?」

「ま、待て、今探し出す!」


 私は双眼鏡を使って、河原の向こうの森の手前を見る。

 いた。両手に手枷をつけられた、「闇」の魔導士の姿が。

 彼女の名はナタリー。闇の魔導士は、魔導を発動した後に、味方が動き出すや再び闇の魔導を使われないように、すぐに手枷をかけられる。もう一度闇の魔導を使い、味方の目も封じてしまう恐れがある。このため、闇の魔導士はすぐに手を封じられる。それほどまで魔導士は、信用されてはいない。


「いた!あそこ!森の木の中の、あそこの高い木が2本、その間あたりにいる、手枷をはめられたあの娘だ!」

「こちらでも視認した!よし、一気にジャンプする!あの魔導士を助け出す!チャンスは一瞬だ!」

「わ、分かった!でも、どうすればいいのじゃ!?」

「この重機のハッチを開いた瞬間、両手を広げ、炎の魔導を使え!狙いは、そこら辺の森の木々でいい。シェリルが魔導をかけるところを注目しているうちに、私が降りてあの魔導士を救い出す!」

「分かった!いつでもいいぞ!」

「よし、行くぞ!重力子エンジン、全開!」


 急にグォォォーッという凄まじい音が鳴り響き、この重機がふわっと飛んだ。

 なんという跳躍力だ。下に居る逃げ惑う槍兵や、暴れる馬を落ち着かせようと必死の騎馬隊をも、あっという間に飛び越えてしまった。

 そして、ちょうどそのナタリーのいるあたりに着地する。

 ズシーンという音、砂埃、ナタリーとその鎖を握る指揮官は、手で必死に砂埃を払いのける。


「行くぞ、シェリル!作戦、開始!」


 その直後、ハッチが開く。私はベルトを取り、その席で立ち上がって、両手を広げた。


「この地に舞う火の精霊よ、我にその力を集めたまえ……」


 指揮官は、私の顔を知っている。私に向かって、こう叫ぶ。


「シェリル!お前、こんなところで火の魔導を使う気か!?」


 それを聞いた兵士達は、私の方を見上げた。


「いでよ!!爆炎球(エクスプロージョン)!!」


 私の前に、大きな炎の球が作られる。徐々に大きくなる爆炎球。それを見て、逃げ出したり、座り込むなど混乱する兵士達。

 だがその隙に、セシリオ殿は重機の外に飛び出した。指揮官の持っている鎖に向かって、銃を一発放つ。

 鎖が切れる。そして、ナタリーに向かって駆け寄り、彼女を腕に抱えて重機に向かって戻る。

 ちょうど重機にセシリオ殿が飛び込んだ時、私の爆炎球(エクスプロージョン)は放たれた。

 兵士のいない、森の木々の辺りに向けて放つ。着弾するや、ものすごい爆発が起きる。その直前にハッチを閉じるセシリオ殿。

 ビリビリと音がして、この重機も揺れている。私の放った爆炎球(エクスプロージョン)の衝撃波が伝わってきたからだろう。周りの兵士達は、その衝撃で次々と倒れる。木々の破片が飛び交う。


「後退する!彼女を、頼む!」


 セシリオ殿は私にナタリーを託す。ナタリーは、キョトンとした顔で私を見ている。


「あ……れ……?何、もしかして、シェリル?」

「久しぶりだな、ナタリー」

「あなた、王国を裏切ったって聞いて……」

「そうだ。私は自由になった。そしてナタリー、そなたもだ」

「えっ!?じ、自由!?私が!?」


 その直後に、再びグォォォーッという音を立てて空に舞う重機。


「な、なに!?この魔導は!?」

「大丈夫だ、心配ない。このセシリオ殿が操っている」

「ええーっ!?じゃあこの人、私の闇の魔導が効かなかった人ってこと!?」

「いいや、効いておったぞ。あの時、こやつも目が見えなかった」

「でも、この変なカラクリ、次々と兵士達と戦って……」

「目が見えなくても、戦える術があるようなのだ、こやつらは」


 そして、再びあの柵の前に戻ってきたセシリオ殿の重機。その直後、駆逐艦に無線で連絡する。


「1番重機より2810号艦へ、我々の視野を奪った魔導士を保護しました。ヴィレンツェ王国軍が我々の視野を奪うことはもはや不可能。おそらく、撤退を開始します」

「2810号艦より1番重機へ。了解した、再度、撤退勧告を行う」


 その直後に、駆逐艦から拡声器で軍勢に呼びかける。


『勝敗は決した。我々は一兵たりともこのカターリア王国に貴国の軍勢を入れることはしない。これ以上の戦闘は無意味である。直ちに撤退するよう、勧告する』


 それを聞いてか聞かずか、ぞろぞろと引き上げる7000もの大軍勢。


「ええと、この魔導士さんの名は、なんというんだ?」


 私に尋ねるセシリオ殿。私は応える。


「ナタリーだ。私の、大事な仲間だ」

「よろしく、ナタリーさん。シェリル共々、我々の駆逐艦への乗艦を、歓迎いたします」


 キョトンとした顔で聞いているナタリー。


「あ、あの、一つ聞いていいですか?」

「はい、どうぞ」

「私はあなた方の敵です。ということは、私は捕虜ってことに……」

「いえ、他の魔導士同様、あなたは民間人として『保護』することになっています。我が艦内で魔導を使わない限りは、あなたは自由に行動できます」

「あの、自由と言われても……何をすればいいのか……」

「大丈夫じゃ、ナタリー。私も自由になったが、自由はいいぞ。美味しいものを食べられて、面白いものが見られて」

「ええーっ!?なにそれ!?美味しいものって、一体何!?あの肉入りスープのこと!?」

「あんなもの比ではないぞ、ここの食事は。ともかく、あの船に行くぞ。そこにミレーユもいる」

「ええーっ!?ミレーユもいるの?」

「そうじゃ。ミレーユも自由を楽しんでおる。他にもカターリア王国から預けられた魔導士もいる。全部で3人の魔導士が、この船に乗り込んでおるんじゃ。そなたは4人目じゃ!」


 といったところで、ナタリーには何が何だかわからないであろう。この闇の魔導士は、私とセシリオ殿の話しをおろおろしながら聞いていた。

 こうして、この駆逐艦には魔導士がまた1人、増えてしまった。

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