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#21 戦いの後

 あれから、どれくらいの時間が経ったのか。


 気がつくと、私は真っ白な布団、真っ白なベッドの上に寝かされていた。

 ああ、ここは医務室だ。マリスカがここに運ばれたことがあったから、覚えている。

 腕には、点滴が刺さっている。周りには、誰もいない。

 あれ、そういえば私、どうしてこんなところにいるんだろう?記憶が曖昧だ。そういえばさっき、私は何をしたんだっけ?

 そんなことを考えていたら、奥から誰かがやってきた。

 マリスカだ。私と目が合うなり、彼女は叫ぶ。


「あ!シェリルが気づいた!ちょっと、待ってて!」


 私をみるなり、慌ててどこかへ行ってしまった。

 マリスカが医師を連れて現れる。医師は私に問いかける。


「おお、気づいたか!いやあ、運ばれた時は危なかったからな。良かった良かった」

「あの、先生……私、どうなっていたんです?」

「なんというか、えらい血糖値が下がっておってな。おまけに、ひどい脱水症状だ。なんというか、身体中のエネルギーと水分を使い果たした状態で運ばれてきた。それで今、糖分や水分を点滴で補充しているんだ」


 ああ、そうだ。思い出した。私はあの大きな駆逐艦相手に、魔導を放ったんだ。

 身体の力が、まるで入らない。腕がほとんど上げられない。自分の身体でありがなら、まるで金縛りにでもあったかのように自由が効かない。困ったものだ。

 それから私は、聴診器などで身体を調べられる。まだちょっと身体が重いが、点滴の効果があったのだろうか、身体を起こせる程度には自由がきくようになってきた。


「いや、しかし、あれほどの魔導を放つと、こうなってしまうんだな。気をつけないと、命に関わるぞ」

「いや、あれくらいと言われても、どれくらいなんじゃ?」

「最後の一撃はすごかったらしい。なにせ、あんたが乗っていた人型重機が、魔導による爆発の反動で相当飛ばされたと言っていた。その衝撃で、フレームも歪んでしまうほどの威力だったと聞いとるぞ。それに……」

「なんじゃ、まだ何かあるのか!?」

「敵の駆逐艦が、沈んでしもうた。いくらバリアの効かない後部噴出口とはいえ、生身の人間が駆逐艦を沈めたのは、この宇宙で始めてだそうだぞ」

「そ、そうなのか!?」

「だが、その代償がこの有り様だ。今はあまり、無茶はせんことだな」


 そういうと、医師は私を再びベッドに寝かせる。しばらく様子を見て、食事を運んできてくれるそうだ。


「そういえば、セシリオはどうした!?」


 私は、マリスカに尋ねる。


「ああ、あの方は今、出撃中です。ついさっきまでここにいたんですけどね。出撃命令が出てしまって……」

「なんじゃ、どこに行っとるんじゃ!?」

「あのシン帝国軍の将軍のところに向かったそうです」

「なんじゃと!?あの軍勢、まだ戦いを仕掛けてきたんか!?」

「いいえ、逆です。あちらから交渉を呼びかけてきたらしいんです。旗を振って」

「交渉を申し出た!?なにゆえじゃ!?」

「そりゃあ、自分たちの真上で、あれだけの戦闘が起きたんですよ。駆逐艦同士のぶつかり合いの下では、10万の兵なんてアリのように無力ですからね。あれほどの激しい戦闘を目の当たりにして、さすがに交渉の座につくことを決めたみたいなの。その交渉団の護衛のため、セシリオさんも出撃なさったんです」

「そうか……もうちょっと早く目を覚ませば良かったな……って、私がここに運ばれて、どれくらい経つんじゃ!?」

「5時間ほどです。もう陽が傾き始めて、夜になるところですよ」


 横にあるモニターで外の様子を見る。もう夕方だ。10万の軍勢が、整然と並んでいるのが見える。

 その軍勢の後ろの方に、大きな陣幕が見える。そこには哨戒機と、人型重機が何機かいた。あのうちの一つが、セシリオのものか。


 私は元気だと、知らせてやりたい。私はその画面に映る重機の姿を見て、そう思った。だが、まだ立ち上がれない。


「どうしたんです?ジーッとモニター画面を見て」

「いや、セシリオのやつ、私が気づいたことをまだ知らないだろうなと思うてな」

「ああ、それなら士官さんに頼めば連絡してくれますよ。早く無事を知らせてあげないと、安心して任務に集中できませんから」


 ああ、そうだな、どの道私が起きたところで、セシリオの元に行けるわけではない。こういう時、無線というやつは便利だと感じる。

 しかしだ、いつまでも動けんでは申し訳ない。せめて立ち上がって歩くことくらいは……そんな焦りから、私はベッドから足を降ろそうとする。


「ちょっとシェリル!何やってんの!?」

「いや、いつまでも寝ているわけにはいかぬじゃろが」

「ダメだよ!あなた、素手で駆逐艦を叩き落としたんでしょう!?こんなところで無理しちゃダメです!旦那様が心配しますよ!?」


 別に素手で落としたわけじゃないのだが……だが、マリスカに止められるまでもなく、身体のほとんどがまだ動かず、ベッドから出ることができない。これほどまで自由が効かないのは、初めてだ。

 これでは、以前の拘束された生活のようだ。嫌な記憶が蘇る。

 だが、とりあえず運ばれた食事を食べたあたりから、調子を取り戻し始める。上半身は起こせるようになり、夕食後は点滴も外れた。


「おい、シェリル!大丈夫か!?」


 そこに飛び込んできたのは、セシリオだった。ああ、セシリオのやつ、ようやく帰ってきた。


「おう、お務めご苦労じゃった」

「おう、じゃないよ!てっきりこのまま、目を覚さないんじゃないかと……ところで、もうちょっと点滴を打ってたほうがよかったんじゃないのか!?」

「いや、自身の口から飲食できるなら、点滴は不要だと言っていたぞ」

「そうなの?だけど、まだ意識が戻ってそんなに経ってないけど、本当に大丈夫!?」


 いつになくお節介だな。普段からこれくらい優しいといいのだが……


「そんなことより、セシリオよ。あの帝国との交渉は、どうなったのじゃ?」

「ああ、さすがに我々との交渉に応じてくれることになった。あれだけの戦闘を目の当たりにしては、時代の変化を自覚せざるを得ないだろうな。大変な目にあったけど、敵のおかげで帝国との同盟締結も早く進むだろうとのことだ」

「そうか……ならば、我らもこれでエウリアルに帰れるのか」

「そのことなんだけどさ。実は……」


 セシリオのやつ、何やら意味深なことを言い出したぞ。


「な、なんじゃ!まさか、私のせいでエウリアルを追い出されるのではあるまいな!?」

「あ、いや、追い出されるわけじゃないよ!でもまあ、シェリルのせいだというのは、あながち間違いではないけれど……」

「怖いことを言う奴じゃの。その言い草じゃと、何かあるんじゃないか?」

「うん、実は、このまま宇宙に向かうことになったんだよ」

「はあ!?宇宙に!?なぜじゃ!?」

「それは、シェリルが駆逐艦を沈めたからだよ」


 どうして私が敵の駆逐艦を沈めたら、宇宙に行くことになるのか?この不安なセシリオの言葉に、私は聞き返す。


「今ひとつ腑に落ちぬ。なんで私が駆逐艦を沈めると、宇宙に行くことになるんじゃ?」

「勲章を授与されることになったんだ」

「勲章?セシリオがか?」

「いや、シェリルが、だよ」


 それを聞いた私は、セシリオの肩を掴む。


「いやまて、私は軍属ではないぞ!?なぜ、勲章なんかもらうんじゃ!?」

「シェリルが放った力により、敵の駆逐艦を逃さずに済んだ。また、シェリルの一撃のおかげで地上への被害はほとんどなかった。これほどまで貢献した魔導士に何もしないでは、軍としても面目が立たない。だから、けじめとして民間人ながら、勲章を授与することになったんだよ」

「じゃ、じゃが、勲章というのは、貴族とか騎士が受けるものと……」

「そうそう、ついでにシェリルには、名誉士官として、中尉の階級が与えられることになった。授与後は、名誉職ながら大尉に昇進だってさ。私よりも偉くなるんだよ、シェリル」


 それを聞いて、なんだか急に恥ずかしくなってきた。戦って、勝って、讃えられる。いままでそんな経験をしたことがない。

 今までだって王国のために戦ってきた。敵の兵士を、たくさん倒した。だけど、それだけだった。ただ、明日を生き延びるためだけに、私や他の魔導士達は戦ってきた。


「……ならばまた、私は戦う羽目になるのか?」


 ボソッと呟く私に、セシリオは言う。


「いいや、これが最後の戦いだろうよ。連盟の奴らだって、生身の人間に沈められたとあっては、2度とこの星に来ようだなどとは思わないだろう」


 セシリオは、私の手を握る。その時私は、改めて「人」として生きていることを実感する。


「ところでセシリオよ。勲章授与されるのはいいんじゃが、私はどうやってそれを受け取ればいいんじゃ?」

「そりゃあ、大将閣下がシェリルの服に勲章をつけてくれるんじゃあ……」

「いや、私はまだ立てんぞ!?どうやってその勲章を受け取るのじゃ!?」

「ああ、その時は私がお姫様抱っこをして……」

「な!?お、お姫様抱っこされて、勲章を受けるじゃと!?いくらなんでも恥ずかしいわ!なんとしても、立ち上がらねば!」

「ちょ、ちょっと!冗談だって!ダメだよシェリル、まだ動いちゃ!」


 医務室のベッドの上で暴れる私とセシリオ。マリスカやロジーヌやポエルまで現れて、騒ぎは拡大する。

 おかげで私達はまとめて医師に怒られてしまうが、私はふとこの時、感じる。


 これがヴィレンツェ王国だったら、今ごろ首を斬られていた。それがつい最近まで、当然だと思って生きていた。

 それが、医師に一喝されるだけで済んだ。ああ、私は今、なんと幸せなのだろうか?


 そう思うと、むしろ授与式でセシリオにお姫様抱っこされたまま、受けるのが良いのではないんか?そんな思いが、ふと脳裏をよぎった。

(完)

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