#20 圏内艦隊戦
『両舷前進半速!敵艦艇を取り囲む!』
ゴォーッという機関音が室内に鳴り響く。地上に展開する帝国軍の真上を通過する。
重機の中にいるため、小さなモニターで見るほかはない。相手の駆逐艦も、今さらながらこちらに気づいたようで、密集し始める。
「なぜ、こんな目の前にあんなでかい船がいて、気づかなかったんじゃ!?」
「大気圏内では、駆逐艦探査用のステルス用レーダーの効きが悪いんだ。地上は山などの地形もあって、駆逐艦かどうかが識別しづらいこともある。それで見逃したのだろう」
「宇宙にも他の駆逐艦がおるんじゃろう!なんで見逃したんじゃ!?」
「3隻じゃ、レーダーに映っても気づかないことがある。おそらく、少数だったために見逃してしまったのだろう」
「レーダーばかりに頼るからじゃ!ほれ、目で見えとるじゃろが!」
最先端の機器を搭載した船でも、見逃すなどということがあるのか?私は思わず、セシリオに文句を言ってしまった。
『敵艦1隻より高エネルギー反応!発砲してきます!』
モニターを見る。3隻の内、1隻の先端から青白い光が出ているのが見える。
「ビーム、来ます!至近距離!」
その直後、その船から極太のビームの光が発せられた。我々の駆逐艦20隻めがけて撃ってくる。だが、あらかじめ発射を予知しているため、軸線上から退避していた。
地上にいる帝国軍の真上を、その太いビームが通り過ぎる。直後、まるで雷が何発も落ちたような、猛烈な音が響き渡る。
「た、大気圏内で発砲しやがった!条約違反だぞ、なんてことを……」
セシリオが叫ぶ。敵の3隻を見ると、そのまま上昇しようとしていた。こちらが混乱している内に、逃げるつもりだ。
だが、すでにその真上には別の駆逐艦がいる。3隻の上に、10隻の味方の船が立ちはだかる。
上昇する敵艦と、上で待機する味方艦とがぶつかり合う。お互いのバリアが接触し、ばちばちと音を立てる。
正面からは、敵艦1隻当たり3隻の味方艦が立ち塞がる。正面に1隻、真横にも1隻当たり左右1隻づつ。全部で19隻の船が、この3隻の敵艦の後ろ以外はとり囲んだ。
そして、その後ろに2810号艦が回り込む。
その時だ。無線で連絡が入った。
「2810号艦より各機へ!哨戒機、および重機隊2機は直ちに発進!味方が抑えている敵駆逐艦の後方を撃て!」
「他の艦の重機隊は!?」
「敵艦を抑えるため、バリアを展開中で発進できない!発進可能なのは、この艦だけだ!」
「了解!直ちに発進する!」
上部のハッチが開く。セシリオの1番重機、ルーカ軍曹殿の6番重機が立ち上がる。
「ルーカ軍曹!これより出撃し、敵の真後ろを撃つぞ!」
2機の人型重機は出撃する。小さなモニターではなく、実際の戦場が目に飛び込んできた。目の前には、ぐるりと敵艦を取り囲む味方の船がいて、駆逐艦2810号艦は敵艦のすぐ後ろに回り込んでいる。そのため目の前には、敵艦の後方が見える。
それぞれの艦には、4つの噴出口がある。これを破壊してしまえば、艦は動けなくなる。
「敵の噴出口を狙え!最大出力で撃つ!私は右を、ルーカ軍曹は左の艦を撃て!」
『了解』
発進した2機の重機は、敵の後ろめがけてゆっくり進む。もっと早く飛べないものかと思うが、元々空を飛ぶことを想定して作られていないため、ゆっくりしか進めない。
だが、目の前にようやく敵の4つの噴出口を捉えた。セシリオが叫ぶ。
「最大出力で撃つ!充填開始!」
キィーンという音が響く。いつもより充填時間が長く、なかなか発射しない。
しばらくその状態が続いたのち、右腕に付けられたあの筒から、いつもより大きいビームが発せられた。
それは、敵の後ろに当たる。大爆発を起こして、敵の船が落ち始める。
ルーカ軍曹殿の方もうまくいったようだ。あちらの船も落っこちていく。
残るは真ん中のただ1隻。ところがここで、セシリオが血相を変えて無線に向かって叫ぶ。
「おい!哨戒機はどうした!?」
無線から応答がある。
『哨戒機、機関不調で発進できず!2機でなんとかせよ!』
「なんとかって……今ので全エネルギーを撃ち尽くした!1番も6番も撃てない!」
『なんだと!?』
緊迫したやりとりが続く。どうやら真ん中の1隻を仕留めるはずの哨戒機が出てきていないようだ。
そろそろ互いのバリアが限界を迎えつつあるようで、ジリジリと残りの1隻が動き始める。2隻は真下に広がる平原や森の上に落ちていった。
それらの艦にいる重機や哨戒機の発進を要請するセシリオ。だが、どの艦も発進準備が整っていないという。なんということか。
あと1隻。たった1隻を、20隻もの駆逐艦がいながら止められないというのか?
私は、セシリオに叫ぶ。
「セシリオ!この重機をあの残り1隻の後ろに向かわせるのじゃ!」
「いや、そんなことしたって、もうビームは撃てない!」
「私の魔導を、放つ!」
「えっ!?魔導!?」
「バリアがなければ、私の魔導でもなんとかなるじゃろう!はようせい!」
「りょ、了解!」
残り1隻の敵艦の後ろに回り込む。目一杯エンジンをふかしているようで、青白い光が噴出口から見える。
ハッチを開ける。噴出口からの猛烈な風が吹き付ける。だが、私はなんとか立ち上がり、両手を広げる。
「この地に舞う火の精霊よ、我にその力を集めたまえ……いでよ!!爆炎球!!」
術式を唱える。私の前に、巨大な火の球が出る。その風に逆らいつつも前に進む私の魔導の炎。
ハッチを閉める。4つの噴出口のど真ん中辺りで、魔導が炸裂する。
ものすごい爆発とともに、艦が揺れる。やったか!?
だが、当たったところは凹みはしたものの、敵艦は依然健在なようだ。私の魔導は、やはり効かないか!?
すると、セシリオが叫ぶ。
「あと2発!敵艦の左右の噴出口をめがけて撃て!」
「噴出口を!?じゃが、噴出口は4つ、私があと撃てるのは2発!どうしたって足らんぞ!」
「4つのノズルは、2つづつ対になっていて、それぞれ2つの機関に繋がっている!右下と左下を撃てば、2つの機関が停止する!」
そうか、そう言われてみれば、駆逐艦には機関は2つしかないんだった。再びハッチを開けて、私は術式を唱える。
「……いでよ!!爆炎球!!」
まず、右下の方から狙う。ハッチを閉めたあたりで、大爆発が起きる。敵艦は大きく揺れる。
煙が晴れると、右下と左上の噴出口から青白い光が消えていた。どうやら、1つは止められたらしい。セシリオが叫ぶ。
「最後の一発!今度は左下だ!」
再びハッチを開けて、私は術式を唱えた。渾身の力を振り絞って放った一撃。放った瞬間、私は立つ力もなくなるほど力を使い尽くす。そんな私を、ロジーヌが受け止めた。
ハッチを閉じた途端、大爆発が起きた。その直後、敵艦は揺れる、というより、落ち始める。
巨大な船体が、ゆっくりと落ちていくのが見える。それは、真下の森の中に叩きつけるように落っこちた。
「やったぞ!シェリル!お前の魔導が勝ったぞ!」
セシリオが叫ぶ。私は微笑み返すが、力を使い果たし、そのままロジーヌに抱かれたまま、気を失ってしまった。




