表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/21

#2 自由と美味

 その化け物の胴体が大きく開いており、その中に人が立っているのが見えた。どうやら、私に話しかけているのは、その中にいる人物だ。


「あの、お嬢さん、お怪我はありませんか?何かものすごいのが飛んできたので、ついこちらの防御兵器を使ってしまいましたが……大丈夫です!?」


 私に向かって、大丈夫などといってくる人物に初めて出会った。化け物を操るくせに低姿勢なこの奇妙な男に、私は気を取り直し、大声で尋ねる。


「そなたは何者か!?そして、この化け物は一体何か!?」


 するとその男は応える。


「ああ、これは人型重機と言って、二本足で歩く特殊車両です。それに兵器をつけて、陸戦用兵器に仕立て上げた代物ですよ」

「ジュウキ?なんじゃそれは?」

「例えば、土を掘ったり、岩を崩したり、そういう用途に使うための機械です。私は、その人型重機を操る陸戦部隊の1人、セシリオ少尉と言います」

「リクセンブタイ?……何を言っているのか、まるで理解できない。それに、セシリオ殿と言ったか、そなた、なぜ私を殺そうとしないのか!?」

「そそそそそんなことしませんよ!人殺しなんてそんな恐ろしいこと、できるわけがないじゃないですか!?」

「そうか?だが先ほど、私はそなたを殺そうとした。いや、私は何度も多数の兵士を殺してきた。そんなやつを目の前にしてなぜ殺そうとしないのか、その方が不自然だろう」

「いや、むやみに命を奪う方が不自然ですよ。それよりもさっきの攻撃、もしかしてあれ、あなたの仕業だったんですか?」

「そうじゃ」

「でも、あの爆発は一体なんなのです?ここは文化レベル2の、剣と弓やと槍くらいしかないところだと聞いていたのに、あんな爆炎兵器が使えるだなんてまったく聞いてませんよ」

「バクエン兵器?あれは兵器ではない。魔導だ」

「魔導?なんですか、それは?」

「周りにいる見えない精霊達を呼び出して、その力を一点に集め、強力な力を呼び出す術式。それが魔導と呼ばれるものだ」

「ええーっ!?まさかあの力、生身の身体で出してたんですか!?」


 魔導士と気づかれてしまった。これは間違いなく殺される。私はそう確信した。

 だが、その男はまるで予想外の反応を示す。なんと、そのジュウキとやらから降りてきて私の手を握り、嬉しそうな顔でこう言ったのだ。


「すごいじゃないですか!生身の人間で、そんな力を使える人がいるなんて!私は初めて見ました!」


 私は、驚くというより呆れた。無数の人間を死に至らしめる魔導を放たれて喜ぶ人間など、初めて見た。

 いや、まてよ?この男もそういえば魔導を使っていた。あの青白い光の筋、術式呪文も唱えず発動する魔導。こやつの方が、とんでもない魔導士だ。


「いや、そなたも魔導士ではないか。術式も唱えずに、あの崖の岩を崩すだけの力。おまけのこの巨大なカラクリまで扱える。私などより、はるかに進んだ魔導士ではないのか?」

「魔導?いや、あれは単なるビーム砲ですよ。別に誰だって使おうと思えば使える武器にすぎません」

「誰でも使える武器じゃと!?そんなバカな!そなた、私の魔導を弾き飛ばしたではないか!あれも、誰でもできると申すか!?」

「ああ、あれはバリアシステムと言って、衝撃に対し反対の力を発生させる対衝撃粒子と呼ばれるものを散布し、力を跳ね返しただけのことです。別に、私でなくとも使える仕組みですよ」


 言葉はわかるのだが、意味がわからない。何を言っているのだ、この男は。


「と、ともかくだ!私のような魔導士を前にして、なぜそなたは殺そうとしない!?」

「なんで殺さなきゃいけないんですか!あなた、なんだってそんなに……」


 セシリオ殿は、その重機と申すカラクリをしゃがませて降りてきた。私の前に立ち、しゃがみこんでいる私の首元を見て驚く。


「ちょ、ちょっと!なんですか、この首輪と鎖は!?」

「見ての通りのものだ。私は魔導士だからな、逃げられないように繋がれていたのだが、これを握っていた指揮官が逃げてしまった」

「いや、なんであなたが、わざわざこんなもので繋がれなきゃいけないんですか!?」

「それは、あれだけの力を出す者ゆえ、それを使って逃げ出したり、反乱したりせぬようにだな……」

「そんなのおかしいでしょう!だってあなた、魔導とかいうのが使えるだけで、あなたは人間なんでしょう?」

「人間……か。まあ、人間には違いないが」

「だったら、家畜のように繋がれているのはおかしいじゃないですか!」


 魔導士に向かって、鎖で繋がれているのがおかしいと言い出したのは、生まれてこのかた、この男が初めてである。


「そなたのところでは、魔導士は拘束され、国家で管理されておらぬのか?」

「我々のところに魔導士という人はいないですが、この宇宙には魔法が使える人物はいます。でも、彼らが拘束されて管理されているなんて話は、聞いたことはありません」

「そうか?私などは魔導を使う時以外は、その力を封じるために、手を拘束されておるほどだ」

「なおのことおかしいじゃないですか!なんだって、そんなことをするんです!?」

「いや……なぜだと言われても……うまく応えられないな。そういうものだと言われて、今まで暮らしてきた」

「だけど人間なら、拘束されてないのが普通なんですよ。悪いことをしたのならともかく、そうでない人間は自由であるべき、それがこの宇宙の常識です!とにかく、その首輪を取らないといけませんね」

「そうはいっても、鍵がなければ取れぬぞ」

「うーん、困ったな。ここじゃ道具がなさすぎる……」


 しばらく考え込むその男、やがて、私に言った。


「私の艦に行きません?」

「カン?なんじゃそれは?」

「真上に浮かんでいる、あれですよ。駆逐艦2810号艦という空飛ぶ船ですよ」

「なに!?あれは船なのか!?」

「そうですよ。あそこなら、この首輪を外してあげられる道具があるはずです。どうです?行きませんか?」


 私は考えた。上手いこと言って、私を取り込むつもりではあるまいか?

 だが、こやつの要求を拒絶して、いまから王都に向けて走り出したところで、味方の兵は皆、いなくなってしまった。このままどこかで、のたれ死ぬだけだろう。

 結局、私には誰かに管理される人生しかない。主人(あるじ)が変わるだけだ。


「分かった。私も置いていかれて、行くところもない。そなたの船とやらに行くことにする」

「そうですか。じゃあ、この重機に乗ってください」


 乗るといっても、どこに乗るというのだ?だが、よく見ると椅子が前後に2つ並んでいる。


「後ろの席に座って下さい。すぐに発進しますよ」


 というので、私は言われるがままに椅子に座る。するとその男は、なにやら大声で呟く。


「1番重機より2810号艦!地上にて現地人を1人保護!怪我はないようですが、身体を拘束されていて、不自由な状態にされております!現地人の乗艦許可、および救出を願います!」


 誰に向かって喋ってるんだろう?ここには私とこのセシリオ殿以外には誰もおらぬが……すると、どこからか別の声が聞こえてくる。


「2810号艦より1番重機。現地人の乗艦許可、了承した。2つの軍勢の撤退も確認、現時刻をもって作戦終了、直ちに帰投せよ」

「了解!1番重機、直ちに帰投する!」


 セシリオ殿がそういうと、この重機と申すカラクリはヒュィーンという音を出しながら浮かび出す。

 私もいろいろな魔導を知っているが、空を飛ぶ術式を持つという者は知らない。こんな魔導をつかえるとは一体何者だ、この男。

 いや、もう一つ不思議なことがある。

 魔導士とは、女しかなれない。男の魔導士など、聞いたことがない。しかしこやつ、男のくせにとんでもない魔導使いだ。さっきから青白い光の筋で岩をも砕く破壊魔導、大きな重機と申すこのカラクリを操り、しかも空にまで浮かべる未知の魔導。私も知らない魔導を、次々に術式も唱えずに発動する。

 どんどん地面から離れていく。そしてあの横倒しの塔、いや、船のてっぺんに到達する。

 そのてっぺんの一部が開く。この重機はその開いた扉に向かって、ゆっくりと降りていく。

 すると中から、奇妙なものがにょきっと出てくる。まるで腕のようだが、それにしても大きな腕だ。この船は、化け物でも飼っているのか?この重機が近づくと、その腕はこの重機を突然掴んだ。そして、中へと引き込む。

 もうなにが起こっているのか分からない。とにかく私はなすがままに、この重機の椅子に座って見ているしかなかった。

 中に入ると、その腕は重機を離す。この人型の重機はその場でしゃがみこむと、天井の扉が閉じていく。そして、辺りは真っ暗になった。

 が、すぐにパッと明るくなり、扉の向こうから数人の男達が現れる。

 セシリオ殿は、その男達に向かって叫ぶ。


「整備長!」


 一人の男が、セシリオ殿のところにやってくる。この重機の前側がパカッと開き、彼は降りてその男のところに向かう。


「なんだ、少尉。どうした!?」

「地上で現地人を保護したんですが、首輪に鎖が付いてて……」

「なんだってぇ!?ちょっと見せてみろ!」


 セシリオ殿は私に手を差し出した。私はその手を握り、この重機を降りる。


「なんだぁ!?首に鎖が繋がれてるぞ!?奴隷なのか!?」

「いや、魔導士だって言ってましたが」

「魔導士?なんだ魔導士って?でも名前からすると、とても強いやつじゃないのか?それがなんで鎖で繋がれるんだ!?」

「さあ……そこまでは私にも……」


 ともかく、その整備長と申す男は、私の首輪をじっくりと見て言う。


「うーん、そうだな、この鍵の部分をぶっ壊しゃあ、すぐに外れそうだ」

「そうですか。じゃあお願いします!」

「おい!ルーカ軍曹!そこのでかいペンチを取ってくれ!」


 その男は私の首輪を握り、私に言った。


「嬢ちゃん!ちいとばかし嫌な音がするが、すぐに終わらせるから我慢してくれよ!じゃあ、いくぜ!」


 男の言うとおり、首元でギリギリと耳障りな音がする。が、バキーンという音と共に、首輪が外れた。

 手枷も首輪もない。私は初めて、身軽になった。


「よーし、取れた!」

「ありがとうございます!ああ、良かった!」

「じゃあ少尉、この嬢ちゃんのことは任せた。俺らは、機体の整備に回るからよ」

「はい、お願いします」


 そう言って、男達はさっきまで私も乗っていた重機の方へと向かう。そして、なにやらその重機をいじり始めた。


「ところで、あのお嬢さん。名前はなんと呼べばいいのですか?」

「ああ、私はシェリル。ヴィレンツェ王国の魔導士の1人だ」

「そうですか。では、シェリルさん。こんな殺風景な格納庫にいるのもなんですから、艦内に入りましょう」

「あ、ああ……」


 不思議なものだ。私を自由にして喜んでいる。魔導士相手にそんなやつは初めて出会った。私はセシリオ殿に連れられて、扉から中に入る。

 それにしてもここは船の中で、窓一つないのに明るい、不思議な場所だ。天井には、ところどころ光るものが付いている。火もないのに、どうしてこんなに明るいのか?


「ところでシェリルさん。どこか帰る場所はありますか?」

「なぜ、そんなことを聞くのか?」

「いえ、帰りたいところがあるのであれば、我々はお送りします」

「帰る場所はあるにはあるが……そこでまた手や首を鎖でつながれるだけだ」

「それなんですけど、どうして手や首を鎖で拘束されなきゃいけないんです?」

「私は両手を広げると、先ほどのように強力な魔導を使うことができる。王国としては、魔導士に逃げられたり反乱を起こされては困るから、手を広げられないように、普段は手を鎖で封じているのだ。ただ、戦場では魔導を使うために、その手首の封印を解かれる。そのときは、首輪で逃げられないように繋がれるのだ」

「なぜ、そんな酷いことを……」

「私達は魔導士。いわば、戦場での道具。そう教えられて育ってきた」

「いや、それ以前に人間でしょう?いくらすごい力があったって、人として美味しいものを食べたり、楽しいことを見つけたりしたいじゃないですか!違います!?」

「ええと、そう言われても、私は魔導士であると分かった時から自由がなかったからな……でも、私も美味しいものを食べて、楽しいことをしたい。だが、そういうものを知らずに暮らしてきた」

「じゃあ、たった今から生き方を変えましょう!それでいいですか?」


 いいも何も、何をすればいいんだ?私は頷いたが、特にそれ以上は応えなかった。


「ところでシェリルさん、お腹空いてないですか?」

「ああ、空いている。いつもお腹は空いている。私達は逃げられないように、あまりたくさん食べさせてもらえないんだ」

「分かりました、じゃあ、食堂に行きましょう」


 そういって、セシリオ殿は私を連れて、両開きの扉の前に立つ。

 その扉は勝手に開き、中に乗り込むと勝手に閉まる。しばらくその中にいると、扉が開いた。

 さっきとはまるで違う場所についた。どこだ、ここは?さっきはただ両側が壁と扉があるだけの場所だったのに、今は透明な壁が見える。

 その透明な壁の向こうには、腕だけの化け物のような生き物がせっせとなにかをしている。どうやら、服をたたんでいるようだ。実に手際がいい化け物。その奥には丸い窓のついた箱のようなものがずらりと並んでいる。


「なんだあの生き物は!?見たことがないぞ!」

「ああ、ここは自動洗濯室です。ああやって、洗った服をたたむ機械なんですよ」


 あれをカラクリだと申しているらしい。そういえば、さっきからここはカラクリだらけ。こやつの乗っていた重機というあれも、カラクリだった。

 しかし、こんな器用なカラクリを作り出せる国など、私は知らない。どこの国からきた連中だ?

 なによりも、私の力を何の苦もなくはじき返したことだ。単体の力では王国最強と言われた、この私の「爆炎」を、あっさりとはねのけてしまった。

 だから余裕があるのだろう。私を拘束し、従わせようというつもりがないらしい。

 その私を、セシリオ殿は食堂という場所に連れてきてくれる。その入り口には、大きな看板のようなものが立っている。

 綺麗な絵が描かれている。食べ物のようだが、見たことのない食べ物がならんでいる。セシリオ殿は、その看板に触れて、私に尋ねる。


「シェリルさんは、何が食べたいですか?」

「何がと言われても、私は料理の名前など、ほとんど知らぬ。パンとスープ、その程度だ」

「あらら……そんな酷い食生活を送っていたんですか。じゃあ、私のお勧めを選んでおきますね」


 といって、その看板を手を右に動かす。驚いたことに、看板の料理の絵が手に合わせて動く。そして、全く別の料理の絵が現れた。

 それを2、3度繰り返して、なにかの絵をポンと手で触れる。さらにまた手を動かして、別の絵を出し、手でポンと触れている。


「さ、注文は終わりました。あとは、あそこで料理を受け取るだけですよ。行きましょうか」


 そう言って、食堂に入る。トレイと申す板を持ち、そこで料理が出るのを待つ。

 奥を覗くと、さっき見たようなあの腕の化け物が、料理を作っている。本当にここは、あのようなカラクリが多い。でも、どうやって動かしているのか?ここはもしかして、魔導士だらけなのだろうか。

 そしてしばらくすると、私の前に不思議な食べ物が出てきた。

 これがパンでできていることは分かる。だが、その間に挟まっているものは肉?だが、見たことのない肉だ。何だろうか、これは?


「ああ、これ、ホットドッグと言うんですよ。手軽に食べられて、とても美味しいですよ」


 その横には、細く切って油で揚げたというイモがある。これは、フライドポテトというそうだ。

 なんだ、要するにパンとイモではないか。なんと粗末な。そう思いながら、私はフライドポテトとかいうやつをひとつつまんで食べる。

 その瞬間、全身が痺れた。

 これは、本当にイモなのか!?さくっとした食感、適度な塩加減、これほどまでにイモとは美味しくなれるものなのか?

 そして、ホットドッグの方も食べてみる。中に挟まれたソーセージという肉がとても美味い。表面は張りのある皮のようなもので覆われているが、それを食いちぎると中は柔らかい肉が入っている。美味い、例えようのない美味だ。

 そもそも、それを挟んだパンも柔らかくて食べやすい。そして、上に乗ったケチャップとマスタードというやつが、肉の脂身のくどさを絶妙に打ち消してくれる。

 ああ、何ということだ。私は、この世にこんな美味いものがあると知らずに生きてきたのか。魔導士の住む塀の内側では、たまに出る豚肉の入ったスープがご馳走だった。が、あんなものはこのホットドッグとフライドポテトには敵わない。


「い、いいのか、こんな贅沢なものを私が食べても!?」

「へ?贅沢?これが?別に、ここじゃ普通の食べ物ですよ、こんなのは」

「なんじゃと……これが普通……?」


 驚いた。私が食べているこれらの食べ物は、ここではごく普通の食べ物だという。何ということだ。あの魔導士の住処は、どれだけ不遇だったというのか?


「ところで、さっきから気になっておるのだが、そなたらはどこの国から来たのじゃ!?空に浮かぶ船や、料理や洗濯などをするカラクリを操る国など、聞いたことがないぞ!それにこの料理!我らの王国をはるかに上回る強大で豊かな国ではないか!」


 すると、セシリオ殿は応える。


「ああ、ええと、なんていうんですかね。我々は、この地上のものではないんですよ」

「なんじゃと!?ではおぬしらは、天にある神の国から来たと申すか!?」

「うーん、まあ、天といえばそうだけど、神ではないですよ。私も、あなたと同じ人間。ただ、我々は空に輝く星の一つからやって来た、とでも言えばいいでしょうか」


 何とこやつら、星の国から来たと言う。


「もっとも、そういうあなた方だって星の上で暮らしているんですよ。空に光り輝く無数の星には、その周りを回る惑星を伴っているものがあり、その中に稀に人間が住む星があるんです。現在、800個以上が確認されてます。あなた方も、その星の一つで暮らしてるんですよ」

「ということは、ここも星の国と申すか!?」

「そうです。そして我々は、その星々を行き来することができる船を持っているんです。だから、ここにたどり着いた。そういうことですよ」


 なんだか頭がくらくらしてきた。この男が言っていることは、すでに私の理解を超えている。


「そなたのいうことは、どうにも合点がいかぬ……ここも星で、そなたらも星の国に住んでいる。ではなぜ、そなたらだけがその星の間を行き来できる船を持っておるのじゃ!?」

「あー……いや、我々だけじゃないですよ。そうですねぇ……食事が終わったら、もっと分かりやすく説明できるところに行きましょうか」


 というので、私は再び食事をする。うーん、なんということだ。ここも星の国だと?変なことを言う。それにしても、この料理は美味い。

 こんな美味い料理が普通の食べ物。それだけこやつらの星の国というのが豊かな証拠なのだろう。そういえばこやつの乗っていた、たった一つのあの重機と申すカラクリで、ヴィレンツェ軍もカターリア軍も恐れおののいいて逃げてしまった。

 しかし、ここは不思議なところだ。少なくとも、私は自由だ。皆、あれだけの魔導を使えると知っていても、拘束もしなければ閉じ込めもしない。美味しい料理も、惜しげも無く出してくれる。


「なあ、なぜそなたらは、私を捕虜にしないのか?」

「へ?なぜです?」

「私はそなたに魔導を使って攻撃した。いわば、敵だ。それに、私はいつどこでも魔導を使える。それを使って逃げ出さないと考えないのか?」

「では、お聞きしますが、捕虜として拘束されたいですか?」

「いや……拘束はもう、たくさんだ」

「ならばいいじゃありませんか。私達も別に、あなたを捕虜にしようとか、不自由にしてやろうなんて思ってません」

「だが、私は魔導士だぞ?敵だぞ!?本当にいいのか?私がいうのもなんだが、不自然ではないか!?」

「ああ、もちろんここでは魔導は使わないで下さいね。その代わり、艦内では自由に行動してもらっていいですし、こうやってちゃんと食事を出してあげますから。その方が我々には自然なんですよ。もちろん、地上に行きたい場所があるのなら、我々はお送りいたしますよ」

「うむ……じゃが、地上に降ろされたところで、また私は捕まって拘束されて、戦争の道具にされるだけじゃ」

「じゃあ、自由に生活できる場所が見つかるまで、ここで暮らすというのでもいいですよ。少なくとも、食べるものには困りませんし。ただ……」

「なんじゃ?」

「ひとつだけ、やっていただきたいことがあってですね」

「なんじゃ!やはり、私を戦争の道具にするつもりか!?」

「違いますよ!そんなことは我々の目的にはないですから!我々は、この星のことをよく知りません。だから、あなたの知る限りのことを教えて欲しいのです」

「は?たったそれだけでいいのか?」

「たったそれだけのことが、我々にとっては重要なんですよ」


 聞けば、こやつらは我々のこの星と同盟を結びたいらしい。そのために、国王がどこにいるか?どんな国があるのか?などを知りたいというのだ。


「妙な話だ。私の火の魔導をも跳ね返せるほどの強者達が、どうして我らのような弱小な国と同盟を結ぶというのだ?」

「我々には、たくさんの仲間が必要なんです。我々が持っている武器や文化だって、いずれはこの星の人達に供与されます」

「にしては、先ほど2つの王国の軍勢を脅して、追い払っておったではないか!?」

「同じ星の上の国同士が争っている状態では、同盟締結どころじゃありません。最終的には、この星すべての国と同盟し、一つの国家としてまとまっていただく。その過程で、ややお節介ですが、軍規に則り敢えて軍事行動を止めてもらったんです」

「左様か。それにしても、それほどまでに我らをまとめさせるのは、どういうことなのか?」

「簡単なことです。我々には、強大な敵がいるんです。だから、あなた方を味方にして、その敵よりも有利になる必要がある」

「なんだと!?つまり、星の世界にはもっと強大な敵がいるというのか?」

「そうです。あとでお話ししますが、我々は連合という勢力に属していて、敵対する連盟という勢力とかれこれ180年ほど争っているんですよ」

「要するに、我々もその連合とか申す勢力に入って、共に戦えというのか」

「その通りです」

「ということは、やはり私は戦争の道具にされてしまうのではないか?」

「大丈夫ですよ。こういってはなんですが、あなたの持つ魔導で対抗できる相手ではありません。もっと強大な敵なんですから」


 私の魔導など、物の役にも立たないと申したこの男。ちょっとムッとしたが、確かにこやつは私の魔導をいとも簡単に跳ね返した。ということは、こやつらは本当にもっと強力な武器を持っているのだろう。

 そのあたりの話は、会議室というところに行って詳しく教えてくれた。映像という動く絵を使い、私の今住んでいる地上が丸い形をした青い大地であること、あの空を飛ぶ船の先端に付けられた強力な武器の存在、そして連盟との苛烈な戦いを見せてくれた。

 それにしても、この映像というものは本当に面白い。百聞は一見にしかず、言葉では伝わらないものも、テレビと申すものを使えば、すぐにどんなものかが分かる。

 ところで、映像には、単に星や強大な敵を説明するものだけではないという。

 こやつらの星の出来事や風景、食べ物、服、そして運動など、ありとあらゆることをこのテレビは教えてくれる。

 そのあと、私は部屋に連れて行ってもらう。私だけの部屋。今までは2人1組で暮らしていたが、ここは私だけが使ってもいい部屋だという。


「で、ここにもテレビがあってですね。さっきと同様、いろいろな番組も見られるんです。それから、ここからここまでのボタンを押すと、外の風景も見られるんですよ」


 と言って、そのテレビを操作するためのリモコンと申すものを渡してくれた。

 私は、いろいろな番組を観た。おそらく、私の王国にすらない食べ物や服、そしてスポーツと呼ばれる運動競技など、見たことのない文化がそこにはあった。


 私の魔導が効かない相手、彼らは私に自由だけでなく、想像を超えた文化の存在を見せつけてきた。私はそのあまりに進んだ文化に、いつのまにか夢中になっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ