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#19 遭遇

 今、セシリオら陸戦隊と、私とロジーヌ、マリスカ、ポエルの全部で4人の魔導士が、駆逐艦2810号艦に乗り隣の大陸へ向かっている。

 そこには巨大な帝国がある。シン帝国と呼ばれる国だが、途方もなく大きく、広い国だ。

 その大陸のほぼ全土が、この帝国によって支配されているという。動員可能な兵力は100万。今も、10万人もの兵を動員しているという。

 あまりに大きな帝国ゆえに、交渉のテーブルについてくれないのだという。すでにいくつかの領主とは接触し、同盟に向け動いているものの、肝心の皇帝が地球(アース)527の交渉団の話を聞こうとしないのだ。挙げ句の果てに、10万もの兵を動員してきた。

 強大な国というのは、どうして自身が優位にならなければ交渉ごとをしようと考えないのか……ヴィレンツェ王国も宇宙での実情を知った途端、こんなことをしている場合ではないと悟ったというのに。強大な国ほど、人の話を聞かない。困ったものだ。

 駆逐艦2810号艦と共に大陸へ向かうのは、2801から2809号艦の9隻。2810号艦を指揮艦艇とする、10隻の小さな艦隊だ。

 この10隻は、人型重機を6機保有するという、地球(アース)527遠征艦隊の中でも珍しい部隊ゆえに、今回の動員命令がかかったのである。しかもこの艦には、魔導士もついてくる。

 私はセシリオのいつものお供だ。しかし、何ゆえ他の3人はついてきたのか?


「おい、毒の魔導士よ、そなたはどうしてついてきた?」

「毒じゃないわよ、毒じゃ!私はあれよ、資源探査をやるんだってさ」

「ああ、そうか。それで、恋人のディーノ中尉と共に、この船に乗り込んだというわけか」

「こ、恋人じゃないから!私達、そういう関係じゃないからね!」


 この毒の魔導士はからかい甲斐があるな。あれだけ男嫌いを自称していたくせに、近頃は司令部でも、ディーノ殿と食堂などで一緒にご飯を食べているところをよく見る。

 ところで、ロジーヌも載ってるはずだが、姿が見当たらない。どこへ行っているんだ?


「ああ、やっとおわったぜ」


 と思ったら、汗だくになりながら食堂に入ってくるロジーヌ。


「何をしてたんじゃ?」

「ああ、整備だよ。人型重機の」

「整備!?そなたがか?」

「ああ、『鋼』の魔導を使って、フレームの歪みを調整するんだ。機械にやらせてもいいけどよ、やっぱり人の勘には敵わねえって、ダヴィードがいうものだからさ。最近は、俺が手伝ってやってるんだよ」


 なんということだ。整備長め、魔導士に整備をやらせていたのか。だからこいつもついてきたんだな。


「鋼の魔導がこんなところで役に立つとは思わなかったぜ。俺とダヴィードのコンビにかかりゃあ、整備なんてあっという間さ」

「しかし、まさか夫婦そろって整備しとるとはな……」

「ミレーユもショーの仕事してるって聞いたらよ、俺も何かやりてえって思ってさ。それでダヴィードに誘われて整備科に入ったんだ。あ、そういやあ、シビルも仕事してるってさ」

「は?シビルが?何をしているんじゃ?」

「ミレーユと一緒にショーに出てるらしい。アニメに出てくる魔導士のコスプレして出てるんだと。なんでも、そのアニメに(いかづち)の魔導士ってのがいて、そのキャラが身につけている黒い服を着てショーをやってるらしいぞ」

「なんじゃそら。まさにシビルそのものの魔導士じゃないか」

「そりゃ本物の雷の魔導士が、魔導士の格好をして現れるから、これが大人気らしくてさ!」


 魔導士が魔導士の格好……何だその奇妙な言い回しは?聞いていてクラクラしてくる。


「じゃが、まさかそこで本当に雷の魔導を使っとるわけじゃないだろうな?」

「えっ!?使ってるらしいぜ、普通に」

「なんじゃと!?おい!観客に落ちたらどうするんだ!」

「上から避雷針をぶら下げて、それに向かって魔導を放ってるって聞いたぞ。そりゃあもう大迫力だって、すごい人気らしい。まあ、シビルのやつも狙いの場所に雷を落とせる魔導士だ。ヘマはしねえ、大丈夫だろう」


 なんとまあ、本物の魔導士がアニメの魔導士の格好をして、本物の雷の魔導を放つとは……頭が痛くなってきた。これも、シビルの旦那の影響か?


「……で、マリスカはなんでついてきたんじゃ?」

「だって、1週間は出かけるって聞いたから……ウバルドと会えないのは寂しいなって思って、ついてきたんです」

「なんじゃ、相変わらず旦那にべったりだのう」

「でもでも!私だって時々、仕事するんですよ!これでも、社会に出ているんだから!」

「は?マリスカが仕事!?」

「うん、実は時々、造園業者の仕事をやってるんです」

「造園業?なんじゃそら?」

「ほら、公園やショッピングモール、最近は戸建ての家があって、そこに木が植えてあるじゃないですか。あれを手入れするのが造園業者なんです」

「でも、どうしてマリスカが造園業なのじゃ?」

「『木』の魔導を使ってね、いろいろとやってるの」

「いろいろって、なんじゃ」

「例えば、木の見栄えを良くしたいから、枝をもっと広げて欲しいとか、まっすぐ生えている木を少し曲げて、目隠しに使いたいとか、そういう人がいるんですよ。そういうのって今まで何ヶ月もかけて切ったりゆっくり曲げたり、ちょっとづつ手入れしてやってたらしいんですけど、私の魔導を使えばすぐにできちゃうから、重宝してるんですって」

「はあ……そなたの魔導がそんなところで役に立つとはな……」

「ウバルドもね、褒めてくれるんですよ。よくやったって。私、嬉しくなっちゃって」


 どちらかというと引っ込み思案なマリスカが、まさか外で仕事をするようになったとは驚きだ。私もうかうかしてはおれんな。

 なんて話をしていると、艦内放送が入る。


『まもなく、大陸のシン帝国上空に到達する。すでに軍勢が展開中、その数、およそ10万』


 本当に10万人もの兵力を集結してきたらしい。ヴィレンツェ王国の動員兵力をはるかに上回る数の軍勢が現れたようだ。さすがは超大国。


「まずは現地にいる駆逐艦隊10隻と合流し、この軍勢に向けて一斉に威嚇砲撃をかける。必要があれば、航空隊による威嚇射撃も加える。軍勢の前進が止まったところで、敵陣中央に陸戦隊を投入。交渉団の受け入れを求める。陸戦隊、および哨戒機、発進準備!」


 今回は、一面平原の戦場だ。私とロジーヌが一緒に出動することになった。

 相手は、大きな弓を持っているらしい。また、攻城兵器である投石機などもあるという。ロジーヌならば、これらにつけられた(はがね)を操作して捻じ曲げることができるかもしれない。バリアで防いでしまえばどうということはないが、できればそれらの兵器をうまく破壊できれば、彼らの戦意を挫き、ことがうまく進むかもしれない。ということで、ロジーヌも急遽出ることになった。

 だが、2人乗りの重機に3人乗り込む。だが椅子が足りないため、私がロジーヌの膝の上に乗ることになった。


「こうしてみると、シェリルは小さくて可愛いな」

「な、なんじゃ急に!前からわかっとることではないか!」

「いやあ、セシリオさんの気持ちがよくわかるなあ。可愛いよ、シェリル」

「おい、ちょっと、ロジーヌ!」


 そして今度は、私の胸を触り出す。


「おい!どこを触っとるんじゃ!?」

「いやあ、旦那様に毎日揉まれてるっていってたからな、どれくらい育ったかなあと思ってさ」

「こら!そなたが触ることはなかろうが!く、くすぐったいわ!」


 そこに、セシリオが口を開く。


「あの、そろそろ作戦開始なんで、落ち着いてもらえますか?」

「ちっ、なんだ、面白くねえな。いいじゃねえか、もうちょっとくらい……ほんと、真面目過ぎるやつだなあ」


 ふてくされるロジーヌ。が、私の耳のそばでそっと呟く。


「だけど、一途でいい男だよな。あん時もお前を庇おうとしてくれた旦那だもんな。よかったなシェリル、いい旦那に巡り会えて」


 なぜか私は、思わずドキッとした。ロジーヌからそんなことを言われるとは、まったく思いもよらなかったからだ。わりと遠慮がない男だが、ロジーヌから見たらいい旦那に見えるようだ。


『まもなく、威嚇砲撃が行われる!地上部隊各員、発進準備!』


 まずは地上にいるシン帝国に向けて、上空にいる駆逐艦全艦で威嚇砲撃を行い、進軍を止める。その後、彼らの軍勢の前に立ちはだかる。

 場合によっては、私とロジーヌの魔導で軍勢を脅かすことになるかもしれない。魔導士の乗ったこの1番重機を、他の5機の人型重機が護衛することになっている。

 しかしうまくいくだろうか?私は思わず、ロジーヌの手を握る。すると、ロジーヌは言った。


「今度は、殺しをやるわけじゃないんだろ?王国にいた頃を思えば、楽なものさ。気楽にいこうぜ」


 確かに、あの頃に比べて戦場に出る辛さはない。自分の意思で、私は出てきているのだ。

 いよいよ、作戦開始だ。20隻の駆逐艦が横一線に並んでいる。だが、いざ砲撃開始という時になって突然、作戦中止命令が出た。


『作戦中止!砲撃やめ!各部隊、そのまま待機!』


 モニターを見ると、相変わらず10万の兵が陣形を組んで進んでいる。特に変わった様子はない。なのになぜ、作戦中止命令が出たのか?

 だが、ふとその軍勢の向こう側に目をやると、とんでもないものが見えていた。

 あれは、どう見ても駆逐艦だ。数は3隻。だが、色が違う。灰色ではなく、なんだか赤茶けた色をしていた。

 それを見た直後に、無線で状況が知らされた。


『敵艦艇出現!至近距離!その数、3!これより、連盟艦艇3隻の追撃に移行する!』


 宇宙では見えないほどの距離同士で撃ち合った相手が、なんと目で見えるほどに近くにいる。なぜ、これほど近くにいながら、気づかなかったのか?

 突然、本来の「敵」が現れてしまった。我々は地上の10万の帝国軍の相手をしている場合では、なくなってしまった。

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