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#15 カターリア王国宇宙港

 戦闘終了後に、私は2度目となる戦艦カンディアへの訪問を果たす。

 そこで私は、セシリオから私専用のスマホを買ってもらう。そういえば前回は、何もかもが珍しくて、ついスマホをねだるのを忘れていた。

 やっと自分のスマホを手に入れる。音楽に映画、それから、ここの文字を読んでくれると言うアプリを入れてもらった。

 で、映画にも行ったし、スイーツも思う存分食べた。その道中ばったり会ったピエール様と侍女のクロードとともに、どういうわけか、パフェというものを食べる羽目になった。


「お、美味しゅうございます、ピエール様」

「そうか、よかったな、クロードよ」


 王族と平民、普通ならばとても揃って街などに出かけることなど叶わぬ身分差であるが、ここは王国より遠く離れた宇宙の果て、なんの気兼ねもなく街を楽しんでいる。

 ところで、元々の訪問の目的であった調印式は滞りなく終わったようで、これで正式にヴィレンツェ王国も連合の一員となった。

 そんな大役を終えた王族が、セシリオに尋ねる。


「なあ、セシリオ殿よ」

「何でしょうか、ピエール様」

「そなたの星では、王族でもこうして自由に街に出ているのか?」

「そうですね、うちの星ではわりと自由に出かけてますね」

「そうか……我が王国も早くそうなるといいのだがな」

「宇宙港が出来て、そのそばに街ができます。そうなれば、それも叶いますよ」

「左様か……」


 第2王子はセシリオに、特にそれ以上お尋ねにはならなかった。その応えに満足したのであろう。

 そういえば結局、他の魔導士の姿はほとんど見なかったが、皆、世話人とともに思い思いに街を楽しんだようだ。

 そして駆逐艦2810号艦は戦艦を離れたのち、半日ほどで地球(アース)862のヴィレンツェ王国に到着する。


「お世話になりました」


 広場に着陸した駆逐艦を降りる際、そう侍女のクロードは言い残して、第2王子の元に向かった。

 ところで、この王国にはまだ宇宙港はない。第2王子一行を送り出したのち、我々は再び離陸する。

 目指すは、カターリア王国だ。


 部屋のテレビで、セシリオと共に外の様子を見る。真下に広がるのは、カターリア王国の王都エウリアルだ。

 城壁で囲まれたこの王都のすぐ横に、宇宙港が作られている。現在、その数200隻分。この星では今の所、最大の宇宙港である。

 駆逐艦以外にも、民間船の出入りもすでに始まっている。駆逐艦よりも大きな船が、カターリア王国の王都上空を何隻も飛んでいるのが見える。

 その宇宙港の端には、宇宙艦隊司令部の建物がある。すでに地球(アース)862防衛の要として機能し始めていた。

 その横には、街の建設が進んでいる。すでに司令部の近くに20階建の大きな建物が建っており、その周囲には着々と住宅や店の建設が進んでいる。

 その20階建の建物の一室に、私とセシリオが住むことになった。


「この部屋をもらったのは良いが、何もないではないか」

「うーん、食事は近所にできた食堂に行くとしても、それ以外のものがねぇ」


 ガランとした部屋を前に、途方にくれる私とセシリオ。

 ベッドだけはあるが、このままでは本当に寝るだけの場所になってしまう。考えた2人は、セイラの部屋に行く。

 我々は20階、セイラはバルド中尉とともに19階に住んでいる。カターリア王国出身のセイラに聞けば、この王都エウリアルのいい店を知っているかもしれない。


「んなわけないでしょう!魔導士が街はおろか、建物の外に出られないことくらい、あんたもよく知ってるはずでしょ!」


 あ……そうだった。セイラも自分の住んでいた街を知るはずがない。私がヴィレンツェ王国の王都ラマグレットの街を知らないのと同様だ。

 というわけで、私とセシリオ、それにセイラとバルド中尉の4人で、王都エウリアルの街を巡ることになった。

 何よりもまずは食料だ。外食ばかりではお金がかかる。せっかく台所のある部屋に住むことになったのだから、食べるものを調達できる道を切り開かねばならない。そこで、食材を求めて、大聖堂の前にあると言う市場に向かう。

 そこには、様々な食材が売られていた。ここは、確かに戦艦の街よりは古風なところだ。が、色とりどりの野菜や果物、そして穀物が売られている。

 実に色とりどりの野菜や果物、そして穀物や香辛料がある。茶色に緑、オレンジに紫。さすがにこの王国で最も栄えた市場というだけあって、品数は豊富だ。


「あの野菜を買っていこうか、シェリル」

「あ、ああ。セシリオが良ければ」


 しかし、私に食材のことを聞かれても、正直よく分からない。そういえば私は、調理済みのものしか見たことがないので、それが一体何からできているのかがよく分からないのだ。

 セイラも同様だ。トゲトゲした妙な果物のような野菜のようなものを手にとって、訝しげな顔をしている。それがどんな味のものなのかが、まるで分からないようだ。


「あれ?ここにはこんなものも売ってるんだ!」


 セシリオはなにやら野菜を見つけては、嬉々として買っている。バルド中尉も、そんなセシリオにつられるように野菜を買っている。


「こいつはいくら?」

「ああ、銅貨9枚だ」

「ええと、銀貨1枚を渡すと足りる?」

「ああ、銅貨12枚で銀貨1枚だから、お釣りは銅貨3枚だ」


 こんなやりとりが何度も行われる。ここの通貨を街の入り口で両替してもらったものの、どうにも使い慣れていないようだ。

 といって、私はそもそもお金なんぞを持ったことがない。セシリオ以上に分かるわけがない。ここはなんとしても、セシリオに頑張ってもらうしかない。

 それ以外にも、皿などの食器を買う。フライパンなどの調理器具はなぜかセシリオは持っているというが、食器がなければ食べられない。


「それにしても、たくさん買ったな」

「肉に野菜に食器、それにちょっとした香辛料も手に入ったよ。いやあ、これだけあればいいものが作れそうだ」


 嬉しそうに話すセシリオだが、私にはそれがどうなるのか、さっぱり分からない。

 そして、市場から部屋に戻ってきた。食材を並べて、気づいたことがある。

 そうだ、私は料理ができない。だから、たくさんの食材を並べられたところで、何も作れない。

 馬鹿馬鹿しいことに、いまさらこんな簡単なことに気づく。ところが、セシリオが言う。


「大丈夫だよ。私が作るから」

「は?セシリオ、そなた、料理ができるのか?」

「陸戦隊は、何日も補給無しで生きられるよう、そこらへんの動物を捕まえて食材にする訓練を受けてるんだ。これだけいい材料が揃えば、十分美味しいものが作れるよ」


 なんということか。セシリオは料理が作れるのか?なんて便利な旦那だ。

 鍋やフライパンを揃えて、次々とそれらの食材を調理していくセシリオ。ただの野菜が、私の目の前で次々と料理に変わっていく。

 ところがそんなセシリオの元に、バルド中尉とセイラがやってくる。


「……セシリオ少尉、よく考えたら我々は、料理ができないことに気づいたのだが……」

「なんですか、バルド中尉殿。料理したことないんですか?」

「いや、すまない。私は砲撃科、野外訓練など受けていない。それでいつも自動料理ロボット任せだったが、まだ調理ロボットが手に入れられないからな。そんな大事なことを、すっかり忘れていたよ」

「しょうがないですねぇ。じゃあ、食材をください。一緒にまとめて作りますよ」


 といって、セシリオが4人分の料理を作るはめになった。

 大きな皿にならぶ料理、4つのお椀に入れられたスープ。駆逐艦の食堂では、見たことのない料理ばかりだ。セイラも私も、そしてバルド中尉もセシリオの作った料理をまじまじと眺める。


「さて、食べましょうか」

「うむ、いただくのじゃ!」

「い、いただきます!」

「いやあ、すまない……さすがは陸戦隊だな」


 そして、皆でセシリオの料理を口にする。

 見た目は、ぶつ切りの野菜ばかりで雑な料理に見える。だが、素朴な味ながら美味い。外の料理と比べたら確かに劣るものの、さっきまであの無骨な野菜だったものが、食べられるものに変わった。それだけで私は感動する。

 野菜スープなぞ、あの塀の中の生活でもよく口にしたが、セシリオの作るスープは味に深みがある。そういえばこのスープに香辛料を入れていたな。


「おい、セシリオ少尉、お前、いっそ主夫になった方がいいんじゃないのか!?」

「何を言ってるんですか、バジル中尉。こんなの、たいした料理ではありませんよ。中尉だってちょっと練習すれば作れますって」

「にしてもセシリオよ、そなた、どんな訓練を受けていたんじゃ!?」

「ああ、シェリル、例えば森のど真ん中に放り込まれて、5日間補給無しで過ごすんだよ。森の中を巡って、見つけた小動物を捕まえてはその内臓を取り除いては、食べられるところを残してカレー粉と共に煮てしまうんだよ。他にも、食べられそうな植物を見つけてはスープにして食べたり、肉と野菜で炒め物を作ったり。そんな野外訓練を、何度もやったのさ」

「なんという……そりゃあ市場の食材があれば、簡単に作れるじゃろうな」


 幾たびも戦場に駆り出された我々でさえも、経験したことのない話だ。案外苦労しているのだな、セシリオは。

 無骨な料理ではあるが、いい味だ。セシリオに、こんな技があったなどとは知らなかった。

 いや、それ以上に今、かつての敵国で、もしかしたら戦場で相見えることになったかもしれない魔導士とともに、私は料理を食べている。

 時代は変わったのだ。我々魔導士も、人間として生きていける世の中に変わった。セイラもきっと、そう感じていることだろう。そんな時代の変化の訪れを、私はセシリオの野菜スープをすすりながら感じていた。

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