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14/21

#14 これからの戦闘

「王都ラマグレットの所定場所まで、あと10キロ!」

「速力200、両舷前進最微速!」

「対地レーダー正常!高度800!」


 我々は今、ヴィレンツェ王国に向かっている。そこで王国の王族を乗せ、宇宙へ向かうことになっている。

 すでに同盟交渉は大筋合意している。その調印式を戦艦カンディアで行うために、わざわざこの駆逐艦2810号艦が向かっているのだ。

 私などからすれば、ヴィレンツェ王国の王族と一緒の船に乗ること自体が嫌なわけだが、あちらはそれどころではない。他の王国よりも派手な同盟締結を演出し、主導権を握ろうと必死なわけだ。

 ちょうどこの船が補給のために宇宙へ出ると聞いて、そのついでに乗せろといってきたらしい。まったく、どうせなら他の船に乗ればよかったのではないか?かつて「道具」としか見ていなかった王国の魔導士が多数乗る船だというのに、御構い無しなようだ。

 で、王都ラマグレットの中央にある広場に降り立つ駆逐艦2810号艦。すでに兵士達が広場の周囲を固めており、一般人の立ち入りはない。

 広場の真ん中あたり、大きな像がある場所の真ん前に着陸する駆逐艦。そこに、黒光りした豪華な二頭立ての馬車が走ってくる。

 ああ、あの馬車は多分、王子の1人だ。私はそう確信した。できれば、顔など合わせたくない相手。

 もちろん、この王国軍と何度もやりあったセシリオも同様の気持ちであろう。あれだけさんざん苦労させておいて、いざ時代が変わったと知るや、今度は迎えに来いとはムシが良すぎる。

 が、出迎えをしないわけにもいかず、私とセシリオを始め、士官らが一斉に整列して迎える。

 現れたのは、第2王子のピエール様。侍女が1人、後からついてくる。


「これがその宇宙へと参る船か」

「左様でございます、ピエール様」

「うむ、では、案内せよ」


 いちいち高飛車だな。お願いしますと言えないのか、この王族は。

 たくさんの荷物を抱えた侍女が、王子の後についていく。だが、この2人にとっては見たこともないほど大きな船。2人とも口には出さずとも、不安な顔は隠せない。

 エレベーターで8階に降り、まずその荷物を部屋に押し込む。その後、最上階に上がり、艦橋へと向かう2人の客人。

 大きな窓の眼下には、王都ラマグレットが一望できる。ここは高さ70メートルほど。王都のどの建物よりも高い場所に、今この第2王子は立っている。


「では王子様、発進いたします。こちらの座席へ」

「うむ。分かった」


 偉そうに構える王子だが、おそらくは不安でいっぱいだ。なにせ、初めて空を飛ぶ。それどころか、宇宙という未知の場所へと向かうのだ。


「機関始動!両舷微速上昇!駆逐艦2810号艦、発進!」

「機関出力10パーセント!両舷、微速上昇!」


 ブーンという低い音とともに、艦が浮き始める。ゆっくりと上昇する駆逐艦。

 王子は椅子の上で座って構えているが、立っている召使いはどんどんと高い場所へと向かうこの船が恐ろしくてたまらないようだ。多分、どこにいくのか知らされていないのだろう。

 特に侍女だ。さっきからガタガタと震えている。王子の手前、嫌だとも言えないし、さりとて恐怖を克服できない様子だ。私は思わず、声をかける。


「案ずるな、この船はどんな高い場所でも落ちることはない。屋敷の中にでもいると思い込むのじゃ」


 そういうと、やや顔色の悪いこの侍女は私にうなずく。そんな侍女に構うことなく、徐々に高度を上げる駆逐艦。

 やがて、規定高度に達する。すでに空は黒く、宇宙の入り口に差し掛かっていた。


「機関正常、各種センサーよし!前方、30万キロに障害物なし!」

「では、大気圏離脱を開始する!両舷前進いっぱい!」

「機関最大出力、両舷前進いっぱーい!」


 と同時に、ゴォーッという音が鳴り響いた。周りの風景が後ろに流れ始める。

 この艦の者達は慣れたもので、そんなけたたましい音にいちいち構うことなく各自の責務をこなしている。私も2度目だ、慣れてはいないが、驚くほどのものでもない。

 が、侍女は相当驚いたようだ。機関音が鳴り響き、周りの風景が流れ出した途端、私にしがみついてきた。


「ひぃ~っ!」


 この侍女のことは知らないが、事前にこの第2王子は、侍女にこれからどういうところに行くのかをきちんと伝えていないものと思われる。王子はおそらく映像で、宇宙とはどういうところかをあらかじめ見ているだろうが、この侍女はこれから行くところを全く知る由もないとみえる。


「大丈夫じゃ、もうしばらくすると静かになるから、それまで我慢しておれ」


 しがみついたまま、私の言葉にうなづく侍女。まあ、彼女の気持ちは少し分かる。

 彼女も、この王子にとっては「道具」なのだろう。私と違って拘束されているわけではないが、日々緊張の日々を歩んでいるのは間違いない。

 どこへ何しに行くのかさえ聞かされず、この宮殿よりも大きな空飛ぶ船に乗せられて、しかもけたたましい音。怖がらない方がどうかしてる。


「怖いじゃろうが、窓の外を見よ。いいものが見られるぞ」


 侍女に話す私。ちょうど窓の外には、青い地球(アース)が現れた。

 地球(アース)862と名付けられることが決まったこの我々の住む、まるで宝石のような青い星。その雄大な姿に、侍女も心奪われる。


「……き、綺麗……まるで、丸いラピスラズリのようです。これは一体……」

「我々の住む地上じゃ。青くて丸い星、我々はあの大きな球の片隅で暮らしておるんじゃよ。

「ええ~っ!?これが私達の住んでいる場所ですか!?信じられません……」


 第2王子はすでに窓際にいた。その王子の元に駆け寄る侍女。2人とも、この雄大な我らの星に見とれておるようだ。

 ところで、なぜ私はこの侍女と話してるんじゃ?私とは立場的に似ているところがあったとはいえ、まったく境遇が異なる人物。別に話す必要などないのだが、不思議とこの侍女は何か共感めいたものを感じる。

 大気圏離脱も終わり、食堂に魔導士一同が集まる。そこになぜか、あの侍女も加わる。


「……なんだって王子の侍女がここにいるのよ」


 ダフネが不機嫌そうに言う。


「王子がこちらの士官の方に艦内を案内してもらってる間、お休みを頂いてるんです」


 1人だけメイド服を着て目立つこの侍女の名はクロードという。かれこれ10年ほど、第2王子の侍女として勤めているそうだ。


「第2王子の侍女とはいえ、いい暮らししてるんじゃないのか?」

「いえ、それがそうでもないんですよ。街にはお許しがないと行けませんし、朝から晩まで私がほとんどピエール様のお世話してますから、忙しいんですよ」

「なんだ、侍女って他にいないのか?」

「ええ、私だけになってしまいました。私以外の女性は苦手だと仰るので。他は皆、男性の召使いばかりです」

「なんてこった……それじゃああの王子、世継ぎとかどうするんだよ。第2王子ってったって、お世継ぎくらいは作らないといけないんだろう?」

「はい、でも、相手は私だけがよいと仰るので……」


 顔を赤くして応えるこの侍女。ああなるほど。王子のお世話の中には、ああいうのも含まれているのか。


「不憫な侍女だな。いいのか?それで」

「ええ、私は幸せだと思ってます。王子が17歳の時、私が10歳の時からずっとお仕えしておりますが、よく気遣いをして下さるんですよ」


 なんだか、王子との惚気話を聞かされているようで、私達と同じで不遇な侍女だと思ったさっきの感情は、どこかに吹き飛んでしまった。要するにだ。この侍女は事実上、第2王子の妻ではないのか?


「ところで、シビルとオレリー、それにロジーヌの世話人というのは決まったのか?」

「ああ、俺は決めてきたぜ!」


 どうやら艦長は人選を諦めて、魔導士達に世話人選びを丸投げしたようだ。志願者の中からすでに3人とも選んだというので、聞いてみた。


「そういえばロジーヌの相手は、誰なのじゃ?」

「整備長のダヴィードだ!」

「整備長!?お前、整備長を世話人に指名したのか?」

「なんだか他の男どもは、なよなよしててダメだ。あれくらい気骨と勢いがなきゃあ、俺も楽しくねえしな」

「いや……整備長っていくつなのよ」

「ああ見えて、まだ29歳らしいぜ」

「ええ~っ!?そうなの!?」


 鋼のロジーヌらしく、芯のある男が好みなようだ。にしても、9歳も離れた人物を指名するとは……


「で、シビルはどうなった?」

「私は普通かな。エラルド中尉っていう、航海科の人でね」

「へぇ~、どんなやつなんだ」

「なんでもね、アニメっていう動く絵の物語が大好きで、そこに出てくる雷の魔導を使う少女が大好きなんだって。へぇ~、私みたいじゃんって言ったら、そこから話が合っちゃって」


 なんだ、単なるアニメ好きか。その点、セシリオも似たようなところはあるが。


「じゃあ、オレリーは?」

「……ジャンパオロ中尉……」

「ジャンパオロ?誰、それ?」

「ああ!もしかして、時々見かける、あのすごい太った人!?」

「おい!確か、ものすごく暗い男じゃないか!?滅多に部屋を出ない男と聞いたぞ!」

「うん……だから、ちょうど良くて……」

「オレリー……もうちょっと明るいのにした方が良かったんじゃないのか?」

「いや、彼となら不思議と落ち着くの。だから、彼に決めた」


 どうやらそれぞれ、それなりの人物を見つけてしまったようだ。もっとも、第2王子が相手だという侍女のクロードには敵わないが。


 という具合に食堂で女子の集まりをわいわいやっていると、突然聞いたこともない大きな音が鳴り響く。

 ウーッ、ウーッという、明らかに何か危ない事態が起きたことを知らせる音だ。直後に、艦内放送が入る。


『警報発令!敵艦隊接近!小惑星帯(アステロイドベルト)待機中の艦隊主力より、距離1700万キロ!数、およそ1万!接敵まで、あと3時間半!』


 緊迫した放送が流れる。すると、食堂にいた他の士官達が、ばたばたと走り始める。


『各員、戦闘準備!我々も合流次第、戦闘に参加!最大戦速で艦隊主力に合流する!』


 そこにセシリオが現れた。


「セシリオ!どうなってるんじゃ!?」

「ああ、ついに連盟軍がここを嗅ぎつけたらしい。我々の哨戒網をくぐり抜けて、いきなり一個艦隊でこの星系に突入してきたんだ!」

「だ、大丈夫なのか!?相手は1万だというぞ!?」

「こちらは、たまたま防衛艦隊からの援軍もあって、全部で1万2千隻。しかも、防御しやすい小惑星帯(アステロイドベルト)に潜り込んでいる。数の上でも、地理的にも、負けはしないさ」

「そ、そうなのか!?」

「今、上の方でも作戦を考えているそうだ。大丈夫、なんとかなるよ」


 などと言うが、当のセシリオはというと、戦闘に参加しない。


「なぜじゃ!そなた、あれだけ地上では戦ったではないか!皆が戦うという時に、戦わずに折られようか!?」

「いや、私は陸戦隊だ。宇宙での戦闘には、参加できないんだ」

「ヴィレンツェ王国軍と対峙した時のように、あの重機で飛び出せばいいじゃろうが!」

「あんなのじゃ、とても相手にならないよ。なにせ相手は、30万キロも離れた場所にいる駆逐艦だ。人型重機なんて、そもそも近寄ることもできない。武器も効かなければ、主砲の一撃であっとう間にやられてしまう!」

「なんということだ!それでは何のために、そなたはこの船に乗っておるのか!?」

「いや、私にもこの戦闘で、ひとつだけ役割があるんだ」

「な、なんじゃ、その役目とは!?」

「もし、この艦が被弾して退艦命令が出た時には、私はあの重機で出撃し、皆がカプセルなどで外に脱出し宇宙に漂っているところを拾い上げて、他の船まで引っ張っていく。そういう役目だ」

「なんだと!?やられた時しか、出番はないのか?」

「ただ、被弾して駆逐艦が残ればの話だ。敵も味方も、駆逐艦の持つビーム砲は一撃で王都ラマグレットをも消滅できるほどの威力を持つ。まともに受けてしまえば、跡形もなく消滅する。その時は、救助どころではない。跡形もなく消えてしまうだろう」


 私は言葉を失った。宇宙での戦いは、それほどまでに恐ろしいものなのか?こんな大きな船が、たった一撃で消える?そんなバカな!?

 だが、この宇宙の戦争とはそういうものだという。無論、この船とて例外ではない。

 我々魔導士や、第2王子と侍女は、船外服というものを着せられる。宇宙空間では、空気がない。つまり息ができず、そのままの格好ではあっという間に死んでしまう。船外に放り投げられても生きられるように、このごわごわとした暑苦しく不恰好な服を着なければならない。


「艦隊主力に合流!敵艦隊接触まで、あと30分!」

「艦内哨戒、第一配備!全艦、砲撃戦に備え!」


 艦内放送からは緊迫した放送が続く。戦闘が近づいていることを示している。


「そういえばセイラ、そなたの世話人はどこにおるのじゃ?」

「砲撃に備えてるんだってば!彼は砲撃科なのよ!?」

「そうか……そういえば、シビルの世話人もおらぬな」

「エラルドさんは航海科だから、今ね、船を操ってるのよ」


 他にも、ドーリスの相手のレオポルト少尉もいない。整備長も、いざという時のための機体の整備に忙しいらしい。

 よく見ると、あのマリスカも1人だ。ウバルド大尉の元に行かないのか?


「そういえばマリスカ、いいのか?ウバルド大尉の元にいなくても」

「うん……本当はいたいけど、これから戦闘だっていうのに足手まといでしょ?だから、我慢することにしたの」

「大丈夫か?そなた一人で」

「うん……でも、頑張って生き残るって、約束してくれたから、私も頑張る」


 ほんのわずかな間で、マリスカも強くなったものだ。彼女が生きる望みを持てるようになったのは、間違いなくウバルド大尉のおかげだろう。

 それ以外の男性は、この食堂にて待機している。ここはこの駆逐艦でも最も中央にあり、生存確率が高い場所だという。いざという時には、ここにいる人々が1人でも多くの人を救うために動くことになっているそうだ。

 だが、ここには客人である第2王子のピエール様もいる。侍女のクロードは、そのすぐ脇に立っていた。


「このような時に敵に出くわすとは……なんということであろうか」


 と、ぼやく第2王子に、交渉官殿は謝罪するが、王子は言う。


「いや、むしろ私にとっては運がいいのかもしれない。ここで、我々がこれから向かい合わねばならない戦い方と言うのを見ることができる。これはきっと、私の使命なのだろう。王族の誰かが、あの敵を見据えねばならないのだ。それが、私だったと言うことなのだ」


 この王子、なかなかの覚悟だな。ヴィレンツェ王国には、王族といえど前線に出る機会が必ず要求されるという伝統がある。それに則れば、まさに第2王子にとってはふさわしい機会だと思っているようだ。

 だが、私も王子も、ここでの本当の戦いを知らない。今まさにそれを体験することになるのだ。食堂にはいくつもテレビがあって、陣形を示すもの、外の様子を映しているものがある。

 敵が近づいていると言うが、テレビをいくら見ても敵の姿はまったく見えない。聞けば、敵は我々の地上から月までの距離以上に離れていると言う。だから、敵の姿は目で見ることはできない。


「そんなに離れた敵と、どうやって戦うんじゃ!?」

「だから、長射程の駆逐艦の大型のビーム砲でなければ戦いにならないんだよ。駆逐艦同士、見えないほど遠くから向かい合って、撃ち合うんだ」


 などとセシリオと話していたら、ついに戦闘開始目前であることを知らせる艦内放送が入る。


「敵艦隊まで、あと31万キロ!接触まで、残り2分!」

「砲撃戦用意!操艦を、砲撃管制室へ移行!」

「了解!砲撃管制室へ操縦系を移行します!」


 いよいよ、戦闘が始まる。外を移すテレビには、多数の灰色の駆逐艦しか見えない。が、敵は近いようだ。

 そして、ついに戦いが始まる。


「司令部より、砲撃開始の合図です!」

「砲撃管制室!撃ちーかた始め!!」


 ヒィーンという甲高い音がこの食堂内に響く。と、その直後、まるでたくさんの稲妻がいっぺんに落っこちたような途轍もない音が鳴り響く。

 ガガーンという強烈な音とともに、青白いビームが発せられるのがテレビに映っている。他の船も同様に、ビーム砲を撃ち始めたようだ。

 と同時に、向こうからも青白いビームが伸びてくる。姿は見えないが、明らかに我々が撃ったものとは違うビームがこちら側に届く。


「敵のビーム、直撃弾、きます!」

「バリア展開!急げ!」


 緊迫した放送が流れる。その直後、今度はギギギギッというなんとも耳障りな音が響き渡る。

 この食堂内も、その激しい音で揺れる。テーブルは小刻みにガタガタと音を立てて震えている。テーブルの上にあるものがいくつか落ちる。


「きゃぁーっ!」


 そんな中、叫び声をあげたのはあの侍女だった。それはそうだろう。そもそも宇宙についても、戦闘についても全く聞かされずにここに連れてこられた。戦場慣れしている私でさえ、足がすくむほどの不快で大きな恐ろしい音。あの侍女が驚かない方がおかしい。

 だが、その侍女を、第2王子は抱き寄せる。


「大丈夫か!?クロード」


 思わず抱き寄せられ、我に返る侍女。


「は、はい!だ、大丈夫です、ピエール様……」

「しっかり致せ!わしがついておるぞ!」

「はい、申し訳ありません……」

「謝ることはない。ここに連れてきてしまったのは私だ。ここはとにかく、耐えるのじゃ」


 やっぱりこの2人、紛れもなく両思いだろうな。船外服で表情がよく見えないが、明らかに王子の侍女に対する想いが伝わってくる。

 と同時に、セシリオも私の肩を抱いて、声をかけてくる。


「今、すごい音がしたけど、大丈夫か!?」

「大丈夫じゃ。あんな音、私の魔導に比べたら大したことはない」

「さすがは魔導士だな。だけど、怖くなったら、私に抱きついてくれてもいいんだぜ?」

「そ、そんな恥ずかしいこと、するわけがなかろう!」


 そんな最中でも、あの雷音のようなビーム発射音がなんども鳴り響く。マリスカは1人、ガタガタと震えながらぶつぶつと何かをつぶやいている。


「生き残る、生き残るんだ……ウバルドさんと一緒に、生き残るんだ……」


 まあ、彼女なりに耐えているんだろう。セイラもシビルも、頭を抱えながら耐えている。

 私など、セシリオがそばにいるだけマシなのだろうな。けたたましい音の中、セシリオの顔をじーっと見つめる。


「なに?どうしたの?」

「いや、私にはセシリオがいるなあと思ってな」

「当たり前じゃないか。だけど、いざという時はシェリルだけでなく、この食堂の皆を守ってあげるさ」


 魔導士として生まれてセシリオに出会うまでは、一つもいいことはなかった。だが、今はセシリオがいる。私はつい、セシリオに尋ねた。


「ところでセシリオよ、この先も、私を守ってはくれぬのか?」

「は?それはどういう……」

「だから!この戦いが終わってからの話を言っとるんじゃよ!」


 するとセシリオのやつ、私の両手を握って、こんなことを言ってきた。


「じゃあ、子供ができて、互いにおじいさんとおばあさんになるまで、守ってあげるよ」


 私は思わず、顔が熱くなるのを感じた。


「バカ!幾ら何でも、先まで考えすぎじゃ!明日とか明後日とか、1年後くらいの話をしとるんじゃ!」

「ははっ!まあ、そうだよね、まずはこの戦いで生き残らないといけないよね!」


 こんな惚気バカ2人を、呆れ顔で見つめるセイラ。


「まったく!なにこんなところで見せつけてくれるのよ!そういうのは、見えないところでやってちょうだい!」

「仕方なかろう、セイラだって、バルド中尉がいたら同じことをしておったのであろう?」

「ば、バカねぇ!さすがに場所をわきまえるわよ!せめてベッドの上とか、誰もいない展望室とか、そういうところを選ぶわよ!」


 つまりセイラのやつ、バルド中尉から求婚されるのは確定済みなのだな。あとは場所の問題だけというわけか。分かりやすい娘じゃ。


「さて、そろそろ始まるかな」


 その時、セシリオ殿が意味深なことを言い出す。


「何が始まるんじゃ?今度は、オレリーの告白でも始まるんか!?」


 などといったら、オレリーから睨まれた。


「違う違う!この戦闘を決定づける作戦が始まるんだよ!」

「なんじゃ、それは?」

「さっき言っただろう?相手は1万で、こちらは1万2千だと」

「ああ、数で勝ると言っていたな」

「ところが、今撃ち合っているのは、どちらも1万隻同士なんだよ」

「ならば、他の2千はどこへ行ったのじゃ?」

「それが、そろそろ現れるんだよ」


 何を言っているのか、この時は分からなかった。が、しばらくして、その2千隻が思わぬところから現れる。


「味方艦隊2千、敵艦隊後方に出現!距離、20万キロ!攻撃を開始します!」

「よし!作戦通りだ!」


 なんと、敵と同数の1万隻で敵を引き寄せている間に、2千隻をこっそりと敵の後方に回しこんでいたのだ。

 突然現れた2千隻の艦隊に、敵は大いに乱れる。


「敵艦隊、陣形、乱れます!2つに分かれました!」

「よし!追撃戦を開始する!進路そのまま!前進微速!」


 陣形を示すテレビの画像でも、連盟の艦隊を表す赤い点の集団が大きく崩れていくのが見える。緑色で示された味方の艦隊は、整然とその赤い点の集団を徐々に挟み込んでいく。

 外を映す映像からも、敵からのビームの筋が少なくなるのが見える。味方が打ち込むビームばかりが見える。

 相変わらず激しい砲撃音が鳴り響くが、時々鳴り響いた、敵のビームがバリアに着弾して発するあの不快な音が全くしなくなった。こちらが一方的に撃ち込んでいるようだ。

 それからしばらくすると、砲撃の音も止んだ。戦闘は終了した。


「敵艦隊、離れていきます!距離、32万キロ!」

「警戒態勢のまま、しばらく待機!操艦を航海科に戻せ!」

「了解!航海科に操艦権を戻します!」


 あれだけやかましかった辺りがシーンとなった。時々入る艦内放送からは、敵艦隊の撤退が続いていることを知らされる。

 ここで、戦さの状況が報告される。味方は全1万2千隻の内、142隻が撃沈された。一方、敵の損害は1000隻を超えるという。圧倒的勝利だ。

 それから30分ほどが経過して、警戒解除の艦内放送が入る。敵はすでに700万キロ先まで撤退していた。


「司令部より通信、戦闘の終了を宣言する!各員、船外服着用命令解除!」


 ここでようやく、この暑苦しい服とおさらばすることになった。セシリオに手伝ってもらって、私は船外服を脱ぐ。


「あれ!?シェリル、中の服はどうしたの!?」

「スカート姿ではきれぬじゃろう。仕方がないから、スカートは部屋に置いてきた」

「ちょ、ちょっと!下だけは脱ぐの待って!スカートを持ってくるから!」


 大急ぎでセシリオは部屋に戻る。

 やっと暑苦しい船外服を脱ぎ、着替え終えたところで、ウバルド大尉が食堂にやってきた。


「はぁ……やっと機関室から出られたよ。おーい、マリスカ、大丈夫か!?」


 その姿を見たマリスカは、涙を浮かべながら一目散にウバルド大尉めがけて走っていく。

 それを抱きあげるウバルド大尉。マリスカの肩をぽんぽんと叩きながら、なだめるウバルド大尉。


「こ、怖かった……怖かったよぉ……」

「そうかそうか……でも、もう大丈夫だよ」


 目線を映すと、手をにぎり合う侍女と第2王子の姿もあった。他の世話人と魔導士のペアも、互いの無事を確認しあっていた。


「生き残ったな」

「ああ、生き残った」

「おい、セシリオ」

「なんだ?」

「さっきそなたが言った言葉、ちゃんと守ってくれるのであろうな?」

「さっきの言葉って……何?」

「いうたじゃろう!この先も、私を守ってくれるって!」


 そういうとセシリオのやつ、突然私の両肩を抱き上げ、顔を向ける。


「当たり前だろ。私に二言はないさ。大好きだよ、シェリル」

「おい、セシリオ、何を……」


 そう言うと、突然私に口づけをしてきた。ここは食堂、30人ほどが集まっている場所。周りが見ているというのに……なんて大胆で、図々しい男か。


 ともかく、私たちは生き残った。つまり、この先の未来を生きる権利を得たのだ。無駄にしてはならない。そう私は感じた。

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