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#12 王国最後の抵抗

「なあ、セシリオ!そなたらの星の男どもは、胸が大きい女を好むと聞いたぞ!」

「シェリル……あのさ、どこで聞いたの、そんな話」

「しかもじゃ!相手の男に毎日揉んでもらうと、大きくなるとも聞いたぞ!」

「いや、それは……」

「そこでじゃ!今度から交わる前に、私の胸を揉むのじゃ!」

「はあ?別に私は大きくなくても、これくらいの方が……」

「セイラは毎日やってると聞いたぞ!ここでやつに負けるわけにはいかぬ!今日から我々も始めるのじゃ!」

「はあ……何と戦ってるのさ……」


 ヴィレンツェ王国包囲網が完成し、交渉は再開されたが、相変わらず難航している。時間ばかりが経つ。このままでは、残りの3人も救えない。

 そんな焦りを、こうした形で紛らわす毎日が続いている。包囲網完成からかれこれ一週間が経ち、そろそろ動きがあっても良い頃だと思うのだが、今のところ王国は静かなものだ。おかげで、まるで事態は好転しない。

 ところで、艦内の魔導士達は、それぞれの生活を始めている。

 ミレーユはルーカ軍曹と一緒に、毎日小説や漫画を読んでるらしい。字は読めぬが、ルーカ軍曹のスマホが読み上げてくれるのを聞いて楽しんでいるようだ。そういえば、ミレーユは本好きでもあったな。最近は動画の存在も知った。

 セイラはバルド中尉の部屋に入り浸っている。こっちは、バルド中尉の故郷の話とか、他の星の話で盛り上がってるらしい。

 ナタリーはというと、ゼークト大尉のもとで鍛えられているという。あまりに虚弱すぎるナタリーを元気にするんだと意気込んでのことだが、当のナタリーは悩んでいた。

 で、3日ほどでさすがにちょっとやりすぎて、体を壊しそうになってしまった。それからはむしろ、大尉はナタリーを気遣うようになったらしい。

 だが、おかげでナタリーの身体は少しがっしりしてきた。それが彼女自身、快感になってきたようで、今はむしろナタリーから身体を鍛えるようになってきたらしい。ダンベルを持ち歩くナタリーを見かけるなど、あの塀の中にいた時のナタリーからは考えられないことだ。

 ドーリスとレオポルト少尉。こちらはナタリーとは逆で、男の方が変わり始めた。

 あれだけ後ろ向き思考だった男が、ドーリスの影響を受け始めた。


「いやあ、美味いっすよ、今日のカレー!」

「美味しいです!じゃあ、明日はピラフにチャレンジです!」


 少尉殿があれほどつまらない料理しかないと言っていた食堂の食事を、これほどまでに楽しめるようになったのは、間違いなくドーリスのおかげだろう。あれだけなんでも喜べる娘のそばなら、ああならざるを得ないのかもしれない。

 マリスカは、すっかり大男のウバルト大尉にべったりだ。食事も、寝るのも、仕事中までも一緒。ウバルト大尉は機関科所属。機関の監視や整備をしているのだが、仕事中もずっとマリスカは機関室の中で座って、ウバルト大尉の働く姿をジーッと見つめている。

 よく抱っこをせがむようで、ウバルト大尉に抱かれて歩くマリスカの姿をよく見る。艦内で女性を抱いて歩くと言う行為は規律上よくないことだが、医師が精神医学上の判断で艦長を説得して、この2人に限っては認めさせた。医師によれば、彼女はこうやって特定の人に甘えることで、今までの酷な環境ですさんだ精神の安定を構築しているのだろうということだ。だらかこの状況も、しばらくすればおさまるだろうと言っていた。

 さて、ダフネとエルケ。この2人にも「世話人」ができた。

 ダフネは、とにかく男勝りな性格だ。割り当てられた世話人は、なんと真逆な性格のラウロ中尉。何というか、なよなよした感じの男性だ。だから、必然的にダフネが引っ張る側になる。


「おら!野菜を残すな!こんなうめえもの、残してどうするんだ!?」

「いやあ、ダフネさん、僕はキュウリが嫌いで……」

「ああ!?なんだって!?」

「分かった分かった!分かりましたよ!食べますって!」

「わっはっは!最初からそうすりゃあ良かったんだよ!どうだ?美味いだろ!?」

「は、はい……グフッ……美味いですよ、ダフネさん……」


 とまあ、食堂でもこんなやりとりが毎日続いているが、案外これで仲はいいらしい。すでに一緒の部屋で暮らしている。ダフネ曰く、放っておけないそうだ。

 で、エルケの世話人は、ジョルダーノ中尉という、一言で言えばお調子者。ここの言葉では「チャラい男」というらしい。

 元々ミレーユに言い寄っていたようだが、彼女には嫌われてしまった。が、それ以来ずっと世話人をやりたいという気持ちを変えなかったようだ。

 で、念願叶ってようやくエルケの世話人になれた。ところで、あのふわふわした性格が、意外にもこの調子の良さを上手く「処理」してくれてるようだ。


「いやあ、エルケさん!今日もお綺麗ですね!」

「まあ、ありがとうございます、ジョルダーノさん。でもその同じ言葉を、他の女の方にもかけておいでだと聞いてますけど……どうなのでございますか!?」

「いやあ、まさかそんな……エルケさんに敵う女性なんて、そうそうおりますまい。女神様!そう!私にとっては、あなたは女神様ですよ!」

「そうでございますか。じゃあ、今日は(わたくし)のことを、女神様と呼んでくださいね!」

「は、はい!女神様!」


「風」の使い魔であるエルケが、まるで凍てついた北風のように優しくも辛辣な台詞で相手を追い込む性格だったとは、ここにきてから初めて知った。まあ、これはこれで、この2人も上手くやれてるようだ。

 他の駆逐艦にも、4人の魔導士が保護されていると聞く。我々と同じように、新たな生活を送れているのだろうか?

 いや、それ以上に、王国に残る3人はどう過ごしているのだろう?

 相変わらず、手枷と首輪をつけられて、まずいご飯に退屈な日々を過ごしているのだろう。いや、もう3人まで減ってしまった王国の魔導士。ダフネ、エルケ、マリスカからは、我々魔導士は殺されたと聞かされているとも聞いた。ということは、残りの3人もそう思っていることだろう。ますます怒りと絶望の淵に立たされているのではないか?

 残る魔導士は「氷」、「雷」そして「鋼」。相手にするには、意外と厄介なのばかりが残ったものだ。


『警報発令!ヴィレンツェ軍12000、モナーク王国方面に進軍中!陸戦隊、発進準備!』

「きたか……」


 艦内放送で、ついにそのヴィレンツェ王国が動いたことを知らされる。私とセシリオは、ベッドから出て着替える。


「いよいよ、最後の戦いかな?」

「そうであれば、良いのじゃが……」

「大丈夫だよ。それに、魔導士が出てきても、今回もどうにか助けるさ」

「そうじゃな。今回も助ける。何としても」


 ヴィレンツェ軍は今、小高い丘の上に陣を張っている。丘の正面、モナーク王国側は平原。左右は森。明らかに、我々を平原側に誘っているようだ。

 平原方向に長槍部隊を構える。その後衛には騎馬隊。弓隊も見える。

 魔導士を乗せるための馬車も見えた。おそらく、残りの3人を全て出してくるだろう。

 陸戦隊の6機の重機が降下する。10隻の駆逐艦も、上空に待機する。

 しかし、相手は12000。かつてないほどの軍勢だ。その3分の1が槍兵で、弓兵も多数いる。

 軍が丘の上にいると言うことは、その下から攻め登るしかない。兵法の基本として、攻める側としては上に立つ方が有利だ。敵を見渡すのが容易で、弓も飛びやすく、突撃の際は勢いがつく。

 そんな地理的に有利な相手に、下側から向かう6機の重機隊。

 そこへ、最初の「魔導」が放たれた。

 ゴゴーンという雷音が鳴り響き、稲妻が重機に襲いかかる。隣の重機に、その雷が落ちる。

 それが断続的に続く。この重機にも、雷が落ちた。


「きゃあっ!」


 私はつい叫んでしまった。だが、意外にもセシリオを始め、陸戦隊の皆は冷静だ。


「大丈夫だよ。雷が落ちたって、なんてことないさ」

「えっ!?そうなのか?」

「電流ってやつは、表面を流れる。だから、重機の表面にいるならともかく、中にいる限りは影響はない。このとおり、重機も問題なく動いているし」


 確かに、雷を食らっても、6機の人型重機は歩み続けている。雷は、まるで効果がない。

 だが、そこに第2の魔導がくる予兆が見え始めた。

 そういえばこの丘の上には、小さな池があった。その池の水が持ち上がり始めたのだ。

 あれは間違いなく「氷」の魔導だ。


「セシリオ!ハッチを開けるぞ!」

「は?なんで?」

「私の、火の魔導を放つ!」

「いや、そんなことしなくても……」

「いや、どうしてもここで、私の魔導を放たねばならんのだ!」


 そうこう話している間に、宙に浮いた水は、みるみる氷の粒へと変わっていく。それらは、まるで矢じりのように尖った無数の氷の塊へと変化する。


「分かった!なんだか知らないが、開けるぞ!」


 セシリオ殿がハッチを開ける。私は、術式を唱える。


「この地に舞う火の精霊よ、我にその力を集めたまえ……いでよ!!爆炎球(エクスプロージョン)!!」


 ちょうど無数の氷の矢じりがこちらに向かって飛んできた。私の爆炎球も、その氷の矢じりめがけて進む。

 ハッチを閉じる。そろそろあの2つが、空中でぶつかる。

 直後に、猛烈な大爆発が起きた。氷は一瞬にして溶かされ、強烈な衝撃波が王国軍と重機隊に襲いかかる。

 爆発の衝撃で、丘に上がる坂の途中にある数本の木が、ねもとから抜けて吹き飛ばされていく。前衛にいる槍兵はその衝撃波を避けるため地面に伏せるが、数十人、いや数百人は、まるでタンポポの種のように吹き飛ばされていく。

 その後衛にいる騎馬隊だが、間近で爆発を見た馬が大暴れしていた。

 といっても、12000人の軍の前衛部分だけが混乱に陥っただけで、大半は陣形を保ったままだ。体制に影響はない。

 それにしても、私が魔導を放ったのは意味がある。

 氷の魔導くらい、この重機のもつバリアシステムで十分対処は可能だ。あそこにあった池の水の量からして、あの攻撃は一回限り。私がわざわざ魔導を使うまでもないことは、私自身も承知している。

 だが、私は火の魔導を使うことにこだわった。その理由は、たった一つ。

 それは、私がまだ生きていることを、あの3人に伝えるためだ。

 あんな魔導を使えるのは、私だけだ。赤い爆炎球は、あの全軍からよく見えたはずだ。

 私が殺されたなどという大嘘に騙されているあの3人に向けて、敢えて強烈なメッセージを届けてやったのだ。


「よし!行くぞ、セシリオ!」

「ああ、行くか!」


 重機は走る。まずは、魔導士の確保を行う。

 魔導を放つため、魔導士は比較的前衛にいるはずだから、魔導士達も混乱の只中にいることだろう。その混乱に乗じて、あの3人を助け出してしまえば、王国軍は我々へ攻撃する(すべ)の大半を失う。


「シェリル!ジャンプするぞ!」

「分かった!」

「空中にいる間に、魔導士のいる場所を探し出せ!」

「承知!」


 混乱している兵士達の上をジャンプするセシリオ操縦の重機。

 空高く舞う重機。王国軍の全景が良く見える。後方には投石機まで持ち込んでおり、そして陣幕まで張っているのが見える。間違いなく、それなりの人物が大将として送り込まれているのだろう。

 私は手前に目線を移し、上から必死になって魔導士の居場所を探す。

 左前に、馬車が倒れているのが見えた。その脇に、首を鎖で繋がれた3人がいた。


「あそこだ!左前側!」


 そこには「雷」のシビル、「鋼」のロジーヌ、「氷」のオレリーの姿があった。

 そのすぐそばに着陸するセシリオ殿の重機。


「よし、じゃああの3人をこの重機で掴んで……」


 セシリオの重機が腕を伸ばそうとした途端、異変が起きた。

 重機が、動かなくなってしまったのだ。


「あれ?どうした?操作を受け付けない!どうなっているんだ!?」

「どうしたんじゃ、セシリオ!」

「分からない!とにかく、まるで言うことを聞かなくて……」


 すると、窓枠がギシギシと音を立て始める。ハッチが、勝手に開き始めた。

 私は、正面を見る。

 すると、そこには両手を広げて立っている「鋼」のロジーヌの姿があった。

 そうか、しまった!こやつ、重機の「鋼鉄」を操っているのか!?

 彼女の力でハッチがこじ開けられる。我ら2人は、ぐるりと囲まれた兵士の中にさらされる。


「槍兵、前へ!」


 そこに長槍を持った槍兵達が集められた。2、30人はいるだろうか、こちらに槍を構えて、号令を待つ。

 突撃される、そう思った、その時だった。

 セシリオが、急に私を抱きかかえる。

 その直後、槍兵が突入してきた。

 ああ、もうダメか……そう思ったその時、意外なことが起きる。

 重機の腕が、槍兵の槍を払いのけたのだ。

 もちろん、セシリオは何もしていない。私を抱えていて、操縦どころではない。第一、魔導により操縦を受け付けない。

 人工知能(AI)が発動したのかと思いきや、この重機はロジーヌの魔導のおかげで、そもそも操作できないはずだ。

 と、いうことは、あれはロジーヌがやったのか?

 私は、ロジーヌの方を見る。するとロジーヌは、後ろにいた指揮官に肘打ちを食らわせていた。そして鎖を奪い取り、他の2人に向かって叫ぶ。


「おい!シビル、オレリー!シェリルを助けるぞ!」


 その呼びかけに、シビルとオレリーも相手に肘打ちを食らわせてこちらに走ってくる。ロジーヌも、決死の逃亡に入った。


「くそっ!逃すか!」


 起き上がった指揮官が、兵に命じて3人の魔導士を止めようとする。

 オレリーは手枷をつけられている、他の2人も、首輪に長い鎖がついたままだ。こんな状態で走ったところで、すぐに追いつかれて捕まってしまう。

 だが、その時、重機が動き出した。


「3人を収容する!シェリル、あの3人に向かって、こっちにくるよう叫べ!」

「分かった!」


 私は立ち上がり、3人の名を呼ぶ。


「シビル!オレリー!ロジーヌ!」


 3人は必死に走る。だが、兵士の何人かが追いついてきた。

 重機が歩き出す。なんとか腕を伸ばして、3人を庇おうとする。が、まだ3人は離れていて、腕が届かない。

 セシリオ殿は銃を構え、兵士に向かって撃つが、何人もの兵士がいてキリがない。

 あわや、3人はこのまま捕まってしまうのか!?


 と、その時、上から大きな塊が2つ、落ちてきた。


 別の人型重機だ。3人のすぐ後ろ側に、他の兵の前に立ちふさがった。


「こちら3番!助太刀だ!3人を早く!」

「こちら6番!兵士は我々に任せ、魔導士の救援に向かってください」


 着地の衝撃で転ぶ3人。そこにセシリオが飛び出した。私も、一緒に飛び出す。3人の元に駆け寄る私とセシリオ。


「さあ、あれに乗り込むんだ!」

「シビル、しっかりしろ!」


 セシリオはオレリーとロジーヌを両脇に抱え、私はシビルの腕を引っ張る。

 この5人に襲いかかろうとする兵を、2機の重機が阻む。腕を伸ばし、威嚇射撃を行なった。

 青白い筋が、すーっと丘の上から地上にある森に放たれる。森に落ちたそのビームの先では、大爆発が起きる。

 そのビーム砲を兵士に向ける護衛の重機達。恐れをなした兵士の動きが止まる。

 その間に、5人はなんとかセシリオの1番重機にたどり着いた。中に乗り込む5人。


「ハッチが閉まらない。このままジャンプして、後退する!」


 私と3人の魔導士は、後ろの席にしがみつく。慣性制御があるから、ジャンプの際の衝撃は伝わらないが、ハッチが閉まらないため、勢いよくジャンプした際に起きた風が吹き荒れる。


「がんばるんじゃ!ここを超えたら、そなたらも自由じゃ!」

「えっ!?ど、どう言うこと!?」

「話は後じゃ!今は、あの船になんとしてでもたどり着くぞ!」


 ゆっくりと平原に降り立つセシリオ殿の重機。そこで無線で駆逐艦と連絡を取るセシリオ。


「1番より2810号艦!魔導士の収容を確認!ハッチ、および各部損傷、後退を許可されたし!」

「2810号艦より1番重機!後退了承、直ちに帰投せよ!」

「了解!直ちに帰投する!」


 その場でゆっくりと宙に浮かび始める人型重機。この瞬間、私は残りの3人を助けられたことを実感した。

 そこで、ふとロジーヌに尋ねる。


「なあ、ロジーヌ」

「なんだ。シェリル」

「そなた、最初はこの重機に乗る人間を殺すつもりで、この重機の鋼を操っておったのじゃろう?」

「ああ、そうだ」

「それがどうして突然、王国軍を裏切って槍を払いのけたんじゃ?」

「この男が、シェリルを守ろうとしているのを見て、ああ、こいつらは敵じゃないって悟ったんだ。だから、私は裏切った」

「たった、それだけか?」

「ああ、それだけだ。シェリルが殺されたって言う嘘は、そのちょっと前に分かったがな。あの一撃で」

「それはそうじゃ。あんな大嘘、よくも魔導士に植え付けてくれたものじゃ!」

「ところでシェリル、お前、変わったな」

「そうか?どこがじゃ?」

「いや、明らかに肉付きが良くなった。特にこの辺りがな」

「おい、こら!どこを触っとるんじゃ!?」

「あっはっはっは!殺されるどころか、お前、いい暮らししてたんだな!」

「そうじゃよ。他のみんなもいるぞ。あの船に」

「ええっ!?みんないるのか!?」

「ヴィレンツェ王国の7人の魔導士、そしてカターリア王国の魔導士が1人じゃ。8人みんなで、残りの3人が揃うことを心待ちにしとったぞ」

「さて、シェリル。そろそろ着艦するぞ。準備はいいか?」

「こっちはいつでも良いぞ、セシリオ」

「ところでお前……この男とはどういう関係なんだ!?」

「まあ、いろいろじゃ。話せば長い。いずれ話す」


 3人にとっては、恐怖の象徴でしかなかった空飛ぶ砦に、今から向かおうと言うのである。不安と恐怖、そしてわずかな期待をもって、あのハッチの奥を見ていることだろう。

 格納庫に着陸する人型重機。扉をあけて格納庫に入ってきた整備長が叫ぶ。


「おい、なんだこれは!?また派手にやられたなぁ!」

「すいません、整備長」

「お前が謝るこたあねえよ。それだけ激しかったんだろう?今回の戦いは」

「そうですね。危うくやられるところでした。ところで整備長。いつものをお願いしたいんですが」

「ああ、分かってるよ、じゃあ、そこの3人の嬢ちゃん!順番に切ってやるから、ちょっと待ってな!」


 それを聞いたシビルが震えた声で私に尋ねる。


「き、斬るって……まさか私たちの首を……」

「そんなことするわけないじゃろ。首輪と、手枷を取るんじゃ」

「はいはい、ちょっとおっかないけど、我慢しててくれよ!」


 大きなペンチで、シビル、ロジーヌ、オレリーの順に首輪が切られる。また、オレリーの手枷も切られた。


「なあ、おい、シェリル」

「なんじゃ、ロジーヌ」

「いいのか?魔導士を自由にしても」

「魔導さえ使わねば、ここは自由じゃ。美味しいものも食べられるし、面白いところじゃぞ!」

「そ、そうなのか!?だからお前、ちょっとぽっちゃりとしてきたのか!?」

「何を言うか!毎日胸を揉んでもらっておるからの!それもあるのじゃ!」

「む、胸を、揉んでもらってる……?一体、誰に……」


 と、突然、格納庫の扉が開く。


「ああーっ!本当だ、シビルにオレリー、そしてロジーヌ!」


 そこに現れたのは、ウバルド大尉に抱かれたマリスカだった。それを見たロジーヌは、驚愕する。


「は?なんでマリスカが、大男に抱かれているんだ!?」

「えっ!?変かな?」

「いや、おかし過ぎるだろう!だいたいお前、あの一件で大男嫌いだったはずじゃないのか!?」

「ウバルドさん、優しいよ。ほら、こうして優しく抱っこしてくれるし」

「おい!なんだここは!?シェリルにせよマリスカにせよ……一体、魔導士に何が起きているんだ!?」


 ここでようやくオレリーが口を開く。


「マリスカ……変わったな……」

「そう?」

「私より無口だったのに、今は私よりもよく喋る……しかも、男に抱かれているなんて……」

「よくわからないけど、落ち着くんだよ、ここ」


 魔導士の中でも、目で会話をしていると言われていたこのオレリーとマリスカ。マリスカのあまりの変わりように、オレリーは無表情ながら、動揺しているようだ。


「ああ、おい!頼むから、みんな食堂にでも言ってくれ!これからこいつを修理しなきゃならないんだ!」


 と、整備長が叫ぶので、我々は食堂へと向かうことになった。

 そこで、ついに10人の魔導士が一堂に会する。カターリア王国のセイラを入れて、11人の魔導士が集まった。

 そこに出されたフライドチキンやフライドポテト、ハンバーガーにホットドッグ、アメリカンドッグなどをつまみながら、ワイワイと騒ぐ魔導士達。


「う、美味いな、これは!そりゃあシェリルのやつ、こんなの食べてればあれだけぽっちゃりと太るわけだ」

「ふ、太ってはおらぬ!女らしくなってきただけじゃ!」

「そう?胸より、腹が出てきたんじゃないの?」

「うるさいな!ごちゃごちゃ言わずに食べよ!」

「……ほんと、おいしい……マリスカが元気になるわけだ……」

「楽しいです~!それに、美味しいです~!嬉しいです~!」


 もうみんな思い思いに話をしている。が、まだ王国軍は外にいる。撤退を始めたわけではない。5体の陸戦隊の重機はまだあの大軍勢と対峙している。戦闘状態はまだ、続いているのだ。

 そんな中、私とセシリオが、交渉官殿に呼び出された。


「おお、来た来た。待っとったよ」

「どうしましたか?交渉官殿」

「いやなに、王国との戦闘を、終わらせようと思ってな。これからあのヴィレンツェ王国軍の陣地に赴くんだが、2人にも立ち会ってもらいたくてな」

「はあ、でも、なんで?」

「いや、魔導士と、その魔導士を一番救出した者が立ち会ったほうがいいかと思ったからじゃよ」

「一体、どういう交渉をするおつもりなのですか?」

「うむ。実はな……」


 哨戒機の格納庫に向かいながら話していた3人だが、交渉官殿は立ち止まって、私とセシリオの方を向いてこう言いだした。


「この戦闘で、魔導士は全員死亡。だが、王国軍は勝利し、わが軍は撤退に追い込まれた。そういうことにするつもりじゃ」


 この思いがけない交渉官殿の提案に、思わず私とセシリオは言葉を失う。

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