方向性
オヤジの店で働きながら、罠師の勉強を初めて1ヶ月がたった。
罠師として稼ぎを得ようとすると、やはりトレジャーハンターが1番メインの仕事のようだった。
他は、アイテムを作って売るくらいしかないようだ。正直、これは生活出来そうにないので却下だ。
となると、トレジャーハンターなのだが、これもまた気が向かない。
俺は作りたいのであって、バラしたいわけじゃない。金儲けにも差程興味はないのだ。
「おい、ジン!新人のヘルプに入れ!」
「あいさー」
そうそう。俺に後輩が出来た。てか、後任だな。
さすがに、オヤジの店と罠師の両立は難しい。数日出かけることも増えるだろうしな。
引き継ぎながら、オヤジがシゴいている最中だ。
今はホールに出て、店に慣れさせているところだ。
条件反射のように料理を運び、皿を下げ、会計をこなす。慣れればなんてことない作業ではあるが、初めの頃はもたついたものだ。
「ヘレナ、あそこ注文とってきて。
ついでに近くのテーブルから皿下げてきて」
「はいっ」
女の子なんだよなぁ、俺と同い年の。
ちょっと小動物っぽくて可愛い感じの子だ。
いい看板娘になれそうなのに、厨房志望なんだよな。
それはそれで、人気でるのか?
とりとめなく思考を巡らせながらホールと厨房を行き来して数時間。
やっと客足が落ち着いてきたので、彼女には何かあれば呼ぶように言ってから厨房へ戻る。
「オヤジ、皿洗い入るよ」
「頼んだ」
ヘレナも、もうちょっとしたら落ち着いてこなせるようになるだろう。
そうしたら、相談所で貰ってきた紹介状持って罠師を訪ねてみるかな。
書物では限界があるし、初めは実地で学べることを教えてもらおう。
そこから、解析と再現目指して研究するのもいいな。でもこれ、作りっぱなしになるよな。作ってからどうしたらいいんだ?
売れるかもわからん、貯めるだけって悲しいよな。
手を動かしながら唸る。
罠って何に使うんだ?
物によって用途が違うから一概には言えないとしても、何がある?
狩りで獲物を捕まえる、侵入者撃退、もしくは発見、・・・他に思いつかないな。他、イタズラ?
手がスカッと空を切る。
いつの間にか流しから皿が消えていた。
「終わってたのか」
布巾で皿を拭く。
罠の作成、設置なんて、まるでダンジョンだよなぁ。
ダンジョンは自然発生するものだし、人工ダンジョンなど以ての外。何より人を傷つけたり殺したりなどしたくない。守りたいもの隠したいものがあるでもなく、ダンジョンなど作るものではない。そんなもの作ったところで誰も来ないだろう。何もないのに挑戦するとか、得もない。損だけである。
・・・うん?
目的があればダンジョン・・・のような物には人が来る?
入場料とれば、生活出来るだけの金が稼げる?
「おい、ジン。何布巾振ってんだ?」
ん?
手元を見ると、皿はないのに皿を拭く動作だけしていた。
「あ、はは?すんません、考え事してました」
咄嗟に適当な言い訳も思い浮かばない。
そうそう布巾を振ることなんてないじゃないか。
「スキルのことか?」
「どうしたものかな、と。作りっぱなしってのも性に合いませんしね。作ったからには使われたいし」
「そりゃな。飯も作ったら食って美味いって言ってもらいたいもんよ」
「罠作って、上手い?うーん」
「罠かかったら、腹たつだけだな」
がははと笑ってオヤジはフロアへ行ってしまった。
閉店まで居座る馴染みと飲み語るんだろう。
後で適当にツマミでも持って行ってやるか。
「腹立つだけ、か。仕掛けた方は、嬉しいか?」
考えてみる。
腹立つ人ならスカッとするかもしれないが、知らない人がかかっても、何も思わないか不注意だなって思うくらいかもしれない。
「そうか、練習用の場所でも作ればいいのか?で、入場料をとる」
なんかいい考えのような気がしてきた。
その方向でいってみようかな。
ヒントをくれた、オヤジには感謝だな。
ツマミは少し奮発してやろう。
ま、店の物だから俺の懐は全く痛まないけどな!