ここじゃなかった
この世界では、誰しも1つだけ天性のスキルを1つ持って産まれてくる。後は、副スキルを複数。人によって数は違うけれど。
それを知る術はなく、感覚としてそれを認識するより他はない。
そんな俺は。
幼い頃から、漠然と物を作りたいと思っていた。
だから、そういったスキルが俺の天性のスキルなんだと思ってた。
でも、その『モノ』が何か分からない。
何かを作りたいという衝動だけがある。
だから、5歳になった時に鍛治職人に弟子入りした。
両親にも親方にも早すぎると言われたけれど、雑用でもいいから携わっていたいんだと熱意だけで押し切って押しかけた。
知識を蓄えながら親方達の技を見て学び、いつしかハンマーを振るうようになっていた。
弟子入りして5年。10歳になった。
俺は決断を迫られていた。
応接間に、俺と親方が向かい合って座っていた。
飾り気はなく、机とソファが置かれているだけの無骨な、鍛冶工房らしい部屋である。
そんな小さな部屋を重苦しい空気が支配している。
何故ここに連れてこられたのかは、自分が一番よく知っていた。
認めたくはなかったし、それを飲み込んで納得するのに随分時間がかかってしまったが理解はしていたのだ。
「・・・言いたかねぇが、お前に鍛冶はむいてねぇようだ」
そう、親方が切り出した。
言われても大丈夫だと思っていたけれど、涙が溢れ出た。
「すまねぇ、言葉がうまくなくてな。泣かせる気はなかったんだ」
俺の頭を乱暴に撫でた。
「お前は器用で努力家だったからな。誰よりも早く上達したし、技術も高かった。でも、天性であれば突き抜けられるところを、様子を見ていたが突き抜けられそうになかった。限界が見えたんだ」
親方はちゃんと見ていてくれたのだ。
数多の弟子がいる中で、俺を。
それだけでも嬉しかった。
「自分でも、気づいてました。なかなか認められなくて・・・」
「そうだろうよ。大人でも出来ないことを認めるのは難しいわ」
カッカと親方は笑った。
「これからどうするんだ?」
「調薬師を訪ねてみようと思っています」
鍛冶の次にメジャーなのが調薬なのだ。
もしかしたら、俺の天性はそっちなのかもしれないし。
突き進むしかない。
「そうか。ちょっと待ってな」
親方は部屋から出ていき、5分程して戻ってきた。
手には封筒を持っている。
「これは、ここと馴染みのある調薬師の婆さんへの紹介状だ。渡せば面倒を見てくれるだろ」
俺はそれを受け取りながら頭を下げた。
「ありがとうございます。明日早速行ってみます」
「おう、儂からも一言言っておくわ」
そうして、5年と言う決して短くはない時間を過ごした鍛冶工房と別れを告げた。