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マーマンの世界征服  作者: ベスタ
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8 超再生

 ステロールの謁見の間ではタコスの槍とダゴンの剣とがお互いを殺そうと競い合っていた。


「だぁぁぁっ!!」


 タコスの叫びとともに槍が突き出されるが簡単に剣で払われる。ダゴンは素早く懐に潜り込むと剣の柄の部分で強くタコスの腹部を強打する。


「あっく!!」


 そのままの勢いで吹き飛ばされるタコス。

 息をつかさせずに追い詰めるダゴン。痛みに意識を持っていかれ、気づかぬうちに近づいていたダゴンに慌てて槍を繰り出すが、その出鼻を剣の刀身でそらされてしまう。

 空いたタコスの顔面にダゴンの拳が叩き込まれる。


「ぐがぁっ!!」


 そのままの態勢で再び吹き飛ぶタコスだったが、今度はダゴンが追いかけてきていなかった。


「ふん。蹴りを入れるか」

「せめてもの抵抗だ」


 タコスは殴られた拍子に口の中が切れていた。口に溜まった血を口から吐き出す。

 血が海水と交わりあたりに滲んで行く。

 タコスは殴られた拍子にダゴンの腹に蹴りを入れていたのだ。殴られることを前提として。


 だが、戦いの流れは変わらない。

 タコスがボロボロになっていくのに対して、ダゴンはダメージを受けていないのだから。

 むしろ先ほどの蹴りが初めてダゴンに当たった攻撃といってもいいだろう。


 それほどに2人の戦力はかけ離れていた。


「お前はそれほど訓練をしてこなかったようだな。槍の腕前が低すぎる」

「後ろで指揮してればいい身分だったんでな」


 そういうタコスであったが、時折ティガに訓練をつけてもらっていたのだ。

 しかし、せいぜい簡単な護身程度の練習では目の前のダゴンに勝てそうにもなかった。


「たしかに大将は兵の後ろにいればそれで仕事をしていると言える。だが、いざという時に戦えなければ兵達も戦いづらかろう」

「意外なことに、同意見、だ!」


 攻めても守ってもダメだが、それでもタコスには攻撃の手をとめるわけにはいかなかった。

 守るよりは攻める方が勝率が上がるのだから。

 だがそれもダゴンの前では無意味となる。


 素早く剣を翻すと槍を両断する。

 唖然とするタコスの顔に手を返したダゴンの剣の柄が叩き込まれる。


「ぬがぁっ!!」


 吹き飛ばされたタコスは手から槍をとり落す。タコスとしては惜しくもない物である。使い物にもならない槍など邪魔にしかならないからだ。

 だが、武器が吹き飛ばされてはまともな戦いにもならない。


 ダゴンはタコスの様子を見てため息をつく。


「これではわしが勝ってしまうな」


 そういったダゴンにタコスは顔を無理やりあげる。

 ボコボコになりつつあるタコスの顔であったが、それでもニヤリと笑ってみせた。

 その顔にダゴンは不思議になり尋ねる。


「どうして笑う」

「意味なんかない。だが、俺様の仲間は往生際の悪い奴らばかりでな」


 拳を固めるとダゴンに向かって走るタコス。

 ダゴンの顔を殴らんと迫った左ストレートだったが、素早く下から跳ね上がるダゴンの剣によって肘を叩き斬られる。

 そのあまりの勢いに体勢が揺らぐタコス。切られた左腕をかばうように体を縮ませる。苦痛に顔が歪むが叫ぶのは止めない。


「俺様だけが降参なんかしたら笑われちまうんだよっ!!」


 体を縮めたタコスは腰にぶら下げていた剣を残った右手で抜きはなった。戦争に向かう前に護身用にとスイカから渡された剣である。

 拳の攻撃と、体を縮めることにより剣から意識を外したタコスの作戦勝ちであった。

 ほぼ突きに近いタコスの斬撃はダゴンの腕を肩から切り離した。


 ダゴンは呻きながらも距離を取る。


「ぬぅ…」

「骨を切らせて、骨を断たせてもらったぜ」


 お互いに負傷しながらも、剣を構えるタコス。

 少なくともタコスの顔に絶望の色は浮かんでいない。


「俺様にも、ハルカズムのベコが持ってた『雪降らし』みたいに特殊能力っていうのがあってな」


 タコスがそういうとふん、と気合を入れて切れた手に意識を集中させる。

 徐々に失ったはずの腕から先がモコモコと盛り上がり始める。それはすぐさま形を作り、元の腕の形になる。


 再び生えた手の感触を確認してタコスは告げる。


「『超再生』って名付けた。これで大叔父貴が不利になったな」


 剣を向けたタコスの先に、驚いた顔をしたダゴンがいた。

 あっけにとられたダゴンにタコスはニヤニヤと悪そうな顔を見せ優位を確信するのだった。


 それはそうだろう。

 ダゴンは腕を切り取られた。戦力は半分以下になったはずだ。

 それに比べタコスは被害を考えずにたたかい続けることができるのだから。長期戦になればなるほどタコスにとって有利になるのだった。



 言葉を失っていたダゴンは何とか言葉を絞り出した。


「そこまで同じとはな」

「何っ!?」


 ダゴンの言葉はタコスには聞き捨てのならない言葉であった。

 同じ、とはどういうことか。

 それはすぐに目の前に現象として現れた。


「ふん!」


 ダゴンの気合いとともにあっという間に肩から新しい腕が生えた。元と同じような手ができたのを確かめてから、今度はダゴンがニヤリと笑う。


「この能力は服が直せないのが欠点でな」


 そういって笑うダゴンを、タコスは忌々しそうに見ることしかできない。

 ダゴンは笑い終わるとタコスをまじまじと見る。


「しかし、先程から思っていたがわしとお前はよく似ている。運命のいたずらというやつも中々面白いことをしてくるものだ」

「俺様はその運命とやらを呪い殺したい気分だがな」


 タコスは吐き捨てるようにいった。

 これで状況はタコスにとって最悪となった。そもそも1対1の戦い自体がタコスにとって不利だったのである。そこでようやく奥の手を切ってタコスが有利になったと思えた瞬間、ダゴンにとっては何をしても致命傷にならないと教えられたのだ。


 勝てると思った直後の絶望。

 ダゴンは微笑むとタコスを面白そうに見つめた。


「今のは中々に楽しかった。往生際が悪いのだろう? こんなところで終わってくれるなよ」

「ふん! 当たり前だ」


 ダゴンの言葉に偉そうに答えるタコス。

 切り札も切ってしまい、もうタコスではダゴンに攻撃を加えることができない。たとえ出来たとしても回復されてしまう。

 タコスの勝ちの目は完全になくなったのだ。


 それでも諦めることだけはしないのだ。

 きつく睨むタコスを見てダゴンが言葉をかける。


「わしをもっと楽しませてくれ」


 それは、タコスにとって絶望の戦いであった。

 手に剣の感触を確かめるとタコスは全力でダゴンに向かっていくのだった。

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