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マーマンの世界征服  作者: ベスタ
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5 話すこと

 ライトは無言で退室した。

 タコスを信頼したわけでもないし、ダゴンが命令したわけでもない。


 タコスがいかに暴れようともダゴンを仕留められるとは思わない。

 ダゴンは生きる伝説なのだから。


 ダゴンの命令に従うまでもない。

 あれほど楽しそうなダゴンなどライトは初めてみるのだから。




 だからこそライトは自分の仕事をしに軍隊の前に戻った。

 20万の軍勢を集結させる。そしてそのあとタコス軍の前まで移動させる。

 たったそれだけの動きであったがとてつもない時間がかかった。


 もちろんタコス軍はそんなダゴン軍の動きがわからないわけがない。

 急遽構築した陣地内にこもり戦闘準備を始めていた。


「全軍、止まれ!」


 手を挙げて止まるライト。

 その動きに大隊の隊長が停止を指示、中隊の隊長が停止を指示、小隊が停止を行う。

 伝言ゲームのようになってしまうが、こうでもしないと動けないのである。

 20万の大軍というのはそれだけでもう、制御の難しい団体であった。


 全体が止まったのを見計らい、ライトが前に進みでる。


「この軍の今の統括者はだれか!?」

「妾じゃ」


 前に出て来たのは白い服に身を包んだ、ライトも知る真っ白な少女であった。


 スイカ。

 ライトがあった時は頼りなさそうなアーラウトの支配者であった。部下の動きすらも制御できておらず、タコスが一気に支配者に成り変われてしまう位に頼りない支配者であった。


「タコスは死んだか」

「タコスはダゴン様と会談されている。それとは別に、お前たちへの攻撃命令が下されている」

「そうか。存外ダゴンもけち臭い戦い方をするのじゃな」


 しかし、どうしたことか。

 スイカは立派に大将を務めていた。ライトの言葉にもしっかりと言葉を返してきている。

 背筋を伸ばし真っ直ぐに相手を見るスイカに内心驚いたライトであったが、今は戦争の最中である。油断を見せるわけにはいかなかった。


「お前たちのような雑魚にダゴン様はかまっておられんのだ。いつまでも好き勝手ができると思うな」

「手の中にあるタコス1人殺せんくせに何を吠えるか。大将不在の軍を攻撃とはよほどタコスが怖いと見えるな」

「この大軍が怖くはないのか」

「怖くはないな。数でたかろうと烏合の衆。蹴散らしてくれるわ」


 立派に虚勢をはるスイカ。内心は不安でしょうがない。

 だが、タコスから軍を任されているのだ。いざという時は頼まれているのだ。

 ここでスイカがしくじるわけにはいかなかった。


(お主が帰ってくるまで見事に大将『代理』を務めてみせようぞ)


 スイカの足は少し震えてきている。だが、敵にそれを悟られるわけにはいかない。

 こんな時、タコスならばどうしていただろう。


 不安に負けそうな心を叱咤するスイカ。脳裏にタコスの不敵な笑いが浮かぶ。

 そのタコスを思い出したスイカはニヤリと笑う。

 思いっきり悪く見えるように、相手を挑発して飲み込んでしまうように。


「つべこべ言わずにかかってくるのじゃ」


 白黒の世界でも映える真っ白な髪と肌がその存在を印象付けた。

 スイカは明らかに悪い影響をタコスから受けていたのだった。


 言うだけ言ってスッキリしたスイカが戻ろうとした時、ライトが声をかける。


「テルはいるか」


 これからいざ突撃という時に声をかけられたため、全軍が少しの間止まる。

 なぜライトがテルを呼び出すのか。


 その答えを知っているものはダゴン軍の中にはいない。

 そもそもダゴン軍の中にはテルの名前を知っているものがほとんどいないのだから。

 タコス軍には1番魚人がいない、というのがタコスの支配している海域以外の者たちが持っている情報である。


 テルはタコス軍の1番魚人であるが、本人にすら秘匿されているその情報は中々他の海域には広がらなかったのだ。


 それに比べてタコス軍は、ライトがテルを呼ぶことを不振に思わないものの方が少ない。だがどういった要件で呼び出されているのかは検討もつかない。テルが1番魚人であることと、呼び出される理由とが一般兵士たちには繋がらないのだ。

 テルとライトの、アカネに関する確執はほとんどのものが知らないのだから。


「テル…」

「安心しろ、フーカ」


 フーカに心配されながらもテルは前に進んでいく。

 呼び出されたからには逃げるわけにはいかない。堂々と前に進んでいくテルであった。


(案外タコスもこんな気持ちだったのかもな)


 前に進みでるとライトが離れた位置から声をかける。


「私はお前を許すことはない。これから行われるのは表向きはダゴンとタコスの支配者を決める戦いだ。だが、私にとっては仇討ちの場に過ぎない。絶対に殺して見せる」


 ライトは剣をテルに向けて宣言する。

 剣を向けられたテルは動じることなく言い返す。


「お前の気持ちもわかるし、同情もできる。だが、死んではやれない」


 それは今までのテルからは思いもよらない言葉であった。

 今までのテルであれば、強気な発言をしたのだろう。だが、心の奥底で優しさを持っているテルは同情して苦しんだだろう。


 今のテルにはそんな悠長な心は持ち合わせていなかった。

 優しい心を持ったまま、強くなったとでも言えばいいのだろうか。


 テルとしては自分を守る言葉を使いたくなくなっただけであった。

 殺しを正当化して自分を騙して生きるよりかは、自分に正直に前を向こうと思っただけである。

 殺すことは悲しいことかもしれないけれど、必要があれば躊躇をしなくなっただけなのだ。


 生きることは残酷なのだから。


 テルの態度にライトは笑う。


「よし、ようやくまともになったな。これで遠慮なく殺せるというもの」


 テルは素早く自分の陣地に戻る。

 それを見計らいライトが手を振り上げる。ライトの命令が振動となって戦場を覆い尽くした。


「第1大隊、突撃!!」

「「「「「おおおおおおお!!!!!!!」」」」」


 ダゴンの部隊が地響きのような音を立てて迫り来る。


「全軍、構え! 魔法部隊、敵を減らせ!」


 魔法が放たれる音、地響き、雄叫び。

 最後の戦いがついに行われたのであった。

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