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マーマンの世界征服  作者: ベスタ
18/18

17 世界征服

 陸地には人間が住む都市があった。

 人間は発展を続けて、他人種よりもはるかに優れた技術体系を持ち、他人種を圧倒して世界に君臨していた。

 やがて、人類は戦う相手を求めてさまよい、人類同士で争うこととなった。


 戦争の終わらない世界に、自室で祈りを捧げていたある教会の総司教はハッとする。

 そして急いで部屋の窓から空を見上げた。



 真っ暗な夜空を切り裂くように斜めに流れ星が落ちていった。



 その後も空には数々の星が、何事もなかったかのようにきらめくだけであった。

 総司教はそれをだまって見上げていると部屋のドアが少し乱暴に開かれる。


 それは総司教が少々乱暴で手を焼いている部下であった。


「総司教様! 戦争で怪我をした人が担ぎ込まれています! 至急見てやってください!」

「ええ、準備をして行きますね」


 心が洗われるようなにっこりと笑う総司教をみて部下は安堵のため息をつき、総司教にお祈りをした後、またもや扉を乱暴に占めると走って遠ざかっていった。


 部屋に再び1人となった総司教は回復魔法の準備を整えると、それらを箱に入れて急患に対処しようと部屋を出ようとする。

 そして立ち止まり再び夜空を見上げる。

 そしてポツリ、と呟いたのだった。


「非常食が死んだか」


 気持ちを切り替えると総司教はすぐさま部屋を出ていくのであった。






 マカレトロでは多くの食事が広げられていた。

 場所はステロールの城跡地。

 残念ながら半壊した城は広間として今は有効活用されているのであった。


「あぁっはっはっはっはっは!!!!!!!」


 タコスの馬鹿笑いがこだまする。

 目標であった世界征服を成し遂げたのだ。それは夢を成し遂げた喜びの馬鹿笑いであった。

 結局のところ、戦争自体は敗北に近い状態ではあったが、総大将であるダゴンを倒したタコス軍は反抗の意欲もなくなったダゴン軍を支配下に置くことができた。


「はーっはっはっはっはっはっは!!!」

「よくもあれだけ笑っておられるものじゃ」


 となりにいるスイカが呆れたように耳を塞いでいる。

 基本的に支配者の声はよく通る。

 その声で馬鹿笑いしているのだからうるさすぎるほどであった。


 だが、まあ今回の戦いではタコスが戦いの趨勢を決めたので、止めるものはいなかった。


「だあっはっはっは………」

「うるさいわ!! このスカタコ!!」


 バコン!


 いなかった。過去形である。

 頭を抑えながら睨みつけるタコス。


「痛えじゃねえか、何しやがる!」

「うるさいものはうるさい!! それよりほれ、やるべきことがあるじゃろ」


 そう言って同じくタコスの隣に立って苦笑している一二三を指差す。

 一二三の手には多くの装飾品が積まれていた。


 今回のパーティはただの食事会ではない。

 今まで戦ってきたものたちの苦労をねぎらう会でもあったのだ。


「そうだったな。つい愉快すぎて笑ってしまった」

「本物のアホじゃな」


 なぜ妾はこんな男を、と嘆くスイカの声を無視して、タコスは周りを見渡す。

 そこには長い戦いの日々を共に駆け回ったもの達がいた。


 彼らの顔を見るとタコスは世界征服をしたという実感が湧いて来るのであった。

 元はダゴンの生きる気力を取り戻すための目標だったが、今はタコスの夢となった世界征服を。


「面倒臭いが、大事なことだから1人1人きちっといくか」


 そう言ってタコスは一二三が持ち上げている以外の、後ろに山と積まれた宝飾品を見て気合を入れ直した。

 なにせ功績の大きいものがほとんどなのだ。


 用意する金銭の量に頭を抱える内政官達が、もう少しケチりませんかと訴えてきたのだが、これにはムジナと一二三が断固として反対した。


「褒賞はケチったらあきまへん。それをしたら国は終わりです」

「今後何かあった時に誰もついてこなくなるでしょう。借金をしてでも褒賞は与えなければならないのです」


 事は国の根幹に関わる事である。

 だからこそ慎重に検討した結果、これだけの大事となったのである。


「まずはティガから行くか」


 そういって、いくつかの金の粒と宝石を与えられる。

 ティガは照れながらもそれを受け取る。

 みんなの輪に戻っていったティガは誇らしく周りに見せていた。


 正直、ティガが1番褒賞をもらっているのである。

 全ての局面でティガが勝利の条件全てに関わっているということでの褒賞であった。


「次々いくぞ! 次は史郎…………」





 そうやって、みんなへ次々と褒賞が配られていく。

 褒賞を受けたものは自慢げに見せびらかしたり、周りから冷やかされたりと色々な反応を見せた。ただ、例外なくみんな嬉しそうなのが印象に残った。


「ほら、ノエ。お前も取りに来い」

「あれ、自分もッスか」


 テルの口から顔をのぞかせたノエが驚いていた。

 なにせ戦闘に関しては全く貢献していないのだ。ノエは褒賞を貰えないであろうことに文句も言わず、周りの反応を楽しむために会場にきたといっても良かった。

 正確には喜ぶテルと一緒に居たかっただけではあるのだが。


 肝心のテルより先に名前が呼ばれて慌ててタコスの前に行くと、タコスが見下ろしてきた。

 最大化したとしてもノエはそれでも誰よりも身長が低いのだから。


「おら、これだ」


 タコスがいくつかのお菓子をノエに渡した。

 それはブドウや焼き菓子といったものである。テルの口の中に住むノエにとってはお金や宝石よりも食事の方が良かったのだ。


 それを見たノエのお腹がくうと鳴り、たははと恥ずかしそうに笑って受け取ると急いでテルの口の中に隠れた。

 よほど恥ずかしかったのだと思われる。


「ノエ、口が甘酸っぱい」


 早速食べ初めているのだろう。ノエの住処はテルの口の中なのでテルにも味がわかるのだった。

 その後も次々と名前が呼ばれて行く。

 それでもテルの名前は呼ばれない。


 そして最後に一二三からいくつかの道具を受け取るとタコスはニヤッと笑った。


「ほら、お前も前に来い」

「私は後で勝手にもらいますよ」

「いいから、ほら!」


 断っている一二三を無理やりみんなの前に立たせると、タコスは金の粒とバッチのような宝飾品を渡す。


「お前は参謀長としてみんなに見えるように褒賞を受け取る義務があるからな」

「効果的なのはわかりますが、恥ずかしいですね」


 照れながら受け取ると、一二三はテルを見た。

 そして嬉しそうに手招きする。


 他の人のようにタコスが名前を呼ばないので不思議に思って一二三に近づくと、一二三はすれ違いざまにテルの肩を叩いた。

 そちらの肩は傷がまだ治っていない方の肩なので激痛に顔をしかめたが、一二三は笑って言った。


「次は兄さんですよ」


 その言葉に顔を前を向けるとタコスがニヤニヤと悪そうな笑顔を浮かべていた。

 そして、テルの手に指輪を渡す。

 台座が付いているものの、宝石など付いていない指輪である。不思議に思ってタコスに顔を向けると笑いながら台座を触ってみろ、とジェスチャーをするタコス。


 不思議に思って触ってみて、ようやくテルは理解する。

 そして非常に驚いたのだった。


 テルの触っている指輪の台座の先に確かに何かがあるのだ。

 目を凝らしてみるとその輪郭が見えてくる。タコスは笑って言った。


「お前の褒賞はそのアクアマリンの指輪だ。水の宝石と言われていてな。人間が作り出したものだが、俺たちにはなかなか見つけられない宝石で価値はなかなか高いんだぞ」


 テルはなるほどと思った。

 まるで海水をそのまま削り出したかのような宝石は、確かに海の中に落ちてしまえば見つける事は難しいだろう。


 ふと目を話すと宝石と海水との境界線があやふやになるのだ。

 希少価値という意味であれば随分と高いことになるだろう。

 テルは自分の指にはめるとよく見るために空に掲げる。天井なんてものは爆発して半壊した城には存在しない。


 天に手をあげたテルの姿に歓声がわき上がり、テルは驚いて振り返った。

 みんながそれぞれの言葉でテルのその勇姿を褒めてくれる。

 誇らしい気持ちになり、確かに褒賞は大事なんだなと思ったテルであった。

 みんなの歓声に手を振って応えていると、後ろからタコスの声が響く。


「……これからも俺様を手伝ってくれ」


 その言葉は小さい言葉だったが、みんなの歓声にも負けずテルの耳に届いた。

 振り返ったテルはしっかりとタコスに頷くとみんなの元へと向かった。


 兄弟たちが次々とテルの元へと向かってくる。

 そして口々におめでとうと言って祝福してくれていた。


 共感能力が元に戻ったテルには兄弟たちの心の声は聞こえない。

 やはり頭を打った時の一時的な能力だったらしい。


 だが、今は兄弟たちの心の声が聞こえなくても問題なかった。

 眼に映る人々が心からの祝福をくれていることがわかるから。


 そんなテルを見て、タコスは自分の頭の上に金の王冠をかぶせた。


「こいつは俺様用の褒賞だな」


 タコスは自分の頭の上に乗った王冠を満足そうに見上げていると、腕を引っ張られる。

 何事かとみると、スイカが怒った顔でタコスを見ていた。


「妾の褒賞がないのじゃが?」

「あ」


 すっかり忘れていたタコスであった。

 その思わず漏れた本音にスイカの顔が怒りに震え始める。慌てたタコスだったが、すぐさま冷静になると笑って言ってやった。


「なんてな。ちゃんと用意してるぞ」


 そうやって自分の頭の上をさす。そこには先ほど載せたばかりの王冠が乗せられている。


「俺様は王になったんだ。つまりお前は王妃だ」

「な、何を?」


 急に言われて混乱しているスイカの背中に手を回す。そしてそのまま有無を言わせず口づけを交わした。

 触れるような簡単なキスであったがすぐに顔を話すとニヤッと悪そうな笑顔を浮かべる。


「これが俺様からお前への褒賞だ、スイカ」


 その姿に少しの間見惚れたようになっていたスイカであったが、腕を組んで胸をそらした。


「ふんっ。くだらないごまかしじゃが、今はこれで我慢しておいてやろう」


 赤くなった顔のままで強く言い放った後、にっこりと笑いかけるスイカ。


「今はな!」


 そんなやりとりに黙って見ていたテルは自分の方が顔から火が出そうな気持ちであった。

 ただ、今はそんなことでも純粋に祝福できる。


 みんなが祝福し、祝福されている。

 周りにはテルの兄弟たちがいる。生まれた時の全員ではないがそれでもジンカしてからは1人もいなくならずに100人のイワシ魚人たちはここまで戦ってこれたのだった。


 横を見ればティガもフーカもいる。口の中にはノエもいる。

 タコスもスイカもオームも祝福してくれている。

 この世界には家族がいる。


 海はどこまでも限りなく青く、太陽は全てを明るく照らしてくれている。

 魚たちが暮らしていて海藻が揺らめいている。


 時々暗く怖い場所、理解の及ばない不思議なところや理不尽な悲しみもあるけれど。

 この世界は祝福に満たされている。


 だからテルはこの世界で生きていくのだ。

 この世界には共に生きてゆく仲間がいるのだから。










 これは海の中の物語。

 ひとりの魚人とその兄弟達が成し遂げた、長く険しい祝福の旅路である。

これにて筆者のマーマンシリーズ7作品は完結いたします。

長い間読んでくださりありがとうございました。

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