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Flag93:事前調査をしましょう

 アナトリーさんに海龍の巣について詳しく聞いていきますが誇張されている部分があると考えてもかなりの難所には間違いなさそうです。一度席を外し操舵室へと向かい電子海図表示装置にその近辺の海図を表示させて先ほどのアナトリーさんの話と合致する場所を探していきます。一応候補としてそれらしき場所は2か所ありますね。周辺の地図とともにそれを紙に書き写し操舵室を後にします。


「話を聞いた内容からするとどちらかだと思うのですがこの地図でわかりますか?」

「こちらです。これもギフトシップの力ですか。恐ろしい」

「使う方としては便利なのですけれどね」


 書かれた地図を見たアナトリーさんが恐れにも似た表情をしながらそれでも迷わず片方の地図を指し示しました。そちらの地図をテーブルの上に置き、アナトリーさんに聞き取りながらそこへ難所を記していきます。やはりただ話を聞いているより視覚化するとよくわかりますね。水路の幅が様々に変化していますので流れの速度や向きが刻一刻と変化していくでしょうし。


「最大の難所はここです。海龍の牙と呼ばれています」

「海龍の牙ですか?」


 ゴールまであと少しと言ったところをアナトリーさんがこつこつと叩きます。


「ここは島と岩礁に囲まれていて船が出入りできるような場所は入り口と出口の2か所のみ。しかもそこには急激な渦が巻いていてその中心に巻き込まれればいかにギフトシップだとしても沈没はまぬがれないでしょう」


 どうやら最後の最後に最大の難所があるようです。円の形をした空間があり入り口を6時と考えるとおよそ1時の方向に出口があるのですが中心を通れば船が渦に巻き込まれ、渦を避けようと外を走れば周りの岩礁にぶつかってしまう。いかにぎりぎりで渦の流れに乗りそして渦の流れを脱出するかがキーになって来そうですね。

 漁船であれば自力で走ることが出来るため難易度は下がるのでしょうが、通常の船であれば風を読みタイミングを計って侵入しなければいけないでしょうから確かに難所でしょう。

 それにしても……


「アナトリーさん、詳しいですね」

「……実際にここで私たちは失敗した。忘れたくても忘れられない場所です」

「そうでしたか。悪いことを聞きました」


 沈痛な面持ちのアナトリーさんを見ればそこで何があったのか予想がつきました。だからこそ彼は自分に操舵する資格がないなんてことを言っていたのでしょう。そうした経験のない私にはかける言葉がありません。いや、あったとしても当事者でない私の慰めの言葉など薄っぺらいものになってしまうでしょう。時が癒すのを待つしかないのかもしれません。

 とりあえずおおよその経路は確認が出来ましたし、後聞くことと言えば……


「この場所は何度でも挑戦できるのですか? 例えば途中まで入って戻ってくるのを繰り返せば時間はかかりますが成功確率は上がると思うのですが」

「それはダメです。あそこはダークエルフにとっても1度きりの試練の場ですから」

「そうですか」


 うーん、アナトリーさんのこの拒否反応を見ているとやめておいた方が無難ですかね。安全をとるならその方が確実なのですがもし出入りを監視されていて発覚した場合に手ひどいしっぺ返しを食うのが目に見えていますし。他の方法を考えるしかなさそうですね。とりあえずいくつか確率を上げる方法は考えつきましたので試してみるしかありませんね。


「入らなければ大丈夫なのですよね。近くに停泊する程度であれば」

「そうですね」

「ふむ、何とかなるかもしれませんね。まあ実際にあちらへ行ってみないと何とも言えませんが」

「では!」

「はい、ダークエルフの方々と交渉することはエリザさんのことがなくても有益でしょう。なかなか独自の情報網を持っていらっしゃいますし、面白いことも多そうですから」


 ちらっとアナトリーさんを見ながらそう言えば彼は私と目を合わせないように逸らしています。命令して聞く方が早いのでしょうが、彼の話を聞く限りその海龍の巣を抜けさえすれば対等に話し合いに応じてくれそうですしね。アナトリーさん自身も理知的な方ですし。

 もちろんリスクは存在します。しかしダークエルフと目的が一致しており味方に出来た時のメリットもまた大きいのですよね。まあその辺りは現場を見てから考えましょう。命を懸けるしかない高いリスクだとわかったなら諦めれば良いのですしね。





 それから3日、私は海龍の巣を攻略すべく準備を進めました。そしてできうる限りのことをした上で海龍の巣を目指して漁船を出発させました。同乗しているのはアナトリーさん、エリザさん、マインさんの3人です。

 本心で言えば私とアナトリーさんだけで試練を乗り越えて安全を確認し交渉できるようになってからエリザさんたちを連れてきた方が良いかとも思ったのですが、エリザさん自身の意思とアナトリーさんのその方が良いと思うと言う一言で連れていくことに決まりました。ダークエルフのことはほとんどわかりませんからアナトリーさんの言葉を信頼するしかありませんしね。


 目的の海龍の巣、というかダークエルフの住む群島がある場所はランドル皇国のリーラントの港から南に60キロほど行った場所です。まるでランドル皇国と獣人の国を遮るように横に広がった群島なのですがもちろん密集しているのは一部だけなので普通の場所であれば船が通ることも出来ます。しかし死角が多いですし岩礁も多い。中々に厄介な場所にダークエルフの方々は住んでいるようですね。


「見えました」

「あれが海龍の巣なのですね」

「ええ」


 前方に地面を2つに割るようにして水路が伸びている島が見えてきました。海図で確認した通り曲がりくねっているようでここから見えるのは少しの間だけです。これが海龍の巣ですか。そう言われると何というか威圧感があるような気がしてきますね。


「では島から少し離れた場所に船を泊めますね」


 海龍の巣を見ている3人にそう告げて見える位置に船を泊めます。そして船倉からごそごそと目的の物を取り出します。そんな私の様子に気付いたエリザさんがこちらへとやってきました。


「何をしているのですか、ワタルさん」

「あぁ、ちょっと海龍の巣を調べるための道具を用意しているんです」


 私が取り出したのは4つ股に分かれた真っ白なボディのその先にプロペラをつけ、その体の下にカメラをつけたいわゆるドローンと言うものです。中に船で入るのはダメという事でしたので他の方法で確認するしかありません。事前調査もなしに入るなんてことは私には考えられませんしね。


「なんですか、それ?」

「ドローンと言って空中を飛んで映像を送ってくれるものなのですが……うーん、見た方が早そうですね。少々お待ちください」


 いつの間にか来ていたマインさんとアナトリーさんにも見守られながら準備を進めていきます。そして事前の準備が整ったところで本体の電源を入れ、専用のコントローラーを操作していきます。プロペラが回転数を上げ比較的静かな駆動音を立てながらドローンが空中へと飛び上がりました。


「「「おぉ」」」


 3人が同じように驚いています。しばしの間その場でホバリングさせそして海龍の巣へと向かってドローンを操作していきます。


「あっ、ワタルさん。行ってしまいましたよ」

「はい。私が操作していますので問題ありませんよ。ドローンの駆動時間はあまり長くありませんので急がないといけませんから。とりあえず3人ともこちらに来てください」


 操縦に神経を使うようになる前に3人を呼んでおきます。このドローンは最新式ですので比較的長時間飛ばすことが可能ですがそれでも限界は40分です。バッテリーの状態などを考えれば30分を超えたら危険と考えた方が良いでしょう。

 私が持つコントローラーにはタブレット端末が接続されておりドローンが撮影した画像がリアルタイムで送られてきています。それを見ながら海龍の巣へ向けてドローンを操縦し続けます。


「なんだ、これは!?」

「あの物体が見たものが映し出されているのですか?」


 男性陣が食い入るように私の手元のタブレットから流れる画像を眺めています。エリザさんも無言ですが画面に目が釘付けです。


「まあこういったように空中から映像を送ることが出来る物です。船で中に入るのはまずいですが別にこれならば構いませんよね。見た目は違いますが鳥と同じようなものですから」

「ああ、おそらくは大丈夫です」


 歯切れの悪い回答ですがまあ大丈夫だと信じましょう。前例がないでしょうからはっきりと判断できないのは仕方がありません。

 ドローンを水路の中を進ませていきます。実際私のドローンの腕は大したことがありません。しかしこのドローンは衝突回避機能や操作が何らかの事情で受け付けられなくなった時に自動でホバリングする機能など補助的な機能が充実していますので少し安心して操縦することが出来ています。まあその分価格も20万弱とお高めなのですが。


 アナトリーさんの説明を受けながら20分ほど水路の中を進ませてそこまでで調査を一旦やめてドローンを帰還させます。一応予備も持ってきてはいますがさすがに失いたくはありませんから。


「しばらく、1週間程度ですかね。このドローンなどを使って海龍の巣を調べます。そして行けると判断したら行きましょう」


 3人がうなずきました。それから1週間、何度もドローンを飛ばし木片を入り口の辺りにまいて流れを把握したりという事を繰り返しました。アナトリーさんが言っていた海龍の牙と言う場所も確認しましたが、中心部の海面が凹むほどの勢いで渦を巻く姿はアナトリーさんの話が真実であることを如実に表していました。あれに巻き込まれれば漁船と言えど操縦不能になってしまうでしょう。

 しかし私の下した結論は行くということでした。まあ理由はいくつかあるのですがおそらく行けるでしょう。そのために1週間この場所で調査したのですから。

 頭の中でシミュレーションは終わっています。船の先頭には命綱をつけたアナトリーさんが立って私に指示をくれる予定です。振り返った彼は決意に満ちた顔をしていました。そんな彼に微笑み返しながら船を発進させます。

 さあ海龍の巣を踏破してみましょうかね。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【フランスとイギリスの船の違い】


フランスとイギリスを代表する船であるノルマンディー号とクイーン・メリー号を比較した言葉として次のような言葉があります。

「フランス人は華麗なホテルを造ってそれを囲むように船をあつらえた。イギリス人は華麗な船を造ってその内部にホテルをしつらえた」

二つの国の個性を現す言いえて妙な表現です。まあ個人的にはどちらも豪華であることに変わりはないと思ってしまうのは庶民感覚だからでしょう。


***


お読みいただきありがとうございます。

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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
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少しでも気になった方は読んでみてください。

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