Flag87:海賊について聞きましょう
エリザさんの生存とランドル皇国の産業革命の兆しについてカールさんにリークしたわけですが、私の生活が変わったかと言うとそう言う訳でもありません。伝えた情報だけで信じるようなら町の領主なんて出来ないでしょうからね。現状としては探りを入れているところでしょう。地理的に1番近いハブルクの繊維工場が第一候補でしょうかね。
一応獣人奴隷の方々の証言からある程度の位置の予想は出来ていますので大幅にずれることはないでしょうが警戒されているでしょうしうまくいくのでしょうかね?まあ見つからなくても変に警戒されている場所があるという情報だけでも十分に有益なのでしょうが。
もう1つの懸念だったことも残念ながら起こっています。簡単にいえばエリザさんと会う、もしくは狙うためか不審な船がキオック海へとやってくるようになったことです。
最近私やアリソンさんがこの海域を通って取引をしていることが徐々にではありますが広がっていることもあるのか情報を流して1か月の間に10隻以上の船がキオック海へと侵入を試みていました。今後のことも考えて被害をあまり大きくしたくなかったのでローレライの方々に警告の意味を込めて姿を見せてもらったりしたのですがその内の2隻については無視して侵入しようとしましたので残念ですが沈んでいただきました。
こうなるだろうことはわかっていたのですがね。それでも気分が良いものではありません。人を死なせてしまったこともそうですが、それをローレライの方々にお願いしているということも含めて。
トッドさんたちにもそう言った船が来る危険性をお伝えしたのですが、むしろエリザさんのためになるならば、と喜んでいましたので大丈夫でしょう。そもそもその島には獣人奴隷の方々が100名以上いらっしゃいますので島への上陸を許すつもりはないのですがね。
しかし万が一と言うこともありますので多少の武器や防具を購入しトッドさんに管理していただいています。もし何かあった時は獣人の奴隷の中で戦える人に渡して自衛してもらうために。トッドさんに奴隷に武器を渡して良いのか聞かれましたが、基本的に武器を渡しても正当防衛や仲間を守るため以外では人を傷つけることは出来ませんし、冒険者に買われて一緒に戦っていた方もいるのです。そういった方が独り立ちするときにはある程度武器などの支援も行うつもりでしたからそのための武器を流用するだけと考えれば損ではありませんしね。
今のところ商人ギルドへ領主のスチュワートさんからの要請なども無いのでとりあえず状況が動くまでは様子見です。という事で私は以前と変わらずルムッテロの町とハブルクの町を行ったり来たりしながら過ごしていたわけですが……
「奴隷船を狙う海賊ですか?」
「最近増えているようじゃな」
「そうですか。しかしそう言った海賊船が出るのはさして珍しくないのでは?」
ハブルクの町に砂糖と胡椒を運びにツクニさんの商会へと言った時にヒューゴさんから耳に入れておきたいことがあると言われて聞いたのがそんな内容でした。
「まあそうじゃな。昔から奴隷船を狙う海賊はおった。奴隷を買いに行くときは食料品やら貴金属やらいろいろと積んでいくからのう。しかし今回は逆なのじゃ」
「つまり奴隷を積んだ船を襲う海賊が出たと」
「そうじゃ。今月に入って既に2隻。最初の1隻は何とか逃げ切れたようじゃが、もう1隻来るはずの奴隷船が来ておらんからおそらく襲われたのじゃろうと言う話じゃ」
「ふむ」
話を聞いて少し思考を整理します。海賊が奴隷船を襲うという事は理解できます。ヒューゴさんが言った通り奴隷を買い付けに行く時の奴隷船は食料や貴重品などの取引の材料を積んでいますからね。それは海賊にとっては喉から手が出るほど欲しいでしょう。
しかしその一方、奴隷を積んだ船を襲撃するメリットなど海賊には無いのですよね。積んでいるのはほとんど奴隷だけで食料も最低限ですし貴金属などもありません。奴隷目的という事も考えないではないですが、奴隷船には数百人が積まれているのです。奴隷契約の首輪もしていないので労働力として無理やり言う事を聞かせることも出来ませんし、少量の奴隷が必要なのであれば買いつけに行く奴隷船を襲撃して、そのお金で奴隷を買った方がメリットは大きいでしょうし。
可能性として考えられるのは獣人を売っている人々がわざと海賊に船を襲わせて奪った奴隷たちを再び売りつけると言う、まあいわゆるマッチポンプが行われているという事ですがそれならば昔から行われていても不思議ではありませんしね。何らかの事情があって、もしくは思いついて始めたと言う可能性もありますが。
「気になるのはもう一点あってな、その海賊なのじゃがどうやらダークエルフではないかと言われておるのじゃ」
「ダークエルフ、ですか?」
「まあいわゆる海エルフじゃな。獣人の大陸との間にある小島群に住んでおる少数民族なんじゃが独自の生活をしておるようでそもそも交流がなくての良く分かっておらんのじゃ。しかし1隻目の奴隷船の生き残りがダークエルフを見たと言っておるようじゃな」
「そうですか。うーん、どうすべきでしょうかね」
このまま放置すると言うのが私個人にとっては現状を変えることなくもっともベストな方法でしょう。もしかするとランドル皇国がそのダークエルフを討伐するために船を出すかもしれませんがこちらに影響はありませんしね。そして危険もありません。
一方でこの状況と言うのはある意味でチャンスでもあります。そのダークエルフがどうして奴隷船を襲っているかと言う理由にもよりますがうまくいけばエリザさんたちにとって良い状況へと変わる可能性があります。人材もそのための道具も今はありますし。もちろん危険はありますが試してみる価値はあるかもしれませんね。とりあえずは相談する必要がありますが。
「貴重な情報ありがとうございます」
「なんのなんの。奴隷に落とされ絶望していたところを助けてもらったのじゃ。この程度恩返しにもならん」
カラカラと笑うヒューゴさんの姿はキゴーリ奴隷商会で見た時とは真逆です。忙しそうに働いていますがそれでも目が生き生きとしています。商会の売り上げも上々のようですし、ツクニさんを教育するのも楽しいようですね。まあそのせいでツクニさんの顔色がまずいことが多いのですが、リエンさんに癒してもらっているようですので大丈夫でしょう。
「それでは帰ります」
「じゃあの。お嬢様によろしく伝えておいてくれ」
「はい」
ヒューゴさんとあいさつを交わしファンさんに護衛されながら港へと向かいます。さてダークエルフですか。話が通じる方々だと良いのですがね。
役に立つかわからない海の知識コーナー
【世界最初の海軍】
世界で最初の海軍と言われているのがクレタ島のミノア人により、貿易の利益を守るために作られたものです。
ミノア人は地中海交易により発展した人々でありクノッソス、マリア、ファイストスなど各地に宮殿を建てるほどに栄えましたが、やはり交易船を狙う者には苦労していたようで紀元前16世紀のフレスコ画にミノア海軍を描いたものがあります。現状で残っている資料ではこれが最古の物ですが、もしかするともっと昔からあったのかもしれませんがね。
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