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Flag74:商人ギルドで相談しましょう

 住人の方に商人ギルドの場所を聞き、そちらへと向かって歩いていくと程なくして目的の建物が見えてきました。外観はルムッテロの商人ギルドと全く同じで木造建築のように見えますがやはりここも内部はレンガで作られているのでしょう。

 そう言えばなぜわざわざこんな風にしているのか機会があれば聞こうと思っていたのですが忘れていましたね。まあ別に良いでしょう。見つけやすいことに変わりはありませんし。


 ギルドの扉をくぐり中へと入ります。清潔で整えられたロビーの奥に受付窓口がありますね。内部の構造もほぼ同じのようです。受付をしていらっしゃるのは人間の方だけで獣人の方はいらっしゃらないようですね。その中のあいている窓口へと2人で向かいます。


「いらっしゃいませ、ハブルクの商人ギルドへようこそ」

「こんにちは、ワタルと申します。こちらは妻のミウです」


 ミウさんが頭を少し下げながら静かに微笑みます。受付の方がほぇ~とよくわからない感心の仕方をしていますね。確かにもともとミウさんはおきれいな方でしたし、今のように服や髪形を整えれば深窓のご令嬢と言っても過言ではありませんしね。それにしても独特な驚き方です。漏れそうになる笑いをこらえます。


「私たちは故郷で飲食店のオーナーをしておりまして、この町に支店を出したいと思っているのですが」

「あっ、はい。えっと物件の情報ですね。ええっと確かこの辺りに資料が……」


 受付の下にそう言った書類をまとめたものがあるらしく受付のお嬢さんが身をかがめてごそごそと物音をたてています。そんな様子に隣の受付の方が一瞬ですが厳しい視線を向けてきました。うーん、ちょっとはずれを引いてしまったかもしれません。必要な資料が整理できていないというのは受付嬢としては致命的ですしね。


「あっ、ありました。この辺りが現在空いている店舗の一覧ですね。見ていただいて気になる物件がありましたら案内することも出来ますよ」

「そうですか。それは助かります。後、物件以外に料理人の方を紹介いただくことは出来るでしょうか? 基本的にその方に店を取り仕切っていただこうかと思うのですが」

「ええっと、どういう事でしょう?」


 首をひねっている受付嬢の方にエリザさんたちへと説明した内容を伝えていきます。何度もうんうんと首を縦に振っているのですが疲れないのでしょうかね。もちろん危険が云々の話は省かせてもらっていますが。


「ほへぇ~。そんな商売のやり方があるんですね」

「はい。私の故郷では一般的だったのですがこの辺りではなかなか見かけないようですね。それで料理人の方を紹介いただくことは出来ますか?」

「そうですね。出来ると言えば出来るのですがお勧めはしませんね」

「えっとそれはどういう事でしょうか?」


 よくよく聞いてみるとランドル皇国の飲食店は基本的に家族経営が一般的で人手に関しては奴隷を使用しているところが多いそうです。普通は長子がその家を継いで料理人になり、それ以外の子は兵士や文官など奴隷が出来ない仕事を小さいころから目指すので基本的に余っている料理人と言うのがいないとのこと。たまに料理人を目指して弟子入りするような変わり者もいるけれど現状で独立を許されそうなほどの人はギルドは把握していないそうです。

 弟子入り中の方を紹介することも出来るそうなのですがそれもその店といらぬ軋轢を生みそうですので遠慮しました。同業種の健全な競争は望むところではありますが、現状ではそう言った禍根になりそうなことを起こすべきではありませんしね。


 うーん、計画が最初から頓挫してしまいましたね。さすがに誰一人そういった方がいらっしゃらないとは思いませんでした。長子相続が多いとは聞いていましたがこのような感じだとは思いもしませんでしたしね。


「そうでしたか。これは出店計画を練り直す必要がありますね」

「あのあの、それでしたら奴隷を買ってみてはいかがでしょうか?」


 出店を悩みだした私に受付のお嬢さんが慌てだしました。確かに店が増えるというのは商人ギルドにとっては重要な事柄でしょうしね。しかし……


「奴隷ですか?」

「はい。他国の方になじみは薄いかもしれませんがこの国では奴隷を使うというのは一般的ですし、奴隷の中にも料理の出来る人はいるはずです。命令は順守しますから初期投資は多いかもしれませんがワタル様の希望通りの人材が確保できるかもしれませんよ」


 全力でアピールしてくるお嬢さんを笑顔でかわしつつ考えを巡らせます。ギルドに来るまでに通った店では普通に獣人の奴隷の方が働いていました。住人もそれを特に忌避するわけでもなかったように感じますし案外良い案なのかもしれません。

 この国を理解するためには奴隷を理解する必要がありそうですしね。一度実際に売買されている現場を見るという経験も必要でしょう。

 手を合わせてこちらを拝むようにして見つめる受付のお嬢さんを真剣な表情で見つめます。不安そうにふるふると震える様子は子犬の様です。面白い方ですね。受付には向いていないような気もしますが。


「奴隷を買ってみようかと思いますので紹介状を書いていただけますか?」

「は、はい!」


 慌てて奥へと小走りで向かい途中の机に引っ掛かって転びそうになっている受付のお嬢さんを微笑ましく見守ります。性格は良さそうな方ですがビジネス相手としてはいつか致命的なミスをしそうです。次回ギルドに来るときは別の窓口にしましょうと心の中で誓いました。


 少々長い間待たされましたのでミウさんと雑談して待っていたのですが、どことなく歯切れが悪く感じました。確かにギルド内には私たち以外に数名しかいませんし、新参者が珍しいのかちらちら探るような視線を感じますので仕方がないのかもしれません。

 しばらくしてこの町にある奴隷商会の全てへの紹介状を受け取った時はため息が出そうになるのを我慢するのが大変でした。確かにこれならすべてを回ることが出来ますが、奴隷を買う目的を教えたのですからある程度絞ることは出来るはずです。それをするのがギルドの仕事だと思うのですがね。

 まあ今回に限ってはある意味で都合が良いのかもしれません。


 感謝を伝えギルドの外へと出ます。奴隷の商会は1か所に集められており、港の倉庫街に近い場所にあるそうです。あの不衛生な状態で町を歩かせるわけにはいかないから当然かもしれません。

 改めて奴隷の方々の様子を眺めながら来た道を戻っていきます。確かに意識してみると獣人の奴隷の方が普通に店で働いていたりしますね。こういった労働力があるからこそ定期的に戦争を起こそうなんて考えるのかもしれません。

 それにしても……


「どうかされましたか?」


 先ほど商人ギルドを出てからミウさんがどことなくよそよそしいというか口数が少なくなってしまいました。確かに当初は奴隷を買うなんて言う話ではありませんでしたしね。もしかすると女性が奴隷商会に行くということはあまり好ましくない行動なのかもしれません。

 普通ならギルドで注意を受けるのでしょうが、あの受付のお嬢さんなら忘れている可能性もありますね。


「もし奴隷商会へと行くことがお嫌でしたら宿を取って休んでいただいていても……」

「いえ、大丈夫です」


 私の言葉を遮りきっぱりと断ったミウさんの様子はやはりどこかいつもと違っています。おそらく現在船に乗っている方々の中でアル君を除けば料理などで一緒になることも多いため一番長い時間を過ごしているはずです。ですので様子がおかしいとはわかるのですがその原因がはっきりしないことが無性にもどかしく感じます。

 しばらく無言の時が続きミウさんがぽつりと呟くように言いました。


「やはり男性はああいった方が好ましいのでしょうか?」

「ええっと、どういう事でしょうか?」

「いえ、先ほどの受付嬢の方を見るワタル様の目が優しかったので少し気になりまして」


 一瞬聞き間違いかと思いましたがそんなことはありませんでした。少し顔を背けながら言うミウさんの姿は可愛らしく、思わず笑みが浮かびます。そういえばミウさんがこんなに私的な話をしてきたのは初めてかもしれません。フォーレッドオーシャン号にはエリザさんがいましたから、そこから離れてメイドのミウさんではなく素のミウさんが顔を覗かせたのかもしれませんね。


「人の好みは千差万別ですので何とも言えませんが、確かに庇護欲を誘いそうな方でしたね。ああいったタイプの方が好きな人も多いかもしれません」

「そうですか」


 特に表情も変えずミウさんが返事をしました。まあ蛇足かもしれませんがちょっと付け足しておきましょう。


「私個人としてはご遠慮願いたいですがね。孫を見ているような気持ちにはなりましたが恋人としてはどうかと。まあ、私のような年寄りがそんなことを言うのはおこがましいかもしれませんがね」


 正直な気持ちを冗談めかして伝えると、ハトが豆鉄砲をくらったような顔をしたあとミウさんが吹き出しました。


「何を言っているんですか。孫はさすがに彼女に失礼ですよ。ワタル様はまだまだ若いんですから」

「ふふっ、そうですね」


 そういえば若返っているのですよね、体は。どうしても意識がまだそこに追いつかない時があるのです。実際はもう60を超えているのですから私にとってはやはり孫にしか感じられません。まあ、子供どころか嫁さえいないのですけれどね。

 それにしてもミウさんが元に戻ったようで良かったです。一緒にいて心地よいと感じる異性は希少ですしね。良い関係を築いていきたいものです。


「もしお付き合いするならミウさんのような方が良いですね」

「っ!!」


 ぽろっと出てしまった本音にミウさんの顔が真っ赤に染まるのを見て自らの失敗を悟ります。自分の顔が熱くなっているように感じますから私も同じような色に染まっているのでしょう。

 ええっと、どうしましょうかね。ビジネスの経験はそれなりにありますが、恋愛とはかなり縁遠い人生でしたから対処法が思いつきません。仕事と海ばかりでなくもう少し恋愛についても経験しておくべきだったかと後悔の念がよぎりますが、何の解決にもなりません。

 そんな私の手をきゅっとミウさんが握りしめました。暖かく柔らかい感触に心臓が跳ねます。


「本気にしてしまいますよ、旦那様」

「ええっと……はい。本気にしていただければ私としては幸いです」

「ふふっ、何ですかそれは」


 ミウさんの顔が楽し気に揺れます。その美しい姿に目を奪われてしまいます。世界がその一瞬で変わってしまいました。そして自覚します。自分がいつの間にかミウさんに惹かれていたことを。

 握られた手を握り返します。そんな私を見てミウさんが微笑みました。その表情からは負の感情は感じられませんでした。支離滅裂になりそうになる思考の中でこれだけはしなければと意識を集中させます。


「結婚を前提にお付き合いしていただけませんか、ミウさん」

「はい。末永くよろしくお願いいたします、ワタルさん」


 こうして私の情けなく格好の悪い初めてのプロポーズは成功したのでした。

役に立つかわからない海の知識コーナー


【もやい結び】


船とは切っても切れない関係にあるのがロープワークであり、その代表格兼基本となるのがもやい結びです。

手順が比較的簡単で確実、汎用性も高い結び方で引っ張られたとしても輪にした部分の大きさが変わらず、固くしまっても簡単に解くことができます。

ヨットの艤装や人命救助、命綱などにも使用されるためいかに早く確実にこれが出来るかと言うことが重要です。


***


予想通りというかブクマと評価がはがれました。船の話を書くなら避けては通れないと考えて書きましたがやはり奴隷は重いのかもしれません。私の力がないだけとも言いますが。

好まれない方は申し訳ありません。悲惨な結末にはならないはずですのでお付き合いいただければ幸いです。

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シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
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少しでも気になった方は読んでみてください。

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