表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/161

Flag72:出店について話しましょう

 皆が驚く中、最も早く正気に戻ったのはミウさんでした。


「なぜルムッテロの町ではなくランドル皇国なのでしょうか?環境としては知り合いもいるルムッテロの方がよろしいのでは?」

「ミウの言う通りです。それに今のランドル皇国は危険です。何が起きているのか私でさえわからないのですよ」


 ミウさんの言葉にエリザさんが同意します。エリザさんだけでなくマインさんやユリウスさん、トッドさんも言葉はありませんがうなずいて同意を示しています。ガイストさんたちは多少心配そうにしていましたが私と視線が合うと笑みを浮かべました。私の思う通りにすれば良いと言っていただけたようで自然と私も微笑み返します。その信頼がとてもありがたく、そして私の背を押します。


「確かに商売として利益を上げるという面で見ればルムッテロの方が良いでしょうね」

「なら……」

「誤解があるようですので断っておきますが、私は飲食店を出すつもりですが自ら経営をするつもりはありませんよ」

「んっ、どういう事だ?」


 聞き返してきたマインさんだけでなく他の面々についても良くわかっていない顔をしています。うーん、あまりこちらではなじみのない考え方なのでしょうか?


「私がするのは飲食店を経営したい人への出資と調理方法などについての指導などだけで実際の経営はその人にお任せします。もちろんある程度のルールは作らせていただきますがね。後は定期的に経営状況の確認をしに行き、売り上げの一部を私に配分していただくという形を考えています」

「それは大丈夫なのですか? 売り上げを持ち逃げされたりすることも考えられるのでは?」


 おや、トッドさんはこういった方面にも知恵が働くようです。もしかすると商人に向いているのかもしれませんね。商人らしい駆け引きはアリソンさんとの交渉を見る限り疎いようですが、初めて聞くことに関してリスクをしっかり考えられるというのは……そういえばユリウスさんの補佐で色々とフォローしていたのでしたね。兵士なのですしリスク管理は得意なのでしょう。環境が人を育てたのかもしれません。


「はい、もちろん考えられます。むろんそんなことがないと思える人材を探すために面接は行いますが誰しも魔が差すということは考えられますから」

「それを超える利益があると?」

「はい。まず私の拘束時間が少なくて済むということが第一です。開店までこぎつければ後は手を離れますからね。その地に根をおろしてしまえば受ける制約もあるでしょうし危険もあるでしょうがこの形態ならそのリスクは最低限に抑えられます。今回のことを試金石として同様の店舗を各地に増やすことが出来れば様々な町に拠点を作ることも出来ますしね。それはお金よりも大きな利益になります。さて、その利益とは何でしょうか?」


 子供たちが退屈そうにしていましたので趣向を変えて質問形式にして、あくびをしていたハイ君を指さします。ふるふるっと左右を見てから自分のことを指さすハイ君に君ですよという意味を込めてうなずいて返します。せっかく話を聞いているのですから自分で考える力をつけてほしいですしね。別に正解なんて求めてはいませんし。


 ハイ君がむむむっと考え込む様子を見てホアちゃんやアル君も考え始めたようです。しかし答えが出てくる様子はありません。さすがに題目が難しすぎましたかね。


「子供組は相談しても良いですよ。大人は自分で考えてくださいね。後で当てるかもしれませんよ」


 半分冗談だったのですがその言葉に子供たちがわいわいと話す横で大人たちも真剣に悩み始めました。特に必死になっているのはマインさんですね。子供たちに良いところを見せたいのかもしれません。一方で特に様子の変わらないのはミウさんです。視線を向けると無言で微笑まれました。ミウさんは既に気づいているようです。

 5分程度経ったでしょうか。ハイ君がゆっくりと手を上げました。少々自信なさげです。


「ハイ君、どうぞ」

「ただで美味しい食事が食べられる、とか?」

「……」


 ハイ君の目を見たまま溜めます。皆の注目が集まり、あまりの静けさにハイ君がごくりと唾をのむ音が聞こえてきそうなほどです。


「惜しい!」

「えー、まじかよ。結構自信あったんだけどな」


 どうやらアル君の意見だったようですね。ハイ君とホアちゃんがどういう意見を出したのかも気になるところです。子供は時に斬新な意見をさらっと言いますからね。機会があれば聞いてみましょう。今ここで聞いてしまうのはせっかく話し合って決めた子供たちの努力を無にしてしまうようなものですし。


「それも1つの楽しみではありますけれどね。その土地ごとの特色ある食材を新しい調理法を知った料理人がどう扱うのか。新しい料理が生まれるでしょうし、それ目当てで町を回るというのも楽しいかもしれません。ただその時はお金はしっかりと払いますよ。それが料理を作ってくださった方への礼儀ですからね。正解ではありませんが不正解とも言えませんので、残念賞としてこれをあげましょう」


 ポケットから取り出したフルーツ味の飴を3人に配ります。子供たちは残念そうにしながらもどこか満足そうに受け取った飴をほおばりました。子供たちの成長を考えるとこういった機会をこれからも積極的に作っていくべきかもしれませんね。後で相談してみましょう。


「さてと……」


 次に当てる人を考えながら見まわすとマインさんと目が合い、そしてその目が泳いでいきました。思いつかなかったのですね。こんなことで父としての尊厳を損なうことはないと思いますがわざわざ当てる必要もありませんので視線を外します。小さく安堵のため息を吐く姿は人間味に溢れ、いつものマインさんとは少し違った父としての姿に好感を覚えました。

 正解を聞くのであればミウさんに聞けば良いのでしょうがそれももったいない気がしてきます。他に誰かいないかと探しているとエリザさんが手を上げました。別に手を上げる必要はないのですがハイ君につられたのですかね。


「どうぞ、エリザさん」

「ブランド力でしょうか。同じ名前の店舗にすることである一定の品質があると周知することが出来るでしょうし。飲食店では聞いたことがありませんが海運の商会などと同じと考えると一定の効果はあると思います」

「うーん、それもある意味で正解ですね。この考え方の根本にはそれが入っています。ただ今回の利点ではありませんので残念賞です」


 エリザさんへ子供たちと同じように飴を渡します。難しい顔をしながらエリザさんが受け取ったところを見るとそれなりに自信があったのかもしれませんね。

 確かにエリザさんの考えはフランチャイズというビジネスモデルの根源です。個人がただ単に開業するよりもフランチャイズとして開業して企業が蓄積した一定のビジネスノウハウを身につけ、そのブランド力とマーケティング力を武器に運営した方が初期から安定した経営を期待できます。企業の知名度が向上すればするほどそれは顕著になりますしね。企業側にもリスクを抑えつつ収益が上がると言うメリットもありますし。まあ問題点も多いのですがね。

 まあ今回の場合はフランチャイズとは似て非なるものですから。そもそも私個人の金銭面での負担が大きすぎますしね。


 少し待ってみましたが特に他の方が手を上げることはありませんでした。あまり長くなってもだれてしまいますしここはミウさんにお願いしましょう。ミウさんと視線を合わせ軽く頭を下げます。こくりとうなずいたミウさんが手を上げます。何というか律儀ですね。


「ミウさん、どうぞ」

「はい。ワタル様の言う利点とは情報ではないでしょうか?」

「ミウ。ワタルさんは商人ギルドに入っているのだからギルドから情報は得られるでしょう?」


 ミウさんに何を言っているの?と言わんばかりの顔でエリザさんが聞き返します。確かにエリザさんのいう事はもっともなのですがね。


「ミウさん……正解です。景品として飴を10個プレゼントしましょう」

「ありがとうございます」

「えっ?」


 飴を取り出す私とそれを恭しく受け取るミウさんの様子をエリザさんが納得のいかない様子で見ています。若干頬が膨らんでいるように見えますね。


「どうしてですか?」

「エリザさんが言ったように商人ギルドで情報は集められます。ただそれはあくまで情報の一部です。自身で集めると言う方法もありますがたまに来る来訪者に有益な情報を話してくれる方はなかなかいません。そんなときに拠点があれば簡単に情報が手に入りますからね。その店は地元に根付いているのですから」

「確かに複数の情報元を持つというのは重要だ。そうだな、トッド」

「はい」


 軍に所属していたユリウスさんとトッドさんは情報の大切さを理解しているようですね。まあ戦争は情報戦でもありますから定期的に戦争をしているような国の軍人であれば身に染みているのかもしれません。


「ルムッテロについては知り合いも多いですからわざわざ拠点を作る必要もありませんしね。という事でランドル皇国に飲食店を出そうかと考えたわけです。まあ様子を見て危なさそうならすぐに帰ってきますよ」


 そう言って話を締めくくり食事を終えました。皆が部屋や海へと帰っていく中、ミウさんと2人で食器などを片付けにギャレーへと向かいます。

 私が洗い物をし、それを受け取ったミウさんが軽く水分を拭き取って食器を戻していきます。この流れももう慣れたものです。

 洗い物が全て終わりタオルで手を拭いているとミウさんがじっと私を見つめていることに気付きました。洗っている最中も何か話そうとしていましたから気にはなっていたのですが。


「どうされましたか?」

「先ほどの飲食店の目的。情報が欲しいと言うのは本当でしょうが真実ではないのではないでしょうか?」


 真剣な表情でそう言ったミウさんに私はニヤリとした笑みを浮かべるのでした。


役に立つかわからない海の知識コーナー


【マリーナ】


ヨットやモーターボートなどの小型船舶の停泊所のことです。規模や立地条件によっても変わりますが大抵はクラブハウスや給油設備、修理ヤードを併せ持っており、場所によっては宿泊施設やプール、テニスコートなどもある場所もあります。

船を水の上に浮かべバース(桟橋など)にロープで繋ぎ止めて保管する係留型と陸上で保管する陸置型に分けられます。


***


評価、ブクマいただきました。ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シンデレラが一人の女の子を幸せにするために奔走する話です。

「シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む」
https://ncode.syosetu.com/n0484fi/

少しでも気になった方は読んでみてください。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ