Flag71:今後について話しましょう
アリソンさんをルムッテロの町へと送り届け、その後精力的に動いているアリソンさんにたまに呼び出されて乗組員の面接に付き合わされたりしながら1か月ほど経過し、昨日やっとのことで初交易を行うことが出来ました。
海運を担当するのはノルディ王国に本店を置き、主に王国内の港の間を結んでいるモーリー海運商会です。この商会は私がお借りしているものよりも型は古いですがギフトシップの漁船を1隻保有しており、それを使用して交易を行うようです。
その船の船長ともお話しさせていただきましたが、寡黙で一言一言をしっかりと考えて発言されるような厳格で慎重な方でしたし、アリソンさんとも知り合いだったらしく太鼓判を押していましたので予定通りある程度の間秘密は保たれるはずです。まあいつかは漏れてしまうでしょうがね。
初回と言うことで私も後ろについていったのですが、未知のしかもキオック海と言うことで慎重ではあったもののその操船の腕は確かで文句のつけようもありませんでした。トッドさんとの交渉などについてはしばらくアリソンさん自らが行い、その後後任者を選定していくとのことでしたので問題なく交易は続きそうです。これで一安心ですね。
今までは私に何かあった場合、ユリウスさんたちの生活はもちろん、ローレライの方が望んでいる料理についても破綻してしまうという危険な状況でしたからね。リスク回避の意味も込めてこの交易が始まったということは大きいです。まあそれ相応にリスクは発生しますがそれらは表裏一体のものですから仕方がありません。
しかしこれで私がある程度自由に動けるようになりました。もうしばらく時間に猶予はあると予想していますがそろそろ動き出した方が良いでしょうからね。大きな変化の足音が聞こえるのならばそこに商機は必ずあるのですから。そしてそれは私の目的にも合致するでしょうし。
そんな訳もあり本日の夕食にはいつものフォーレッドオーシャン号に乗っているメンバーの他にユリウスさんやトッドさん、ガイストさんとリリアンナさんも招待しました。今後のことについて話すとは伝えてありますが内容については聞かれても秘密ですと答えていましたのでどんな反応があるか楽しみですね。
ガイストさんとリリアンナさんがいらっしゃいますので食事をとるのは2階後部にある屋外のデッキになります。さすがに海に最も近い後部デッキに机を運んでと言うのは人数の関係上難しいですしね。私を含め11人がソファーや持ち込んだ椅子に座って歓談している姿を見るとフォーレッドオーシャン号が自分の本来の姿を取り戻して喜んでいるように思えますね。
テーブルには私とミウさんが腕を振るった料理がところ狭しと並んでいます。特に理由も話さない私に対して文句も言わず料理を手伝ってくださったミウさんには感謝しかありません。
そのミウさんが全員分の飲み物を配り終えました。アル君を始め数名の方の目が料理へと釘付けになっていますしそろそろ始めましょうか。
「みなさん、お集まりいただきありがとうございました。最近の懸案となっていた交易についても目途が立ち先日初めての取引がうまく成立しました。このことによって……」
そこまで話して言葉を止めます。アル君を始め子供たちのまだ?と言う視線が突き刺さったということもあるのですが、ユリウスさんからも同種の想いのこもった視線の圧をひしひしと感じられたからです。子供たちに勝るとも劣らないその視線に内心で苦笑しつつ考えを改めます。
「食事の前に話をするのは無粋ですね。せっかくの食事も冷めてしまいますし。それではどうぞお召し上がりください」
わっ!と言う歓声が子供たちからあがり、各々が食前の祈りやいただきますなどといったりしながら食事を始めます。非常に楽しんでいるようで幸いですが、本当に話については食後しか無理そうですね。この状態で話しても右から左へと抜けて行ってしまうでしょうし。
それでは私も食事を楽しみましょうかね。視線の合ったミウさんと笑いあいそして私たちも食事を開始するのでした。
用意した食事がすべて綺麗に片付き、子供たちがお腹を丸くして幸せそうな顔で転がっています。まああれだけ食べれば当たり前ですが。後で胃薬を出しておいた方が良いかもしれませんね。大人組は1人を除いてある程度落ち着いて食事をとっていましたし、その1人であるユリウスさんもまだまだ食べられそうな感じでしたので話をするのに問題はありません。
食器を片付けて綺麗になったテーブルの上にミウさんが飲み物を配っていきました。さて始めましょうかね。
「それでは落ち着きましたので今後のことを話させていただきます」
首を左右に振り、全員の注目が集まっていることを改めて確認します。そして1度うなずいてから話し始めます。
「今後のことと言いましたが皆さんはしばらくこの生活を続けていただく予定です。交易も始まったばかりですし、まだまだ生活も安定しているとは言い難いですからね」
「皆さんということはワタルさんは何かされる予定なのですか?」
そう聞いてきたエリザさんの言葉に微笑みながらうなずき返します。
「ええ。私は港に店を出すつもりです。お金もだいぶ貯まってきましたし、今後の収入の目途も立ちましたからね」
オットーさんとの生地の大取引のおかげでかなりの金額を受け取りましたし、取引自体も継続していますのでそれなりにお金は貯まっています。アリソンさんから提示されたおおよその私の取り分についても予想をはるかに上回るものでしたからね。
まあアリソンさんの金額については現在のほぼ手に入ることが無い状態での金額ですので定期的に手に入るようになった今後は金額が落ちていくでしょうがそれでも希少であることは変わりませんししばらくは大丈夫でしょう。
「それはおめでとうございます。どんな店にするのですか?」
「そうですね。今のところ甘味処もしくは食事の出来るレストランを想定しています」
「そうなのか。てっきり海運関係の商会かと思ったのだが」
不思議そうに聞いてくるユリウスさんへと首を横に振って応えます。それが出来れば一番良いのかもしれませんがさすがに難しいですしね。
「フォーレッドオーシャン号を寄港することは出来ませんしね。これだけの船です。騒動に巻き込まれることは火を見るより明らかです。ガイストさんたちにお借りしている漁船で行うことも不可能ではありませんが、1隻のギフトシップのみで始めるのは難しいでしょうね。既に同じような海運商会はありますし」
モーリー海運商会もギフトシップを保有していましたし、ガイストさんに以前聞いた話の通り思ったよりも多くのギフトシップがこの世界にはあるのかもしれません。ギフトシップを持っていることは強みではありますが、一般的な大きさである漁船を使って会社として利益を上げるためには営業などを本気でかけないと駄目でしょうし。
そこまでするつもりはありませんしね。
「おっちゃんの飯はうまいから絶対客が来るぜ」
ハイ君とホアちゃんが同意するようにうんうんと首を縦に振っています。そう言っていただけるのは光栄ですが私はちょっとした調理法を知っているという事とフォーレッドオーシャン号の多種の調味料のおかげでもあるのですがね。実際ミウさんの料理も美味しくなったとエリザさんが言っていましたし。
「特に反対意見はありませんか?」
全員を見回しますが特に反対はなさそうですね。
「ではランドル皇国へ飲食店を出します。しばらく私が不在であることが増えると思いますがよろしくお願いしますね」
私の言葉に唖然としている皆さんの顔を眺めながらいたずらが成功したことに漏れそうになる笑いを堪えるのでした。
【お知らせ】
毎日更新を続けてきましたがそろそろ無理かもしれません。なるべく続ける予定ですが予告なく投稿がない日が出るかもしれません。
そんな時は、あぁ、遂に無理だったんだなと笑ってやって下さい。そうなっても完結まで更新は続けますのでご安心を。
それでは今後ともお付き合い宜しくお願いします。




